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アメリカに渡ったイフェメルは、失意の日々を乗り越えて人種問題を扱う先鋭的なブログの書き手として注目を集める。帰郷したオビンゼは巨万の富を得て幸せな家庭を築く。波瀾万丈の物語。
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Posted by ブクログ
ラブストーリー。 その中にハッとさせられる人種差別のことが盛り込まれている。 「あなたが「肌色」という色調のバンドエイドが自分の肌の色ではないことを知っていますか?」 人種差別がこんなに複雑だなんて知らなかった。 今まで何も知らなかったんだな(恥)
去年『なにかが首のまわりに』で初めてアディーチェという作家を知り、この『アメリカーナ』で彼女の著作を二作読んだことになります。 そして思うのは、この人の視点とそれを表現する感性はとても瑞々しくて、読めば読むほど自分の中に新しい風を吹き込んでくれるということです。 『なにかが首のまわりに』『アメリ...続きを読むカーナ』ともに、黒人差別が物語の大きなテーマとなります。黒人差別を描いた小説や映画は、自分も今までいくつか触れてきました。 そして思うのは、それらの作品は人種差別の悲劇や苦しみや怒り、あるいはそれを乗り越える人間の強さというものを、表現していたということです。 そうした作品ももちろん素晴らしいのですが、作品に込められた熱量があまりにも熱くて、差別は許せない、絶対いけない、であるとか、人の強さに感動したりということは多々あるものの、 そこから差別を自分の身近に考えることができずに終わることもよくあったと思います。多分そうした熱量の物語を観る、読むだけで自分のキャパはいっぱいになってしまうのだろうなあ。 それだけ、物語の熱量が熱いことには違いないのですが。 それに対してアディーチェは、アメリカ出身の黒人ではなくナイジェリア出身。解説によると19歳の時に渡米したそう。自らを「黒人」と認識しなかった祖国から、アメリカに渡った途端「黒人」とされ、様々な社会の壁にぶつかるという現実。 彼女はアメリカの国家や歴史に根づいた差別に対し図らずも、無垢な状態から飛び込むことになったのだと思います。 だからこそ、彼女の人種差別に対する視点はとてもフラット。人種差別の壁に対して過度に怒りを爆発させたり、嘆いたりするのではなく、彼女の作品の登場人物たちは、その壁に困惑し、立ち止まり、迷います。だからこそ、読者である自分も、作中の登場人物たちと同じように、立ち止まって、そうした問題の存在を、より身近に感じることができるのです。 さらにアディーチェ作品は、歴史や文化に埋もれ、自分たちには見えなくなってしまう壁を可視化すらさせてしまいます。下巻の中で印象的だったのは、主人公のイフェメルがアメリカのファッション雑誌に対しての矛盾をぶちまける場面。 だれにでもできるメイクアップの色を選ぶヒントとして、その雑誌は頬をつまみ、そのときに変化する肌の色を見ることを教えます。しかし、それは頬をつまめば色は変わるという前提の元で書かれていて、そこに黒人は含まれていない。 そのほかにも髪質や何気ない会話の節々といった文化的側面から、そこに当然のように含まれていない、あるいは過剰に特別扱いされている黒人たちの存在を明らかにしていきます。 この身近に埋め込まれた矛盾をつく視点は本当にすごい! アディーチェ作品は黒人差別を描くというよりかは、まるであぶり出しのように浮かび上がらせるのです。 さらに彼女は、アメリカに渡ることで、変わっていくアイデンティティに対する違和も描きます。イファメルが久々に両親と会う場面は、たまに実家に帰省する際の、どこか気恥ずかしい感じをより強くしたものと言えるかもしれません。 変わってしまった自分を、かつての自分を知る家族に見せることの決まり悪さ。これを描けるのも、またアディーチェの感性の瑞々しさを強く感じた場面です。そして、アメリカにいたからこそ感じることになる祖国に対しての違和もまた読ませる。 