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労働条件の底が抜けた? 派遣はいつでも切られる身分。パートは賞与なし、昇給なしの低時給で雇い止めされる身分。正社員は時間の鎖に縛られて「奴隷」的に働くか、リストラされて労働市場を漂流する身分――こんな働き方があっていいのか。この三〇年ですっかり様変わりした雇用関係を概観し、雇用身分社会から抜け出す道筋を考える。
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Posted by ブクログ
題名の「雇用身分社会」とは、筆者の造語であるが、筆者はそれを下記の通り説明している。 【引用】 パート、アルバイト、派遣、契約社員などの雇用形態は、いまでは雇用の階層構造や労働者の社会的地位と不可分の「身分」になっている。本書は、このように労働者がさまざまな雇用形態に引き裂かれ、雇用の不安定化が進み...続きを読む、正規と非正規の格差にとどまらず、それぞれの雇用形態が階層化し身分化することによって作り出された現代日本の社会構造を「雇用身分社会」と名づけて考察してきた。 【引用終わり】 1984年に15%程度強であった非正規労働者の比率は、バブル崩壊以降、増え始める。20%を超えたのが1994年。1999年には25%に迫り、2004年には30%を超え、2019年に38.3%となりピークとなった。その後、比率は少し下がったが、2023年時点での非正規雇用比率は、37.1%であり、依然、40%近い人が非正規雇用者である。 非正規雇用の中身も、パート・アルバイト・派遣社員・契約社員など色々とあるが、一部を除いて正社員に比べると雇用が不安定であり、また、基本的に低報酬である。2012年時点のデータであるが、非正規雇用者のうち、年収が200万円未満の雇用者の割合は32.9%、女性に限れば55.6%である。これが、ワーキング・プアと呼ばれる問題である。日本の相対的貧困率は2012年で16.1%であり、先進国の中ではかなり高い。OECDは「主な要因は労働市場における二極化の拡大にある」としており、こういった状況を筆者は「雇用身分社会」と呼んでいるのである。データはやや古いものであるが、現在でも状況は変わっていない。 バブル以前にも日本企業が苦境に陥ったときはあったが、その時に企業は、例えば、時間外労働(残業代)やボーナスの削減、退職者の不補充などによる採用数の削減等により対処してきた。しかし、グローバル化が進み、中国をはじめとする、コストの安いアジアの国々とのグローバル市場での闘いを強いられた日本企業は、更に対策を加速させ、正社員を削減し、より流動的な雇用形態の人たちを増やすようになっていったのである。それは、当時の経済団体である日経連が1995年に発表した「雇用ポートフォリオ」の考え方に沿ったものでもあった。この頃から、労働者派遣法の規制緩和方向への改訂などを含め、日本の労働政策は市場主義的な方向を指向することになる。 日本企業における外国人の株式保有比率は、1980年代後半には5%にも満たなかったのであるが、90年代以降急激に高まり、現在はおおよそ30%超である。従来の日本の株式は、メインバンクが保有したり、系列あるいは取引先との株式持ち合い等による安定株主(すなわち、物言わぬ株主)が主流であったものが、現在では外国の投資ファンド等の「物言う株主」が増え、日本企業も株主の意向、すなわち、損益や配当や株価等に留意しながらの経営を行うようになってきている。それは、2010年代半ば以降の、「コーポレート・ガバナンス改革」に繋がっている。従来の日本では、従業員が最も重要なステークホルダーの1つと考えられていたはずであり、企業の雇用施策も組織内部を中心としたもので良かったのであるが、徐々に株主意向に沿ったもの、すなわち、市場主義的なものに変わっていったと言われている。 しかし、バブル崩壊以降、今に至るも、日本の正規雇用者の数はほぼ一定である。