ネタバレ
Posted by ブクログ
2020年02月09日
個人的に竹中さんは好きな学者さん(政治家というべきか?)。なので竹中さんの著書はこまめに目を通しています。
本書は飛鳥時代から昭和まで、日本のあまねく時代を巡ってその経済政策の特徴や卓抜さを説くことを意図しています。
が、実際のことろ経済政策らしい経済政策に触れているのは江戸時代、徳川吉宗以...続きを読む降ではないでしょうか。それまではどちらかというと政治(軍事も含む)の話が中心だと思います。
江戸時代に入ってからようやく具体的な金融政策や市場のコントロールといった話が出てくるので、経済らしい構成となります。ただ、どこまでが政治でどこからが経済なのかと言われると明確な定義は素人の私にはないわけですが。その後の明治時代、昭和においては政治と経済がミックスされた構成がさらに強まっています。こうなるともう表裏一体なのかもしれません。
本書の、とくに江戸時代以降に特徴的なのが、取り上げられる人物たちがどれも「はじかれ者」ばかりであり、ひょんな契機で歴史の表舞台に立った苦労人たち、ということです。
徳川吉宗は紀州徳川家の生まれで本来将軍とは縁遠い血筋の人間であったし、明治の後藤新平も凡庸な出自で出世街道が約束されていたわけでなく、そして池田勇人やその経済参謀たる下村治は大蔵省では落ちこぼれの部類に属していました。そういった人間たちが、本人たちの努力は言わずもがな、それに加えて偶然ともいえるきっかけで国家運営のかじ取りを任せられ、その上これを立派に果たしていく物語。見ていて確かに気持ちが良いですね。
これは筆者の思い入れによるのでしょう。竹中さんも和歌山県の小さな履物屋の次男坊として生まれ、大学も一橋大と決してエリートとは呼べない路線を歩んできた方。上記の傑物たちの歩んだ道と被るものを感じたのでしょう。
本書では限られた紙面で飛鳥時代から昭和までをたどっているので、その解説が表面的である印象は否めません。なので経済史の深い解説を期待している方にとっては望んだ内容ではないでしょう。逆に時代ごとの経済政策の概観を得たい人にとっては有意義な書だと思います。
個人的には、竹中さんによる「狭くて深い」続編を期待したい所です。