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成功した日本企業を特徴づける能力が「ダイナミック・ケイパビリティ(自己変革能力)」である。富士フイルム、ソニー、YKKなどの成功事例を通して、ダイナミック・ケイパビリティを解説。「日本企業が進むべき未来」を明らかにする。
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Posted by ブクログ
日本企業の成功の秘訣にダイナミック・ケイパビリティがあるが、日本ではなかなか浸透していない。変化対応的な自己変革能力のこと。日本人は真面目というか固いというか、集団から逸脱し難い同調圧力的傾向があり、イノベーションのジレンマに陥りやすい。だからこそ、意識的にもこの概念を実践していく必要があるというの...続きを読むが著者の主張だ。 事例を挙げながら、分かりやすく解説される。学びが多い。コダックはデジタルカメラの技術を開発していたが、デジタルカメラに移行することによって利益が減少するという状態にあった。富士フイルムも同様の状況にあったが、二社の明暗を分けたものは何か。他にも、任天堂とソニーの攻防について。 なるほどなと思ったのは、日本企業の変遷。1980年代の日本企業の強さの源泉は、ダイナミック・ケイパビリティ。しかしバブル経済崩壊後、日本企業をめぐって多くの不祥事や不正が明らかになり、その経営手法が厳しく批判された。その後日本企業は財務構造的にも弱体化したのだという。 特に最近の日本の製造業のデータの改ざんと言う不祥事。これはアメリカ流の株主主権論に基づく市場ベースのマネジメントに対して、日本の伝統的な組織ベースの生産システムとのミスマッチが限界に達していることの証左。 株主利益を重視するアメリカ流の経営パラダイムへとシフトせざるをえなくなった。対して、日本は人間組織的な生産システム。この2つが宥和的に結びつき、生産現場が合理的に不正を生み出さざるを得ないような状況に追い込まれているように思える。神戸製鋼や東洋ゴムは、経営陣たちの厳しい要求に対して現場が関係各所に迷惑をかけないように忖度したのだろう。これは人間関係上の取引コストが非常に高いためであって、企業の現場では合理的な判断だったと考えられる。 このような不正行為は確かに上からの命令に従った行為ではない。首謀者が不明な極めて日本的な不正。職務転換や配置転換で、新任者がこの伝統的な不正を認識していたにもかかわらず是正できなかったのも、それらを是正するためにいろんな人たちと交渉し説得する取引コストがあまりに大きかったため。彼らにとっては合理的に維持してきた結果。構造的、不条理に陥っている。 これらの理論は著者の『組織の不条理』でも述べられれため合わせて読むとより理解しやすい。取引コストの概念である。 取引コストを下げるためには、飲み会、社内イベント、上層部が現場に足を運ぶことが重要。しかし根本的な解決にはならない。株主主権論とのミスマッチを解消する必要がある。アメリカのような、ダイバーシティーの国では有効。共通のパラダイムの必要性があり同一化するために最もわかりやすい統一基準はドルであり利益だからだ。日本にはミスマッチである。 長くなるのでこの程度にするが、日本企業に必要な概念を、著者の研究の解説によって示唆する良著。少なくとも私には有益だった。
菊澤研宗先生の本は、本書含めて4冊程読んでいる。『組織は合理的に失敗する』、『戦略の不条理』、『なぜ「改革」は合理的に失敗するのか~改革の不条理』、そして本書である。 本書の副題にある「ダイナミック・ケイパビリティの経営学」とは、何か? この「ダイナミック・ケイパビリティ」の提唱者、デイビット・...続きを読むティース教授(UCバークレー)によれば、企業のケイパビリティ(能力)には ①オーディナリー・ケイパビリティ(通常能力) ②ダイナミック・ケイパビリティ(変化対応的な自己変革能力) の2つの種類があるという。 「変化対応的な自己変革能力」とは、『企業が環境の変化を感知し、そこに新ビジネスの機会を見出し、そして既存の知識、人財、資産(一般的資産)およびオーディナリー・ケイパビリティ(通常能力)を再構成・再配置・再編成する能力 (p.13)』とある。 詳説するのはネタバレになってしまうので躊躇われるのだが、少々長めに次の一節を引用して、このダイナミック・ケイパビリティに少し興味を持っていただきたいと思う。 --- このような日本型組織では、各職務権限が明確に各メンバーに帰属されないので、変化のない安定した状況では「知の深化」が遅く、無責任で非効率な資源配分システムとなる。というのも、各メンバーの資源利用によってもたらされるプラス・マイナスの結果は、そのメンバーたちと共有されるからである。 特に、マイナスの結果が発生したときには、各職務権限が相互に複雑に重複しているため、このマイナスの結果を帰属させる主体を特定化することが非常に難しく、結局、無責任となる。そして、このような無責任なシステムのものては、各メンバーははじめからマイナスの結果を抑止せず、プラスの結果を生み出そうとしないので、米独型組織に比べて日本企業の利益率は低くなる。つまり、非効率なのである。 しかし、日本型組織では、各メンバーがあいまいに相互にダブって仕事をしているために、新しい生産システムた新技術が導入されても高い変革・調整コストを伴うことなく、「知の探索」が行われ、比較的容易に受け入れることができる。それゆえ、より労働生産性の高い新しい状態へとシフトすることができる。このように、日本型企業組織は、その柔軟な構造のもとに環境の変化に柔軟に適応できるのである。(p.123) --- この下り、世界的に見ても日本に長寿企業が多い理由の一つであるかもしれない。 また、もう少しフカヨミすると、九鬼周造の『いきの構造』で挙げられているように、西欧の「善悪二元論」的世界観とは異なり、日本は「善と悪」が入り組んだ世界観(西欧では悪魔は悪だが、日本では悪の化身である鬼が善の要素を持っていたりする)を持っており、また、「唯一神」と「八百万の神」の違いなどの多元性や重層性が、組織における職務権限の考え方にも反映されているような気がしなくもない。 最後に、野中郁次郎先生の本もそうなのだが、菊澤研宗先生の本も、そのコンセプトの根底には、カントやカール・ポパーが必ず挙がっている。特にポパーの歴史主義に対する批判の根底にある考え方は、いわゆる倫理的色彩の強いものであり、やはり経営学においても、その根底には、確かな哲学と倫理基準が必要であることを、改めて考える機会になった。
ダイナミック・ケイパビリティ、初耳だが非常に分かりやすく解説されていた。実例を挙げつつ、理論の背景も含めて説明されていて腑に落ちる。 米国流の株主主権論は放棄せよ、との提言だが、「会社は株主のもの」と中学の社会でも習った記憶があり、バブル経済崩壊後は日本政府がかなり導入に力を入れていたと痛感した。大...続きを読む学の講義でも株主主権論が当たり前みたいになっている風潮があったが、MBAでも未だにそうなっているとのこと。当時中学生ながらに違和感を感じていたが、本書でモヤモヤがスッキリした。
組織の不条理を読んだ後にこちらも読ませていただきました 人間の限定合理性を前提に 批判を受け入れる組織であること 垂直的な方向の大切さを感じた
ダイナミックケイパビリティ論の紹介と、それを成功した日本企業に適用しての分析。この理論自体初めて知ったので勉強になった。 企業にはオーディナリーケイパビリティとダイナミックケイパビリティの2つがあり、後者は環境の変化を感知してオーディナリーケイパビリティを再構築、再配置、再編成する能力のことである。...続きを読む 合理的な失敗「不条理」は個別合理的全体非合理、効率的不正、短期合理的長期合理があり、日本の組織が実際に陥ったものとして日本軍の白兵突撃パラダイムに代表されるパラダイムの不条理があり、回避する方法として取引コストの節約とダイナミックケイパビリティによる付加価値の向上がある。 ダイナミックケイパビリティの日本の成功事例として、既存技術を転用した富士フイルム、独自のビジネスエコシステムを構築したソニーなどがある。 バブル崩壊後にアメリカの株主至上主義がもたらされたが、日本企業はダイナミックケイパビリティ理論に基づいた経営が適していると提言する。
企業が持つ2つの能力を其々オーディナリー・ケイパビリティ(通常能力)とダイナミック・ケイパビリティ(変化対応可能な自己変革能力)と分け、世界的に成功した富士フィルム、ソニー、YKK等を例にこれら企業がどの様にダイナミック・ケイパビリティを発揮し、ライバル企業であるコダック、任天堂、中国メーカーに対し...続きを読むて市場から撤退させたり、シェアを逆転したりしたかが解説された本です。私も小学生の時は任天堂のファミリーコンピューターで遊んでいましたが、その後、ソニーのプレイステーションに流れた一人なのですが、当時ゲーム業界ではこんなに激しいやり取りがあったのかと感心致しました。
