五・一五事件。青年軍人たちが首相官邸へ突入。「話せばわかる」と冷静に説得を試みる犬養毅首相を銃殺。この事件を発端に日本は政党政治が終わり、軍部主導政権のこと、戦争へ突っ走る。
青年軍人たちによる現役首相の殺害という大事件の割には歴史的注目度が低い気がしていたのだが、本書を読んで、その理由がなんとな
...続きを読むくわかった。それは本事件があまりにずさんで計画性がなく、首謀者のバックボーンに深みがないからだろう。
過激青年たちの若気の至りにすぎない事件だが、問題はこの事件を軍部がうまく利用してしまったことだ。事件をきっかけに軍部は政党政治がいかに醜悪で金権的であるかを積極的にアピール。犬飼首相をテロに倒れた不幸な英雄ではなく、殺られるべく殺られてしまったという世論にしてしまった。犯行者たちは同情され、一人も死刑にならなかった。それどころか、出獄後に政治活動をする者もいた。
こうした軍部の暗躍の結果、軍人が首相の地位を独占することになる。