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昭和恐慌下、民衆が困窮を極める中、政党政治の腐敗を憂える海軍青年将校らが起こした五・一五事件。首相を暗殺し、内大臣邸・警視庁を襲撃、変電所爆破による「帝都暗黒化」も目論んだ。本書は、大川周明、北一輝、橘孝三郎、井上日召ら国家主義者と結合した青年将校たちが、天皇親政の「昭和維新」を唱え、兇行に走った軌跡を描く。事件後、政党内閣は崩壊し軍部が台頭。実行犯の減刑嘆願に国民は熱狂する。昭和戦前、最大の分岐点。
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Posted by ブクログ
内容の濃い1冊で1度で理解するのは難しかったです。日本が戦争に突入していく過程としてこの事件は習うものの、本書を読むと大正から続く流れであることがよく分かります。
五・一五事件。青年軍人たちが首相官邸へ突入。「話せばわかる」と冷静に説得を試みる犬養毅首相を銃殺。この事件を発端に日本は政党政治が終わり、軍部主導政権のこと、戦争へ突っ走る。 青年軍人たちによる現役首相の殺害という大事件の割には歴史的注目度が低い気がしていたのだが、本書を読んで、その理由がなんとな...続きを読むくわかった。それは本事件があまりにずさんで計画性がなく、首謀者のバックボーンに深みがないからだろう。 過激青年たちの若気の至りにすぎない事件だが、問題はこの事件を軍部がうまく利用してしまったことだ。事件をきっかけに軍部は政党政治がいかに醜悪で金権的であるかを積極的にアピール。犬飼首相をテロに倒れた不幸な英雄ではなく、殺られるべく殺られてしまったという世論にしてしまった。犯行者たちは同情され、一人も死刑にならなかった。それどころか、出獄後に政治活動をする者もいた。 こうした軍部の暗躍の結果、軍人が首相の地位を独占することになる。
2.26事件にならんで著名な5.15事件。が、2.26関連本が山ほどあるのに対し、こちらはそうでもない。本書はその欠落を埋めるもの。筆者は日本史の研究者だが、ノンフィクション的な筆致も随所に採用されていて、読み応えがある。第1章で事件当日の動きを詳細に描いたのち、事件前→事件後に進む構成も面白い。関...続きを読む連して発生した血盟団事件についても触れられている。 興味深いのは、関係者が出獄後もかなり「活躍」していたことだった。この点は、首謀者の大半が処刑された2.26との大きな違いだろうか。戦時期に東條倒閣工作に関与したり、戦後も密輸をしたり、選挙に出たりといった具合であるが、吉田、中曽根、細川など歴代内閣の指南役にまでなった人物もいたことには、日本政治の闇が垣間見えて、寒気を覚えた。
二・二六事件と比べ作品の少ない五・一五事件。現役首相が現役軍人に殺害された事件の全容を明かす良作。 1932年(昭和7年)、日本史の教科書で必ず出てくる海軍青年将校が首相官邸を襲撃し犬養毅首相を殺害した事件。政党政治の終わり、と試験対策で覚えたが事件の詳細は知らなかった。 本書は事件の当日を詳述...続きを読むした第1章にはじまり事件の背景、事件後の政党政治の終焉、法廷闘争そして当事者たちの戦後という構成。倒叙形式のミステリーのように読み始めからグイグイと書に引き込まれる。 本書の目指したテーマは、以下の3つ。 1.海軍青年将校どうして事件を起こしたのか。 2.なぜ政党政治は終わったのか。 3.なぜ国民の多くが青年将校たちに同情し、減刑を嘆願したのか。 被告たちの動機の純粋さを利用して国民感情を守り立てる陸海軍。動機がテロ行為を正当化し、実行犯を英雄視するところは、昨今の半島を彷彿させる。どこか同じ東アジアの民族の遺伝子があるのだろうか。 筆者は昭和51年生まれ。いつの間に、こんな世代が昭和史の研究分野の第一人者となっている時代。 圧倒的な事実の前に息をつかせぬ展開。入手しやすい新書として屈指の出来であるように思う。 相変わらず中公新書特に歴史部門は熱い!
