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動乱のローマ帝政初期、皇帝ネローの教育係となったストア派の哲学者セネカ(前4頃-後65)は、のちにネローの不興を買い、自決せねばならなかった。ストア派の情念論を知るうえで重要な「怒りについて」と、「摂理について」「賢者の恒心について」を収録。白銀期ラテン語の凝集力の強い修辞を駆使した実践倫理の書。新訳。
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Posted by ブクログ
「敵を憎むな。判断力が鈍る」 これは映画ゴッドファーザーの名言であるが、まさにこの一言にこの「怒りについて」の要諦が集約されている。
目まぐるしい生成AIの進歩により、人間の価値の在り方を問われていると感じる今、この本を読んで思ったのは、2000年という長い年月の間に進化してきたのは文明や技術、つまり人間を取り巻く環境であって、人間の「本質」そのものは実はほとんど変わっていないのではないかということだった。怒りについてのセネカの考...続きを読む察は時代の壁を感じさせない、今の私たちにもの心にも響き、説得力に溢れると思う。 アンガーネジメント関連の本は沢山あり、あたかも一種のスキルを身につければ怒りをコントロールできるかのような印象を持ちさえもするが、「怒り」とはもっと根源的で、人生そのものに関わるテーマであることを実感した。人間が2000年もの間悩み、共感を集めてきた「怒り」という感情に対しては、小手先のスキルでは太刀打ちできない、むしろ、人間の生き方や価値観、そして自己との向き合い方を深く見つめ直す必要があると思った。 以下、ネタバレ。 ・怒りとは、自分を害する「人」に対して害することへの心の躍動。対象はその原因ではなく人に向かう。 ・怒りによってもたらされる情動により、原因以上にその人に多くのものを失わせることもある。ただし、人を害することで得られる快楽は長い人生のほんの短い時間。それならば大きな心で短い災厄に耐えよう。 ・人に対する怒りの根源は、自分は正しい、という傲慢さ。ただし忘れてはならないのは罪のない人は1人もいない、罪を告白していないだけである。
昨今のアンガーマネジメントという安易な内容ではない。怒りがどれだけ有害で、制御など不可能であり、どうすれば怒りを避けられるのかを具体的かつ血生臭く語る一冊。
「怒りをコントロールする」にて、「心を困難に苦しませるのではなく、芸術の楽しみにゆだねようではないか。」とある。現代社会において"良い大人"とは、自分が所属する集団社会に貢献する者で、"良い子"とは、学校で良い成績を残す者であることと同義になっているように思え...続きを読むる。しかし、そういった価値観を追い求めすぎるせいか、それらに悩む人は自己を苦しませ、また、社会はそこから逸脱しようものなら厳しく当たる。他人を気にしすぎ、また、怒るのではなく、現実を忘れて芸術にふれ寛容になることが今の時代も大切なのではないか。
怒りについて、ここまで詳細に綴られるとは思わなかった 怒りの発生、怒りを抱え続ける事の危険さ 怒りなくすことは出来ないがいかに平穏に暮らすか あらゆることを想定し、怒りが起きても猶予を与える 今まで自分自身が犯した不正も顧みて、他者をすべて許せれば許す かぎりある時間のなかでつまらないこと(怒...続きを読むり)に時間を使うより 常に楽しい事や有意義な事に全力で時間を使うことを意識したい つまらないことでイライラする時間は減るだろうし もし、怒りそうになってもこの本の内容を思い返して 怒りの感情に対して心に余裕を持って対応できればと思う
自分の中に湧いてくる怒りという感情をうまくコントロールできないことを自覚するようになったため、古典の中にその解決法を求めて本書を手にとった。怒りという感情が倫理の上では無意味であり、一種の欺瞞ですらあるとの趣旨だった。怒りという感情を思考するのに良い手助けとなったし、それでも日々湧いてくるのこ厄介な...続きを読む感情とうまく付き合えるようになって来たと思う。
