Posted by ブクログ
858円
183P
やや難
再読
2026/08/18
シュレーディンガー
エルヴィン・ルードルフ・ヨーゼフ・アレクサンダー・シュレーディンガー(ドイツ語: Erwin Rudolf Josef Alexander Schrödinger [ˈɛɐ̯viːn ˈʃʁøːdɪŋɐ]、1887年...続きを読む 8月12日 - 1961年1月4日)は、オーストリア出身の理論物理学者。シュレディンガーとも表記される。1926年に波動形式の量子力学である「波動力学」を提唱。量子力学の基本方程式であるシュレーディンガー方程式や、1935年にはシュレーディンガーの猫を提唱するなど、量子力学の発展を築き上げたことで名高い[3]。1933年にイギリスの理論物理学者ポール・ディラックと共に「新形式の原子理論の発見」の業績によりノーベル物理学賞を受賞した[1][3]。1937年にはマックス・プランク・メダルが授与された[2]。1983年から1997年まで発行されていた1000オーストリア・シリング紙幣に肖像が使用されていた。
「この小著は、一理論物理学者が約四〇〇人の聴衆に対して行った一連の公開講演をもとにしたものです。私は聴衆に向かってまず最初に、この題目の問題は難しい問題であって、物理学者の使う武器として最も恐れられている数学による推理はほとんど用いないが、本講演は決して大衆向きということはできないと警告しましたが、聴衆の数はたいして減りはしませんでした。数学を使わなかった理由は、数学なしで説明できるほど問題が簡単だからではなくて、むしろあまりに複雑で、十分数学を使えなかったからです。この講演が少なくともうわべは通俗的にみえたもう一つの理由は、講演者の意図が、生物学と物理学との中間で宙に迷っている基礎的な観念を、物理学者と生物学者との双方に対して明らかにすることにあったからです。」
—『生命とは何か-物理的にみた生細胞 (岩波文庫)』シュレーディンガー, 岡 小天, 等著
「もしこの答が、従来なしとげられなかったことを、将来なしとげることが可能であろうという希望を改めて述べるだけの意味しかもっていないとするなら、これは実につまらない意見でしょう。ところが、この答の意味するところは、もっとずっと積極的なものであって、このようなことがなぜ今日に至るまで不可能であったかということが、十分に説明されるという意味なのです。 今日では、生物学者たち、それも主に遺伝学者たちの、過去三、四〇年間の巧妙な研究のおかげで、生物体の実際の物質的構造と、その働きとについて、十分な知識が得られて、生きている生物体の内部で、時間的・空間的に起こっていることを今日の物理学と化学とがどうしても説明できなかったのは、どういう点に関してであり、それはなぜであったかを、はっきりいうことができるようになったのです。」
—『生命とは何か-物理的にみた生細胞 (岩波文庫)』シュレーディンガー, 岡 小天, 等著
「生物体の最も肝要な部分にある原子の配列や、その間の相互作用は、物理学者や化学者が従来実験的・理論的研究の対象としてきたあらゆる原子配列とは根本的に異なったものです。しかし、私がいま「根本的」と呼んだ差異は、物理学と化学との法則はすべて統計的な性格をもつものであるということをすっかり頭にしみ込ませている物理学者以外の人には、たいした差異とは思われないようなたぐいのものなのです。 * この論点は、少しく一般的すぎるようにみえるかもしれません。詳しい議論は本書の終りの方、 67、 68節に譲ります。 というのは、生きている生物体の肝要な部分の構造が、われわれ物理学者や化学者が今までに実験室で取り扱ったり、机に向かい頭の中で取り扱ってきたどんな物質の構造とも、まったく異なっているというのは、統計的な観点に関してのことだからです。われわれが従来の研究で発見した法則や規則性が、たまたま、それらの法則や規則性の土台をなす構造をもっていない体系の行動に、そっくりそのままあてはまるなどということは、ほとんど考えられないことです。」
—『生命とは何か-物理的にみた生細胞 (岩波文庫)』シュレーディンガー, 岡 小天, 等著