海軍青年士官たちにより首相暗殺。政党内閣の終焉をもたらしたテロ事件ではあるものの、その全容は一般には知られていない「五・一五事件」の計画から実行に到るまでの動きと、事件後の政党軍部宮中といった諸勢力の激しい鍔迫り合いの末に政党政治が終焉を迎えるに至った経緯を明らかにする。 読後、戦中戦後を通して純粋...続きを読むであることを貫き通した三上と老練狷介さを以て五・一五事件後の政局で暗躍した森恪の対照的な人物像が印象に残る。 本事件を単体で取り上げた一般書が皆無な中、本書の刊行は一読者としては本当に嬉しい限り。
コンパクトにまとめられていて、読みやすかった。 事件後の裁判、その後のこともよくわかった。 三上卓って釈放され、懲りもせず東条首相も暗殺しようとしたとは。
血盟団事件の時も感じたが、行動力のある馬鹿ほど恐ろしいものはない。警視庁での乱闘計画(不発)等はよくできたコント、今舞台で実演すれば間違いなく爆笑ものである。 民間の狂信者であった血盟団はともかく、軍人としてのエリート教育を受けたはずの五一五の連中が、何故これほど杜撰極まりない計画で国を左右できると...続きを読む考えたのか、本書を読んでもまだ理解できない。
目次 はじめに 第1章 日曜日の襲撃—1932年5月の同時多発テロ 第2章 海軍将校たちの昭和維新—国家改造と軍縮条約 第3章 破壊と捨て石—クーデターからテロリズムへ 第4章 議会勢力の落日—何が政党政治を亡ぼしたか 第5章 法廷闘争—なぜ被告は減刑されたか 第6章 さらに闘う者たち—元受刑者たち...続きを読むの戦争と戦後 あとがき 本書は「五・一五事件」の詳細とその思想的、社会的背景を跡づけたものである。 第一に、なぜ海軍青年将校たちは事件を起こしたのか。昭和維新を断行するという思想醸成の背景には昭和恐慌という経済的危機があったことは間違いないが、北一輝・大川周明らの革新思想、権藤成卿・橘孝三郎らの農本思想、井上日召らの直接行動論などがあった。それらに影響された「忘れられた青年将校」藤井斉の存在も大きかった。またしばしば一括りにされるこれらの右翼思想は決して一枚岩ではなかったことは、二・二六事件との性格の違いや後々の近衛新体制運動の結果としても表れている。 第二に、なぜ政党政治は終わったのか。首相が暗殺されたケースは原敬、浜口雄幸があったが、いずれも「憲政の常道」にしたがい、高橋是清、若槻礼次郎が後継内閣を率いた。犬養暗殺後は政友会の鈴木喜三郎に引き継がれずに齋藤眞が挙国一致内閣を率いることになった。これはなぜか。元老西園寺公望も当初は鈴木内閣を想定していたが、直前に変心があった。著者はここで昭和天皇の存在をクローズアップする。また政友会の森恪の動向にも強く目を向けている(著者は森恪の本格評伝も著している)。 第三に、なぜ国民は海軍青年将校たちに同情し、減刑を嘆願したのか。またそれは判決に影響を与えたのか。結論から言えば、減刑嘆願運動高揚の背景として「特権階級」への憤り(ヒーロー待望の大衆社会的状況の現出)、海軍内の政治的策動(条約派と反条約派の対立)などがあったと著者は論じている。 著者は「あとがき」で「「五・一五事件」は歴史となった。」と書いている。二・二六事件と違って関係者の多くが遺族も含めて戦後長く生きたことで逆に「歴史」になるのが遅かったという意味である。「五・一五事件」をきちんと理解することが難しいのはそういった事情もあったわけだ。
革命・維新の影にはいつも純粋無垢な若者達の存在がある。社会への強い憤り、抑圧され行き詰まったやり場の無い熱い想い。それ以外の手段が無いと決め打ち、更には死をも共にする事を約束・覚悟した仲間同士の団結。その様な先にあるのは社会の潮流を大きく変える事件と、それに伴う誰かの死だ。 昭和初期に発生した五・一...続きを読む五事件は、良く知られる陸軍軍人が起こした二・二六事件と良く比べられ、かつ同事件への道筋を作ったと言われる、海軍軍人主体の事件だ。そこには前述した様な熱を帯びた若者達の気持ちがある。社会は犬養毅首相の強権的な政治手腕によって次々と施策が遂行され、国家全体が変わりゆく中で、農村は置き去りにされていく。おりしも世界恐慌の煽りと経済政策の失敗はそうした農村部を完全に置き去りにすると共に、食うにも困り娘を売り払う事態まで引き起こす。更には世界的な軍縮の波の中で軍艦保持対英米7割の維持すらも難しく、そのまま行けば軍人はやがて用済みになる。この様な背景で軍人達が政党政治の失態を許すはずもなく、熱気を帯びた若者達が立つ理由はいくらでもあった。五・一五事件を表面から見ると、概ね教科書からはその様なレベルでしか学んでこなかったが、そこに登場する人物、出来事を一つ一つ丁寧に紐解き、事件発生までの道のりを明らかにする様に、また束ねていく。そして事件後、また再びそれに関わった人物のその後の人生、事件によって変化する社会について、今度は結んだ紐がまるで解けていく様にそれぞれの紐の先を解説していく。本書はその様な表現が相応しい。 事件を引き起こした海軍将校達はその後も後進の育成に政治に力を注いでいく。彼らが倒したかった政党政治は天皇親権の実現とまでは至らないものの、その後は軍部を中心とした政治体制へと変わっていく。更にはそれがその後の日本を太平洋戦争へと導き、敗戦、奇跡的な経済復興を経て、結果的には現代の日本へと続いていく。彼らが犬養首相に放った銃弾が全てを変えたとは言えない。彼らも首相への個人的な恨みがあったわけでは無い、と言うのは真実かどうか分からないにしろ、間違いなくその後の歴史の流れに少なからず影響は及ぼしたはずだ。そしてこうして書籍の中にまた蘇る。 彼らが正しいか間違っていたかではなく、確かに熱い想いに突き動かされ、行動を起こした若者がいた事を現代の私たちは忘れかけてはいないだろうか。政治は偉そうな老人達(悪意は全く無い)に任せて、私利私欲だけで生きていたりはしないだろうか。戦後80年足らず、事件からもたかだか100年しか経っていない。流石に関係者は大半が鬼籍に入ってしまったであろうが、そのDNA・精神まで失ってはならないと強く感じた一冊である。 日本の戦前戦後の政治や世の中の流れを俯瞰するにも、こうした歴史上の事件一つにフォーカスして背景・原因を追っていく事で、たくさんの学びにつながると感じた。
五一五事件が、以後の日本に重大な影響を与えたにも関わらず、わかりにくい、二二六に比べて被告達の刑が軽い等、謎な事件だが、当時の政党政治の行き詰まり感が強く、それが事件の深刻さを恰も軽減してしまっているように感じた。
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五・一五事件 海軍青年将校たちの「昭和維新」
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小山俊樹
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