中野剛志
1971年、神奈川県に生まれる。東京大学教養学部(国際関係論)卒業。エディンバラ大学よりPh.D(社会科学)取得。経済産業省産業構造課課長補佐を経て現在京都大学大学院工学研究科准教授。専門は経済ナショナリズム。イギリス民族学会Nations and Nationalism Prize受賞。主な著書に『国力論―経済ナショナリズムの系譜』(以文社)、『 自由貿易の罠―覚醒する保護主義』(青土社)、『TPP亡国論』(集英社新書)などがある。
国力とは何か―経済ナショナリズムの理論と政策 (講談社現代新書)
by 中野剛志
グローバル化の時代には、企業の利益と国民の利益が一致しなくなる。グローバル化に適応するための構造改革は、国民の利益より企業や投資家の利益を優先するという政策なのである。しかし、構造改革を支える新自由主義というイデオロギーが提示する世界は、利己主義的な個人や企業だけで構成されており、そこに「国民」という存在はない。構造改革が国民の利益を優先しないのも、哲学的に考えれば当然だと言えるであろう。
より重要なのは、アメリカ合衆国の例である。この国には、多様性のイデオロギー上のレトリックにもかかわらず、実は、文化的画一化の強大な圧力が存在しているのである。 チャールズ・リンドホルムとジョン・ホールは、アメリカの個人主義と民主主義の価値と制度の中に、強力な文化的画一化への圧力を観察している。それは、新たな移民が持ち込んだ異文化を吸収し、画一化されたアメリカン・カルチャーへと転換する恐るべき能力を見せつけている。リンドホルムとホールは、この点を強調するため、ヨーロッパでよく言われるあるジョークに言及している。「アメリカ合衆国は、人々が自由に選択することを望んでいるが、それは、人々がアメリカのやり方を選択する場合だけである」(Hall and Lindholm 1997)。