リソース・ベースト・ビューをよりダイナミックな形に展開したのが「ダイナミック・ケイパビリティ」論なのだけど、結構、難解な議論が多い気がしている。 そういうなかで、日本企業への適用という観点を踏まえた入門書がこうしてまとまったのは嬉しい。 「ダイナミック・ケイパビリティ」論は、経済学における組織の...続きを読む経済学(ウィリアムソンなど)の取引コスト論を乗り越える形の理論となっていて、進化論などの考えも踏まえたものとなっている。 その基本的な主張は、シュンペーターやドラッカーが言っていたことと同じなのかな?ドラッカーとかは、定量的な議論、ロジカルな理論はあまりなく、現実の深い洞察によってある種のアートとして、経営論を語っていた訳だが、その水準に半世紀以上のラグを持って、理論が追いついたということか? でも、学者が追いつく前に、現実に企業は色々なことを考えて、様々な選択をしてきた訳で、そうした選択の成功例を後付けで解釈しているだけではないかという疑問もあるかな〜。 それでも、しっかりとした理論ベースで、ドラッカーの主張が根拠づけされたのは嬉しいことではある。 さて、本書の面白さは、理論紹介の部分より、ダイナミック・ケイパビリティ論のフレームを使って日本企業を分析しているところ。 ダイナミック・ケイパビリティは、変化への適応能力、イノベーション能力と密接に関わるところで、通常、それがないというのが、一般に言われる日本企業の弱みである。 しかしながら、著者によれば、日本企業はもともとダイナミック・ケイパビリティを持っているということ。 ただ、それが中途半端にアメリカ系の経営メソッドやガバナンスの考えを入れることで、日本企業の元々の良さが発揮できなくなっているとのこと。 そして、日本企業の特徴が、悪い方向で循環に落ちることで、近年の不祥事が起きていて、それが日本企業のコアとも言える工場の品質管理の劣化にまで至っているという認識。 という訳なので、著者の主張としては、日本企業の元々の良さが発揮できるようなガバナンスを作っていくべき、ということになる。 理論的な納得感はあり、元気のでるストーリーであると思う。 ただ、著者の元々の専門がコーポレート・ガバンアンス論のためか、そういう観点での議論が多く、個人的には、もう少し具体的な戦略論、人・組織論への展開が欲しい気はした。そこは今後の発展に期待というところかな?
企業にはオーディナリーケイパビリティとダイナミックケイパビリティの二つがあると、言葉が難解。 よーするにルーティンの効率化、省力化や横展開による利益の最大化などの通常能力がオーディナリーケイパビリティ。 しかしながら、オーディナリーケイパビリティだけだと現実との乖離が発生してきて、イノベーションが...続きを読む必要となるし、それができない企業は市場から淘汰される、あるいは縮小する市場から次の市場へ移り(あるいは作り出し)生き残ることができなくなる。 なのになぜ企業はイノベーションできないで衰退するか?イノベーションのジレンマや取引きコストの高さなどをもとに説明がある。結局変化を嫌う組織の中で変えることのコミュニケーション含む取引きコストが高くなり合理的に企業は変化しなくなり衰退への道を辿る。 さらに規模の経済、範囲の経済だけでなく、共徳化の経済が重要になる。自社内にない資源との組み合わせ、また自社内にあるがそのままではこれ以上活用できない資源と他社資源の組みあわせによる価値創出である。 なので、正しさにかけるかもしれないけど、 1 変化しないことの方が異常だという組織文化を作る 2 外部からの建設的批判を活用して、常に問題解決を続けていく 3 上位下達の中央集権的組織でなく、自立的に判断し責任を取れる組織を作る その上で、社外との積極的な連携をもとに共得化する経済を目指す。それらができる組織力をダイナミックケイパビリティと呼んでいる。 というような理解をした一冊。
日本企業は伝統的に柔軟な組織で強いダイナミックケイパビリティを持つ。 米国式コーポレートガバナンスが日本企業を弱体化させている。 目から鱗
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