非正規労働者が増えた分は、日本全体の雇用者が増えたのと、自営業・家業従事者が減ったのである。これまで、雇用の不安定化・流動化が全体としては進み、非正規労働者は増えたのであるが、実は正規労働者の世界では、それはさほど進んでおらず、正規労働者自体の雇用は維持されてきたのだ。 ところが、政府の政策は、これをも崩そうとすることを指向しているように思える。岸田政権の目玉である「新しい資本主義」政策を説明する「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画 2023改訂版」には、日本の賃金水準が低迷している「問題の背景には、年功賃金制等の戦後に形成された雇用システムがある」とし、いわゆる「日本的雇用慣行」を批判し、①リ・スキリング②職務給の導入③成長分野への労働移動の円滑化という、「三位一体の労働市場改革」を政策として訴えている。「雇用の流動化」というのは、歴代政権のいずれもが掲げる政策であり、民主党の野田政権下ですら「定年制を廃し、有期の雇用契約を通じた労働移転の円滑化をはかるとともに、企業には、社員の再教育機会の保障義務を課すといった方法が考えられる。場合によっては、40歳定年制や50歳定年制を採用する企業があらわれてもいいのではないか」という内容の提言を、野田首相が議長であった国家戦略会議の中の分科会が行っている。 市場主義的な労働施策というのは、結局は、アメリカの制度を目指しているのだと思う。アメリカは「at will 原則」、すなわち、双方の自由意思による雇用関係という考え方がベースとなっており、基本的に解雇は自由である(ただし、不合理な差別による解雇、例えば、人種や性別や年齢差別による解雇は違法であり、場合によっては多額の賠償金を企業は課せられる)。それに対して、日本の場合は「整理解雇の四要件」というものが判例法的に存在しており、整理解雇もハードルが高い。これまで、非正規雇用の増大を通じて日本の雇用システムは大きく変わってきているが、こと正社員の雇用については安定的であった。それを、大きく、例えば米国のように解雇自由とするなどによって変えようとしているのであれば、社会にとってものすごくインパクトの大きなことである。 以前のブグログで、現在、大学院の経営学研究科に通って勉強・研究をしているということを書いた。専門は人的資源管理である。狭義の人的資源管理という範囲からは離れるが、上記したようなことを考えてみたい、テーマにしてみたいと今のところ考えている。
以前働いていた職場でこんなことがあった。製造業派遣が解禁される前、請負として大量の非正規職の人達が定年退職者の代わりとして入ってきた。やっている仕事は正社員と大差ない。それまで皆仲良く助け合ってやって来た職場だったが、突然正社員に特権意識が芽生えて請負作業者を下に見るようになり、職場の雰囲気も殺伐と...続きを読むしたものになった。『身分社会』が生じた瞬間だった。 雇用形態の差が身分社会の形成や差別にまで繋がっているという著者の認識は実に的を射ている。雇用を取り巻く歴史的状況も俯瞰することができ参考になった。 一つわからないのは、高額所得者を含む全ての所得階層で所得が減っているとすると、この20年間の僅かばかりの経済成長の果実は一体どこに行ったのか? 統計に現れないほど極少数の資産家に集中しているのだろうか?この極端な格差の是正が最優先課題だ。著者の言う通り派遣法の改悪を元に戻すと共に、使いきれないほどの富を貯めている金持ちに応分の負担を求めなければならない。今の政治体制では絶望的だけれど。
p184のグラフ "主要先進国の平均賃金の推移"を見て,我が国の政策が賃金を下げているのだと思った.日本だけが下がっているのだ.1985年の労働者派遣法の制定がこの憂慮すべき事態の原因だと感じる.あまりにも大企業寄りの法律で,一旦制定されると次々と改悪される.戦前の治安維持法と同...続きを読むじ.この悪法を廃止することを政策に掲げる政党は出てこないのかな.
