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音楽は書物と同じくらい人生にとって重要なものという村上春樹が、シューベルトからスタン・ゲッツ、ブルース・スプリングスティーン、Jポップのスガシカオまで、すべての音楽シーンから選りすぐった十一人の名曲を、磨き抜かれた文章とあふれるばかりの愛情を持って語りつくした、初の本格的音楽エッセイ。
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Posted by ブクログ
スガシカオ論は卓越した日本文化批判になっている。Jポップの歌詞とマスメディアの使う文体を同一に並べ、それらは内輪だけで通用する制度言語であり、互いに馴れ合い、もたれあっている、という洞察は、日頃からメディアの紋切り型論調にイライラさせられてきた者にとって、まさに我が意を得たりである。その一方で、こん...続きを読むな優しい眼差しで音楽と向かい合う姿も見せる。「思うのだけれど、クラシック音楽を聴く喜びのひとつは、自分なりのいくつかの名曲を持ち、自分なりの何人かの名演奏家を持つことにあるのではないだろうか。」小澤征爾との対談も素晴らしかったが、これも音楽評論として秀逸である。偏見と感情論、ただの印象に終始する大家と呼ばれるクラシック評論家たちと、なんという違いだろう。
お世話になった人が一時期コーヒーマスターをしていたカフェ。そこのカウンターでこれを薦められた記憶がある。人に勧められた思い出は、その本の内容といっしょになって、残っていくことになる。そういうことを、大事にしたいと思う。
音楽って言葉でこんなにもうまく表せるのかと思った。 この本読んでスガシカオ聴くようになった。 良かった。
再読。J-POPをひとくくりに「リズムのある歌謡曲」と定義してしまうことに反発を覚えたのは数年前。久しぶりに読み返すと、あの時さらーっと読み流してしまったいくつかの評論が胸に迫ってきた。知っている音楽は、自分の知識や想いと照らし合わせて読む楽しさがあるし、知らない音楽は、先導される幸福感と、これから...続きを読む出逢う楽しみがある。そして、メロディーと歌詞のタフネス。スガシカオの歌詞における触感と「腹持ちの良さ」についての記述を読んで以来、スガシカオを聴くことが愉しくて仕方ない。まだまだ引き出しがありそう。続編もぜひ。
音楽業界紙の音楽評論よりも,面白い。 取り上げられているアーティストを知らなくても,楽しめる内容。 知っていれば尚更に,視座や感受性を広げてくれる。 なるべく対象を公正に,正確に,音楽(とそこから感じ,考えたこと)を表現しようと気を配っている所がとても好感がもてたし,対象との距離の取り方に信頼...続きを読むが置けると思った。 何かを好きになるなり方,にも個性が出る。
◯なによりも巻末の参考文献が気になった。おそらくほとんどのアーティストについて、参考文献を記載している。 ◯その中でも、ブライアン・ウィルソン、スタン・ゲッツ、ウディー・ガスリーあたりは伝記的で読み応えがあって面白い。また、伝記的である点は、時代からその音楽性を読み説こうとする試みにも思える。もちろ...続きを読むん、小説家ならではの分析・観察、表現力や観察力も相まっての読み応えだと思う。 ◯しかし多分一人だけ参考文献がないアーティストがいた。スガシカオである。 ◯時代はまさに同時代であるので、そのあたりは自然体で書けたのかもしれないし、参考文献とするものがなかったのかもしれない。その分、主に詩の解釈に比重が置かれている印象である。 ◯私はシカオちゃんが大好きであるが、著者との解釈とは方向性は同じでも、感じ方が違うので、なんとなく違和感を感じた。日本のポップスがリズムのある歌謡曲に聞こえるというあたりは、ややひねくれたというかイキリすら感じるのは私だけだろうか。 ◯最近の人たちでも新しい音楽を作り出そうとしている人は多いので、日本の音楽もどんどん聞いてほしい。私はリズムのある歌謡曲は大好きである。歌謡曲生まれ歌謡曲育ちと自負している。 ◯ただ、著者はジャンル問わずとにかく音楽が真摯に好きなんだなと改めて思った。