「4 原子はなぜそんなに小さいのか? この「きまじめな物理学者の考え方」を進めてゆくうまい方法が一つあります。それは、風変りな、人をばかにしたような疑問、「原子はなぜそんなに小さいのか?」から出発することです。そもそも、原子というものは実際まったく小さなものです。われわれが日常生活で取り扱うものは、どんな小さな一片の物質でも、とほうもなく多数の原子を含んでいます。このことを人々にピンとわからせるために、いろいろな説明の仕方が今までに工夫されてきましたが、ケルヴィン の使った次のようなたとえほど印象的なものはないでしょう。いま仮に、コップ一杯の水の分子にすべて目印をつけることができたとします。次にこのコップの中の水を海に注ぎ、海を十分にかきまわして、この目印のついた分子が七つの海にくまなく一様にゆきわたるようにしたとします。もし、そこで海の中のお好みの場所から水をコップ一杯 んだとすると、その中には目印をつけた分子が約一〇〇個みつかるはずです。」
—『生命とは何か-物理的にみた生細胞 (岩波文庫)』シュレーディンガー, 岡 小天, 等著
「6 物理法則は原子に関する統計に基づくものであり、近似的なものにすぎない さてそこで、あまり多数でない原子だけから成り、わずか一個ないし数個の原子の衝突に対してさえも敏感である生物体の場合には、これらのことすべてがみたされえないのは一体なぜでしょうか? それは、すでによく知られているように、原子はすべて、絶えずまったく無秩序な熱運動をしており、この運動が、いわば原子自身が秩序正しく整然と行動することを妨げ、少数個の原子間に起こる事象が何らかの判然と認められうる法則に従って行われることを許さないからなのです。莫大な数の原子が互いに一緒になって行動する場合にはじめて、統計的な法則が生まれて、これらの原子「集団」の行動を支配するようになり、その法則の精度は関係する原子の数が増せば増すほど増大します。事象が真に秩序正しい姿を示すようになるのは、実はこのようなふうにして起こるのです。生物の生活において重要な役割を演ずることの知られている物理的・化学的法則は、すべてこのような統計的な性質のものなのです。そうでないようなどんな法則性や秩序性を考えても、それらはすべて原子の絶えまない熱運動によってかき乱されて無効になってしまうのです。」
—『生命とは何か-物理的にみた生細胞 (岩波文庫)』シュレーディンガー, 岡 小天, 等著
「このことを、二、三の例によって説明しましょう。次の例は何千というものの中から半ばでたらめに拾い上げたもので、おそらくこのような事情をはじめて学ぶ諸君に訴えるには最も適した例ではないでしょう。が、この事情が現代の物理学および化学において基本的なものであることは、たとえば、生物学において生物体が細胞から成り立っているという事実や、天文学におけるニュートンの法則、あるいは数学における整数列 1, 2, 3, 4, 5, とさえくらべられるものです。まったくの入門者では、以下の数ページからこの問題を十分理解し、その意味を味わうことは無理でしょう。この問題はルドウィヒ・ボルツマンとウィラード・ギブズの輝かしい名に結びつけられ、教科書で「統計熱力学」の名の下に取り扱われているものであります。 細長い石英の管に酸素ガスをみたして、それを磁場の中に入れますと、ガスが磁化されます。この磁化は、酸素の分子が小さな磁石であって羅針盤の針のように磁場の方向に平行に向きを転ずるという事実に基づくものです。ただし、分子磁石が実際にことごとく磁場に平行に向きを えるのだと考えてはなりません。なぜなら磁場の強さを二倍にすれば、その酸素ガス全体の磁化の強さは二倍になるのであって、この比例関係は磁場の強さがきわめて高くなるまで保たれ、磁化の強さは外から加えられる磁場の強さに比例して増加するからです。」
—『生命とは何か-物理的にみた生細胞 (岩波文庫)』シュレーディンガー, 岡 小天, 等著
「真に驚嘆すべき事情をもう一度くっきり描き出してみましょう。ハプスブルク王朝の中のいく人かは特殊な下唇の奇形(ハプスブルク唇)をもっています。その遺伝は、注意深く研究されて、ウィーンの帝国学士院から王家の賛同を得て歴史的な肖像を完全に収めて出版されています。この特徴は正常な形の唇に対して純粋にメンデル性の対立形質であることがわかりました。一六世紀の家族の一員の肖像と、一九世紀に生きていたその子孫の肖像とに注目いたしますと、その異常な特徴をひき起こした遺伝子の物質的構造は、何世紀も通じて世代から世代へと運ばれ、その間に行われたあまり回数の多くない細胞分裂のどの一つにおいても、忠実に複製されたと仮定しても間違いはないといえましょう。そればかりでなく、その役目をになっている遺伝子構造に含まれている原子の数は、X線によって検べられた場合と同じ程度の大きさであるように思われます。この遺伝子はその期間全体を通じて、華氏九八度付近の温度に保たれていたのです。この遺伝子が何世紀もの間、秩序を乱そうとする熱運動の傾向にかき乱されることなく持続したことをどう解釈したらよいでしょうか?」