俗っぽく紹介するなら「2000年以上読まれ続けるアンガーマネジメントの金字塔!」とでも言おうか。 不可避的な災厄、苦痛と向き合う「摂理について」。 賢者は不正を受けることがない、と主張する「賢者の恒心について」。 そして、怒りという情念の恐ろしさと、そこから逃れる術を説く「怒りについて」。 どれ...続きを読むも、自らの働きかけでは御しがたいものとどう向き合うのかということに集約される。 賢者の恒心における、ある種の「上から目線」で接するという態度などは文面だけを読むと驚いてしまうが、心を平静に保ちながら徳を保つには有効な手立てだろう。 怒りという情念は破滅的なもので、そもそもそこからは逃れられるなら逃れるべきだ。 しかし怒りというものはそこかしこで発生し、我々は日々過ちを起こす。 その現実と向き合い、いかによりよくあるべきかを論じた本書は現代に置いても共感する箇所が多い。 怒りに任せて話し相手を切り殺すような人間は現代にはいないが、怒りが破滅をもたらすものであるのは今も昔も変わらない。 怒りのもつ恐ろしい副作用を自覚し、距離をおいてアンガーマネジメントするためのヒントはこの古典にぎっしりと詰まっている。
◯摂理について ・善き人たちが苦労し、汗を流し、険峻な途を登攀するのに対して、劣悪な連中が自堕落に暮らし、快楽に酔いしれているのを目にしたときは、「息子は厳格な訓練で律せられるのに対して、奴隷の身勝手は育つがままにされるものだ」と考える。 ・障碍を知らぬ幸福は、どんな打撃にも耐えられない。だが、絶...続きを読むえず逆境と格闘した者には、受けた不正で厚い皮が育ち、いかなる悪にも屈しない。 ◯賢者の恒心について ・彼が所有のうちに置いているのは唯一、徳だけであって、ここからは何一つ奪い取ることはできないからである。 ・犯罪は、遂行の結果以前に、範囲が十分である限り、すでに完了しているのである。 ・人からの侮辱を賢者が児戯とみなすのも、至当というより他はない。 ◯怒りについて ・最善なのは、怒りの最初の勃発をただちにはねつけ、まだ種子のうちに抗い、怒りに陥らないように務めることである。 ・それは有益だとか不可避だとか言って自分の弁護と身勝手の口実を求めてよいわけはない。 ・怒りに陥らないようにすること、それから怒りの最中に過ちを犯さないことである。 ・子どもを早いうちから健全に躾けることこそ、何よりもためになる。 ・モノは我々の怒りに値しもせず、それを感じもしないのに、怒るとは何と愚かなことだろう。 ・われわれのうち、罪のないものは一人としていない。 ・全部取り去ろうとしてはいけない。一部ずつ摘みとっていけば、怒り全体を征服できるだろう。 ・「思っていなかった」とは、人間にとって最も恥ずかしいいいわけだと思う。あらゆる事態を思い、予期しておきたまえ。 ・怒っているとき、鏡を見たことが役立った。 ・何かを試みるときはいつも、あなた自身の力と、あなたが準備していてあなた自身がその準備になっている計画と秤にかけたまえ。 ・あなたの中でどこが弱いか、そこを最もしっかり守るために知っておかねばならない。 ・誰でも気持ちを傷つけられた時はいつでも、自分にこう語りかけるといい。「私にピリッポスより強大な力があるとでもいうのか、彼ですら、黙って悪口を浴びた。私がふるう力は神君アウグストゥスが全世界にふるった力より大きいとでもいうのか。彼ですら、自分に罵言を浴びせるものから遠ざかることで満足したのに。」 ・夜の眠りへ退くとき、己の心に向かって尋ねる。「今日、お前は己のどんな悪を癒したか。どんな過ちに抗ったか。どの点でお前はよりよくなっているのか。」 ・死の定めを思うこと。「気高い喜びに費やすこと許されている日を、他人の苦痛と呵責へ移して、何が楽しいのか。」
人間について、医学的なことは少しは進んだのかもしれないが、人間じたいについての考察は、ここから、一歩もすすんでいない。
怒りはダークサイドの第一歩だと言います。セネカは、実はジェダイの思想を私たちに伝えているのかもしれない。そのくらい普遍的な感情コントロール法を伝えています。
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