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Posted by ブクログ
しみじみ素敵な本だった。
ストーリーとか展開とかなんかそんなのはもうどうでもよくって。
よくはないんだけど。
お話があってこその言葉なんだけど。
言葉がぎゅーっと胸にしみる。
ー愛していると口にしようとしたら、その言葉がからっぽなのを発見した。
クルミの「つらかった」の一言が
ほんとうに胸にすーっと沁みてきて
救われるってこういうことなのかなって。
「霧が晴れたら」
そぼ降る雨の中を きみは濡れてやってきた
ふくらんだポケットからそっと取り出したのは
生まれたての言葉
歩けるようになるまでわたしが育てるわ
湿った髪を右手でかき上げ きみはきまじめに言った
息をしているのかいと僕が聞くと
大丈夫 呼吸という言葉を与えたからと答える
栄養も知能も発達もちゃんと食べさせた
みんな漢字二文字なんだと僕はつぶやいて
悪夢も腐敗も絶望も二文字だと思い出す
不吉な予感を押し殺し きみの手の中をのぞいたら
生まれたての言葉は かすかに震えながら僕を見上げた
なんて呼べばいいのかな
まぬけな質問をする僕に きみはゆっくり瞬きし
それはあなた次第じゃないと苦笑する
いつのまにか雨はやんで 細かい霧が立ちこめている
この子のいつか 意味に出会って恋をするのね
君の声が途中からすべるようになめらかで
僕はその先にあるものを 盗むようにそっと見つめる
おとなになった言葉太刀が ひっそりと寄り添えば
やがて声になり そして詩になる
そのときまで僕らは待てるだろうか
それが二人で生きているということなのか
そう自分に問いかけながら 僕は静かにきみの手に触れる
霧が晴れたら きみを送っていこう
生まれたての言葉をこわがらせないよう
おだやかな道を遠回りして
「失うという事は なくなるという事実ではない
そこにはもはやそれがないと知る その体験なのだ
失われていくものが命をかけて
きみに教える
これで終わりではないと」
河出書房新社
Posted by ブクログ
前作も良かったけど、これも良かった。
詩人が出てくる小説だと、どんな詩を書いているのか気になるが、世に知られた詩人という設定なら、読者を納得させる詩でないといけないわけで、そういう詩を書く自信のない作家は書かずに誤魔化す。『ぱりぱり』がそうだった。
谷川直子は、書いた。そしてそれはいい詩だった。それだけで小説が少々つまらなくても許せるが、小説も良かった。
『うたうとはちいさな命ひろいあげ』も作家自身が短歌を詠み、それもなかなか良かったが、小説の出来はさほどでもなかった。こちらは大人の恋愛未満の関係だけでなく、子どもの学校でのトラブルも描かれているが、そこだけでもそこらのYAよりずっと人間が描けている。
谷川直子、好きだな。次回作も期待する。
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