—『生命とは何か-物理的にみた生細胞 (岩波文庫)』シュレーディンガー, 岡 小天, 等著
「生命というものだけにある特徴は何でしょうか? 一塊の物質はどういうときに生きているといわれるのでしょうか? 生きているときには、動くとか周囲の環境と物質を交換するとか等々「何かすること」を続けており、しかもそれは生命をもっていない一塊の物質が同じような条件の下で「運動を続ける」だろうと期待される期間よりもはるかに長い期間にわたって続けられるのです。生きていない一つの物質系が外界から隔離されるかまたは一様な環境の中におかれるときには、普通はすべての運動がいろいろな種類の摩擦のためにはなはだ急速に止んで静止状態になり、電位差や化学ポテンシャルの差は均されて一様になり、化合物をつくる傾向のあるものは化合物になり、温度は熱伝導により一様になります。そのあげくには系全体が衰えきって、自力では動けない死んだ物質の塊になります。目に見える現象は何一つ起こらない或る永久に続く状態に到達するわけです。物理学者はこれを熱力学的平衡状態あるいは「エントロピー最大」の状態と呼んでいます。」
—『生命とは何か-物理的にみた生細胞 (岩波文庫)』シュレーディンガー, 岡 小天, 等著
「それでは、われわれの食物の中に含まれていて、われわれの生命を維持する貴重な或るものとは一体何でしょうか? それに答えるのは容易です。あらゆる過程、事象、出来事 何といってもかまいませんが、ひっくるめていえば自然界で進行しているありとあらゆることは、世界の中のそれが進行している部分のエントロピーが増大していることを意味しています。したがって生きている生物体は絶えずそのエントロピーを増大しています。 あるいは正の量のエントロピーをつくり出しているともいえます そしてそのようにして、死の状態を意味するエントロピー最大という危険な状態に近づいてゆく傾向があります。生物がそのような状態にならないようにする、すなわち生きているための唯一の方法は、周囲の環境から負エントロピーを絶えずとり入れることです。 後ですぐわかるように、この負エントロピーというものは頗る実際的なものです。生物体が生きるために食べるのは負エントロピーなのです。このことをもう少し逆説らしくなくいうならば、物質代謝の本質は、生物体が生きているときにはどうしてもつくり出さざるをえないエントロピーを全部うまい具合に外へ棄てるということにあります。」
—『生命とは何か-物理的にみた生細胞 (岩波文庫)』シュレーディンガー, 岡 小天, 等著
「太陽系の秩序、すなわち諸惑星の運動は、ほとんどはてしのない長い時間にわたって維持されています。今の瞬間の星座はピラミッドの時代の任意の特定の瞬間における星座と直接関連しています。今日の星座から過去にさかのぼってピラミッドの時代の星座を追跡して求めることもできるし、またその逆も可能です。有史時代の日食が計算され、それは歴史に記されている記録とはなはだよく一致することが見出されましたし、また歴史上承認されていた年代を訂正するのに役立った場合すらあります。これらの計算は何ら統計を含まず、専らニュートンの万有引力の法則に基づいているのです。」
—『生命とは何か-物理的にみた生細胞 (岩波文庫)』シュレーディンガー, 岡 小天, 等著
「右のような事情にもかかわらず、「物理的な時計仕掛け」が外見上きわめて顕著な「秩序から秩序へ」の特徴を現わすという事実に変わりはありません。そして物理学者が生物の世界でそういうものにぶつかった時びっくりしたというわけです。この二つの場合はつきつめてみれば何か共通なものをもっているように思われます。何がその共通のものであるかを知り、生物体の場合を結局新奇で前例のないものにしている著しい違いが何であるかを知ることが残されている問題です。」
—『生命とは何か-物理的にみた生細胞 (岩波文庫)』シュレーディンガー, 岡 小天, 等著
