Posted by ブクログ
2017年04月18日
いつもながら小路さんの描く物語は優しくあたたかい。
「家族」をテーマに、不器用な生き方しかできない善良な人たちが共に過ごすひとときが、軽いタッチで丁寧に描かれている。
「僕」は中学生のときから心にある決心をし、それを守って生きてきた。
何かというと困っている人に救いの手を差し延べてしまうのも、他者を...続きを読む冷たくあしらうことができないのも、すべては中学生のときのある経験に基づいている。
ある意味「僕」の生き方を決定したもとを、多くの人が苦難を強いられたあの災害に設定したことが良かったのかはわからない。
当事者でなければわからない哀しみや辛さが、いまも深く胸に刻まれている人も多いと思うからだ。
もしかしたら、こんなふうに物語に取り上げられることを良しとしない人もいるかもしれない。
「COW HOUSE」はどこか歪んだ物語だ。
悪い人はどこにも登場せずに、善人だけが住む世界で構成されている。
善人ゆえの悩みも哀しみも後悔も、人との関わりの中で浄化され新たな道が示される。
どこを探しても悪意のない世界。
それが「COW HOUSE」を取り巻く世界だ。
現実社会は嫌になるほど悪意が垂れ流されている。
テレビをつければ正義を振りかざすメディアが有名人のスキャンダルを糾弾している。
群がる標的を毎日変えながら、それでも厭きることなく正義漢を気取り続ける。
だが、この物語は悪意など存在しないかのようだ。
善意に思い切り偏った世界。
それは、歪んではいてもきっと果てしなく優しい世界なのだろう。
小路さんの物語は、その優しい世界を味わわせてくれる。
たとえリアル感はないとしても、たとえ虚構の世界ではあっても、やはり優しくあたたかな物語はいい。