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ようやく仕事も軌道に乗り始めた矢先、40代の働き盛りの身で、末期癌の宣告を受けた男は、未知の治療法に賭け、ひとり海辺のマンションにこもった。家族を捨て、会社を捨てた凄絶な闘いの末、3年半後、男は奇跡的な生還を果たすのだが……。生と死のドラマを極限まで描破して、著者の力量を改めて示した、平林たい子賞受賞の表題作。ほかに「院内」「孤島」の短編2作を収録する。
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Posted by ブクログ
生還 p59「自分の死が一体何なのかが所詮わからないならば、ぼろぼろになるまで意志だけは持ち通してそれが何かを見つめ見とどけて死んでやろうと思いました。そしてそれは即ち一分一秒でも長い生への執着だったに違いありません。」 →ここまで客観視して向き合えるのは強さではあると思う。 p61「自分を完全に...続きを読む預けてしまえる何か、神でも仏でもが、自分にとって確かな形であればどんなに楽だろうか、とは思いました。しかしそんなものを確かに持っている人間なぞ果たしているのでしょうか。ありはしまい、いや絶対にありはしないという逆の確信のようなものばかりがつのっていきました。」 →生と死だけではなく、現在の生活でもすがりつく対象を見つけられずにいるのではないかと考えさせられた。 余命宣告を受けた癌患者の闘病日記として読めなくもないですが、ただ、純粋に生と死に向かい合った結果、どうすることもできない現実、そしてそれを受け入れる悟のようなものとして物語は終結します。 あくまでフィクションですが、それでも真摯さ、何かにすがりつく生への執着を日記風の文体だからこそ刺さる部分も少なくなかったです。 院内 議事堂での夢現な物語を文体で何とか物語として構築したような話。 正直、私には難しくて文章を読んでも情景が浮かぶ部分とそうではない部分が多かったですが、自然と一気読みさせられたのはそれだけ作家の力量があることの証明なのか何なのかよくわかりませんでした。 孤島 ある島にロケのため船を停泊した先での諍いから、物語は始まり、最後は殺人まで犯すわけですが、終盤の海亀が登場したあたりからの躍動感、臨場感、人間の狂気を身体的に描くのは上手いと思いました。人間の死体と海亀の死体を海に投げ捨てる場面はゾッとするような、身体感を刺激するような描写力で良かった。 この小説の中では私は表題作の生還と孤島が良かったです。
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