シダー・ウォルトンを最初にもってくることをはじめ、取り上げたミュージシャン・作曲家がいかにも村上春樹氏らしい。 本人が「あとがき」に書いているように、多少の偏りがあるのかもしれないが、そもそもこの手のものでは「偏りが無い」ものを書く必要はないのだから、これで良いのではないか。 村上春樹氏は、キー...続きを読むス・ジャレットはあまり評価していないようだ。
村上春樹における音楽論。短編集みたいな構成で、短編1つに一人(または二人)に焦点を当てて、村上春樹自身の個人体験(コンサートに行った、CDを聞き比べた等)を軸に音楽論(主にジャズ論)を語る、という構成の本。掲載されている人は聞いたことが無い人が殆どなんだけど、村上さんの独特の切り口の論を読むと、その...続きを読む人の音楽が聴きたくなる、という不思議な本でもある。過去においては、村上さんはウィスキーについて語っていたけど、それの音楽版という感じかな。ウィスキーの本と同様に、この本を読むと何か音楽を無性に聴きたくなるね。
この本は音楽について書かれたエッセイを集めた一冊だ。 その冒頭の一遍はビーチ・ボーイズ、特にバンドのリーダーであった ブライアン・ウィルソンについて書いてある文章だ。 ブライアン・ウィルソンという人は矛盾とミスマッチを抱えている。 彼自身が作り上げたビーチ・ボーイズは アメリカのイノセンスを象徴す...続きを読むるようなバンドだった。 「太陽の光、海、元気な男の子と可愛い女の子の笑顔、サーフィン、オープンカー」 彼ら自身がアルバムジャケットでサーフィンを抱えてニコニコしている。 ところがブライアンは海に行くことはなかった。 泳げなかったそうだ。 だけれどもファンに求められるまま 太陽の光に照らされる海を唄いつづけなくてはならなかった。 ビーチ・ボーイズという「お金」を生むバンドのマネージャー はブライアンの父親が務めた。 父親は常にブライアンの仕事を監視しコントロールした。 父親はかって成功できなかった作曲家であった。 ブライアンは素晴らしい楽曲を作り続けた。 しかし父親が作曲家としてのブライアンを 認めることはずっとなかったという。 時は流れアメリカはヴェトナム戦争の泥沼にはまる。 アメリカのイノセンスを象徴していたビーチ・ボーイズは 次第に世間から忘れ去られていった。 ジミ・ヘンドリックスは言った。 「今時、誰がビーチ・ボーイズなんて聴くんだ?」 ブライアンの父親はビーチ・ボーイズの 「金銭的な価値」はもう失くなったと判断した。 だから1969年にブライアンの作った楽曲の権利の一切を売り払ってしまった。 そのことに深く傷ついたブライアンはドラッグに溺れることになる。 それからブライアンはビーチ・ボーイズの中で 次第に後ろに引き下がるようになった。 他のメンバーたちが主導権をめぐって争った。 彼らは実の兄弟であり、従兄弟たちでもある。 ビーチ・ボーイズはいつの間にか懐メロバンドになった。 そこにさらにドラッグの深みにはまったブライアンの いる場所はもうなくなっていた。 春樹さんはこのエッセイの中でスコット・フィッツジェラルドの 言葉を引用している。 「アメリカに第2章はない」 ドラッグに溺れ才能を無駄にしたブライアンに第2章はないかと 誰もが思っていた。 しかし華々しくはないがブライアンは静かに第2章を始めていた。 時は流れかってのビーチ・ボーイズたちの何人かは もう亡くなっていた。 だけど生き残ったブライアンは静かに第2章を唄い始めていた。 そのブライアンの様子をワイキキで観た春樹さんの文章がとても良い。 まさに透明感ある水のようでありながら人肌くらいの暖かみのある文章だ。
最近は聴き放題サイトが便利なので、AppleMusicで紹介されている音楽を聴きながら読んだ。これがとてもおもしろい遊びでした。ポートレートインジャズではひとつひとつの紹介が短すぎてあまりその音楽を味わえなかったけど、これは読み応え&聴き応えありです。 まあ、昔からアメリカンポップス・ロック好きとい...続きを読むうこともあり、ブライアン・ウィルソンとブルース・スプリングスティーンの章はなかなか感慨深いものがありました。これを読まなければビーチボーイズのサンフラワーなんて一生聴かなかったかもしれなし、ボーンインザUSAなんてこんな歌詞だなんて気にもしなかっただろう。改めてまだまだ知らない音楽とその歴史があると思い知った。
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