「私は、本書の課題の純粋に科学的な面を、何らの主観を交えずありのままに解き明かそうとして真剣に骨折ってきました。その代りここでは、この問題の哲学的な内容に対する私自身の見解をつけ加えたいと思いますが、これはどうしても主観的たるを免れないことを御諒承下さるよう希望します。 これまでのページで述べてきた事実を基にして考えれば、生きている生物の身体の中で行われる時間・空間的現象は、その生物の心の働きや自覚的な活動に対応するものであっても、(それらの現象の複雑な組立てと、物理化学によるその統計的説明として認められていることがらとを併せ考えると)厳密に決定論的といえないまでも、とにかく統計的 =決定論的であります。物理学者に対して強調したいのですが、私の見解では、或る一派の人々の懐いている意見とは反対に、これらの現象の中では量子論的な不確定性は生物学的にみて重要な役割は何も演じておりません。ただし例外として、減数分裂や自然発生的および X線により誘起される突然変異などのような現象においては、おそらくその純粋に偶然的な特性を強化することにより生物学的に重要な役割を果しております。とにかくこの点は明らかであり、十分に認められています。」
—『生命とは何か-物理的にみた生細胞 (岩波文庫)』シュレーディンガー, 岡 小天, 等著
「 このような洞察そのものは決して新しいものではありません。私の知る限り最も古い記録は約二五〇〇年あるいはもっと以前にさかのぼります。古代インド哲学の聖典ウパニシャッドのつくられた時代の初期から、「人と天とは一致する」(アートマン =ブラーフマン。人間の自我は普遍的な全宇宙を包括する永遠性それ自体に等しい)という認識がインドの哲学思想において、神を冒瀆するものどころか森羅万象の最も深い洞察の真髄であると考えられていました。人間が言葉を使うようになって以来、ヴェーダンタ哲学の学派に属するあらゆる人びとの精進は、実にあらゆる思想の中で最も偉大なこの思想を心中に会得することにありました。」
—『生命とは何か-物理的にみた生細胞 (岩波文庫)』シュレーディンガー, 岡 小天, 等著
「もしこの問題を深く立ち入って分析するなら、それは個々の単独なデータ(経験と記憶)を単に寄せ集めたものにほんのちょっと毛のはえたもの、すなわち経験や記憶をその上に集録した画布のようなものだということに気づくでしょう。そして、頭の中でよく考えてみれば、「私」という言葉で呼んでいるものの本当の内容は、それらの経験や記憶を集めて絵を描く土台の生地だということがわかるでしょう。たとえば皆さんが遠い国へやって来て、友人の誰一人にも会えなくなり、ほとんど昔の友達を忘れてしまったと考えてごらんなさい。そこで新しい友達をつくってそれらの人びとと生活をともにし、かつて昔の友達と交わっていたときと同様の深い交わりを結ぶとします。この新しい生活を営んでいるときには、皆さんがなおも昔の生活を思い出すということは、しだいしだいに重要さを失ってゆくことでしょう。「かつて私であった青年」のことを第三者のこととして物語るようになり、事実、皆さんがいま読んでいる小説の主人公のほうが、おそらくいっそう親近感がもて、いっそう生き生きしていてよく知っている人物のように感じられるでしょう。にもかかわらず昔と今との間には途切れ目はなく、一度死んだわけではありません。そしてたとえ熟練した催眠術師が皆さんの昔の追憶をうまくすっかり根こそぎに消し去ってしまったとしても、催眠術師が皆さんを殺してしまったとは思われないでしょう。如何なる場合でも、自分自身の存在が失われてしまったことを嘆くことはありえません。」
—『生命とは何か-物理的にみた生細胞 (岩波文庫)』シュレーディンガー, 岡 小天, 等著
「本書のエピローグの中程に「[ショーペンハウエルなどのような思想家ではない]普通の人の場合でも、本当の恋人同士が互いに相手の眼をじっと見つめている時、二人の思想と二人の歓喜とは文字通り一つとなり 」 という言葉がある。私がこの原書を翻訳したのは二五歳の時で、まだいわゆる童貞だった時だが、この言葉は当時の私の心に深い共感的感銘を刻印した。」
—『生命とは何か-物理的にみた生細胞 (岩波文庫)』シュレーディンガー, 岡 小天, 等著
「一つは、麻薬や覚醒剤や幻覚剤が精神状態にもたらす薬理的な効果の研究からの光だ。それによれば、オルガスムの忘我感は幻覚剤(サイケデリックス、最も有名なのは LSD。覚醒剤とは違う)がもたらす効果と質的に似ているという。ただし、そんな科学研究を待たずにも既にかなり多くの人々が自分の体験から知っているように、その忘我感は、大抵の仕事や遊びに没頭し夢中になっている場合の意識状態よりいっそう没我的であり、たとえばジェットコースターで得られる眩暈(めまい感)と表裏をなすエクスタシーに近いらしい。ともあれ、以上のことは脳科学のうちでは神経伝達物質やその阻害剤や助長剤の効果に関する研究からの光だ。」
—『生命とは何か-物理的にみた生細胞 (岩波文庫)』シュレーディンガー, 岡 小天, 等著