アメリカで様々な経験をして、祖国へ帰る決心をしたイフェメル。そこに待っているのは、かつて同じ夢を抱きながらも、別々の道を歩まざるを得なくなった元恋人のオビンゼ。 最終章に到り物語は、甘さと切なさを詰め込んだ恋愛小説の様相も見せます。正直恋愛ものは苦手なのですが、イフェメルとオビンゼに関しては、二人の様々な苦労を知っているからか、割と自然に読めたように思います。 そして、作品の引き際もちょうどいい。読んでいるうちに、ちょっとドロドロしたところも見え始めて「これは、どう決着をつけるのか」とハラハラしながら読んでいたのですが、ギリギリのバランスを保った落としどころだったと思います。 恋愛の酸いと甘い、ドロっとした苦さに、もう戻らない時を思わせる切なさ、これらをちょうどいいバランスで、ラストにこれでもかと詰め込むか……。もう帰ろうと思ったら、豪華な幕の内弁当を帰りがけに渡されたような、そんな感じです。 イファメルとオビンゼの苦労と感情をしっかり描いているからこそ、ラストにこうした畳みかけを無理なく詰め込み、恋愛のあらゆる要素を感じさせられる展開に持っていけたのではないかと思います。 人種差別というテーマを、いい意味でフラットに描き、登場人物の変化や成長もしなやかに描き、恋愛も甘く切なく、そして少しの毒を交えて描く。読み終えて改めて世界から評価された作品であり、そして作家であるという理由がよく分かります。 自分の中の好きな外国人作家となると、アガサ・クリスティーや、スティーヴン・キングといったビッグネームがまず挙がってくるのですが、このチママンダ・ンゴズィ・アディーチェも、これからはすっと挙がってきそう。 本当に去年『なにかが首のまわりに』を読めて良かったと思います。このことに関しては、自分で自分を褒めたい(笑)
ナイジェリアに住んでいるイフェメルとオビンゼの夢は、英米に留学すること。そんな二人は高校生時代からの恋人同士だが、イフェメルだけがアメリカに留学することになると二人の中にも溝ができて…。イフェメルはアメリカに留学してからというもの日々カルチャーショックに見舞われていく。その最大とも言えるのが、人種の...続きを読むるつぼとも言えるアメリカで自分が「黒人」であるということを発見していくことだった。やがてイフェメルは「非アメリカ系」黒人として、自分の思いをブログに綴っていく。オビンゼとの関係も断絶し、恋人もでき、順風満帆に見えた時、イフェメルは突然恋人を捨てナイジェリアに帰る決意をする。昔の恋人オビンゼに会うために…。 本作は全米批評家協会賞を受賞したアディーチェ作の恋愛小説。ただ、これを恋愛だけで終わらせないのが、アメリカの内部に潜む人種問題に鋭く切り込んだ一冊であるからだろう。 恋愛小説として読んでも勿論面白いし、現代アメリカの文化批判として読んでも面白い。良作だった。
ナイジェリア、イギリス、アメリカを往き来する現代の移民の性差や階級、差別に恋愛。 圧巻800ページの旅でした。
愛の物語であるとともに、 主人公の成長、 すなわちアイデンティティの確立が語られる物語。 なぜ二人は外国に行かなければならなかったのか。 純粋に愛し合い、魂も美しいというのに。 それは、国内にいたままでは 自分で立つことができるほどの力はなく、 やがてナイジェリアに飲み込まれてしまうことになっただ...続きを読むろうから。 それぞれが異文化の中で生きることで、 外国の醜さを感じつつも、 アメリカやイギリスという「個人」で生きることに触れて、彼らの魂も「自分自身」を形作っていくのだ。 やがて彼らは母国へと帰ることになるのだが、 それは敗北や逃避、あるいはただの郷愁ではない。 なぜなら帰国しても違和感を覚え続けたから。 それはアイデンティティが確立したからこそ、 もうナイジェリアという母性に飲み込まれることなく、 ひとりの人格として生きることになったからだろう。 美しい愛に、深みまで持たせた見事な物語。
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