良書。 怒りが込み上げてくる。 日本人の給料は、悪い方向に向かっている。日本の経済は、低所得者に支えられている。 政府は、これを推進する政策を行なってきた。もっと国民は、怒らなくてはいけない。
現在、関西大学名誉教授である著者が、2014年3月に定年退職する直前に構想が浮かび、昨年10月に発刊された新書。「雇用身分制」をキーワードに、日本の労働社会全体像を概観したことが特色(筆者談)としてあげられます。 「職工事情」「女工哀史」「貧乏物語」など、日本における資本主義が作られてきた過程の中...続きを読むで書かれた本の内容が紹介されていますが、今の労働実態をめぐる状況と比較しても遠い昔のことでなく、むしろ悪くなっているといえる現状に、恐ろしさを感じました。 非正規労働者が増えたということはそれだけ正社員が減らされたことであり、さらに縮小させられる方向と指摘。それに関連して、人材派遣会社パソナ関係者が「正社員が安定して雇用という常識はもう通用しない。正社員にはリストラや定年がある。フリーターなら本当の意味で一生涯終身雇用が可能」と発言したとの記述には驚きを隠せませんでした。 「派遣労働を規制し、パートやアルバイトであっても何とか生活できる水準にまで最賃を引き上げ、合わせて性別賃金格差を解消し、八時間労働制を実現するだけでも、働き方はいまよりはるかにまともになる」という提言は、ぜひ実現させなければなりません。 お勧めの一冊です。
現在の勤労者のおかれている状況を戦前の歴史からひも解き、現在の「雇用身分社会」という状況が出現した様が解説されており、わかりやすかった。そして今後の提言として、「派遣労働を規制し、最低賃金をパートやアルバイトであっても何とか生活できる水準にまで引き上げ、合わせて性別賃金格差を解消し、八時間労働制を実...続きを読む現するだけでも、働き方はいまよりはるかにまともになる」という提言は納得すると同時に、このような提言をしないといけないほど雇用破壊?が進んでいるという実感を持ち末恐ろしくなった。
最低賃金を上げ, 男女の雇用の差別を少しずつ無くしていくしかない。今のままでは貧困の連鎖が続いてしまう。株主資本主義の行き着く先は、欲望の最大化。 効率的な市場は欲望を最大化させるだけで, 人間的な尊厳を持った生活を万人に提供することはできないのではないか。自由競争は強い奴が勝つ仕組みであり、政府...続きを読むの人間が一部の大企業や機関投資家や銀行などのために規制緩和を続けているのは政治家としてどうなんだろう。 規制緩和の結果、一般市民に利益はあるのだろうか。裏で政治献金や賄賂をもらっているから,彼らに利益になるような政策を出しているのではないかと思ってしまう。 適正な規制と適正な規制緩和を考えるのが官僚や政治家の役割であって、なんでも規制を緩和すればいいのなら国家なんかいらないって理屈になるのではないか? 国家こそが個人にとって一番の規制だと思われるからである。 今のような状況が続くなら、雇用によって社会的身分が分かれ、個人個人が分断された社会が完成してしまう。 男女が協力しあい、長時間働きたい人は働き、フレッキシブルに働きたい人は自分お時間に合わせて働くそんな社会が望ましいと思う。 理想を語れなきゃ政治家なんていらない。
派遣社員が社員と同じ食堂を使えない職場があることに衝撃。同じ仕事をしてても契約形態でここまで格差があるのはやはり異常
湯浅誠の貧困社会の本の続きのような内容。賃金格差、非正規労働者の話がメイン。もう少し多角的な見方をしてほしい感じもある。
著者は関西大学で経済学部2014まで教えていた。専門は企業社会学。雇用の状態~正社員、パート、アルバイト、臨時、派遣などによって給料が違い、雇用が身分化して所得分布が階層化しているとする。 明治中ごろから紡績などに女工が集められたが、多くは募集人によって農村部から集められ工場に送り込まれた。この場...続きを読む合雇用関係は工場主と女工との契約の前に、工場主と募集人との契約関係であった。85年に労働者派遣法ができたことによりこの戦前と似た関係になった。くしくも85年は同時に均等法もできている。 雇用身分社会から抜け出す鍵として、1労働者派遣制度を抜本的に見直す~著者はゆくゆくは制定以前の規制に戻したいが単純業務の職種を禁止とすべきとしている。2非正規労働者の比率を引き下げる。3雇用・労働の規制緩和と決別する。 4最低賃金を引き上げる。 5八時間労働制を確立する。 6性別賃金格差を解消する。を提案している。これができれば安倍さんは苦労しないが・・ またディーセントワークという言葉を紹介している。これがこの本の最大の収穫だ。decentとは見苦しくない、礼儀正しい、恥ずかしくない、裸でない、人並みの、人間らしい、親切な、寛大な、適切な という意味。著者は「まともな働き方」としている。また、江口英一の「現代の低所得層」1979を紹介し、その中でワーキングプアは「あるべきものがない状態」、人並みの状態が「剥奪deprivation」されており、一般に当然と認められている状態から遠ざけられているので、社会参加不可能の状態に置かれている、と紹介し、デプリペーションはディーセントでない状態、であるとしている。 お金がないのは社会問題だというのは誰でも分かるが、根本の問題は、不安定な雇用により、まともな権利(正当な賃金と社会保障)から遠ざけられ、「社会参加ができなくなっている」ことだというのが分かった。この考えを政治家、企業家に認識して欲しい。
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