Posted by ブクログ
2015年07月12日
非常にわかりやすいうえに、戦略的思考のいい刺激になりました。
この本が素晴らしいのは、示唆に富む戦略論に加え、その構成にある。
まず著者による戦略理論が述べられ、その後に具体的な事例が豊富に紹介されることにより、各戦略論がスムーズに頭に入ってくる。
そして、理論と事例だけでなく、その戦略を採用するう...続きを読むえでとるべき基本的な方針や注意事項が述べられていることで、実行を視野に入れた議論が可能となっている点も好感がもてる。
さて、本書ではタイトルのとおり、「競争しない」戦略論が、豊富かつわかりやすい事例とともに述べられている。
「競争しない」というのは、マーケットリーダーとの真っ向勝負をしないという意味。いわゆるフォロワーや価格攻勢などといった、しのぎを削る戦略ではなく、リーダーと住み分けたり、バリューチェーンに食い込むことによってリーダーと共存していくという考え方が中心となる。
著者によれば、「競争しない」戦略は、1. ニッチ戦略、2. 不協和戦略、3. 協調戦略の3つに分類できるという。
1. ニッチ戦略
リーダーが導入するには固定費がかかりすぎるような特殊な技術(マニー、ローズなど)や、規模の大きくない特殊な市場を狙いにいく(スリーエム、小林製薬など)ことがニッチ戦略の基本的な考え方。一方で、アナログレコードやインスタントカメラなど、時代に取り残された小さな市場ではあるが、根強いニーズに支えられているところを狙いにいくというものも面白い(東洋化成、富士フイルム「チェキ」など)。
ニッチ戦略を実行するには、リーダーに目を付けられないように市場の量や質をコントロールすること、容易に侵食されないために常に技術と資源を磨いていくことが重要となる。
2. 不協和戦略
リーダーの強みとなる莫大な資産を負債化してしまう戦略。営業職員を豊富に持ち、複雑な契約内容をきめ細かく説明できる資産をもつ大手生命保険会社に対し、ネット専業で成功したライフネット生命保険。また、「いつでもどこでも」がコンセプトのジョージアコーヒーに対し、朝専用を打ち出したアサヒ飲料ワンダモーニングショット。
不協和戦略を取り入れるには、リーダーの強みを負債化してしまうアイデアを生むために、企業がもつ情報・ノウハウが多い「情報の非対称性」を下げることで、バリューチェーンを解体していくことが重要となる。
3. 協調戦略
バリューチェーンの機能の一部を代替したり、新機能を追加したりすることでリーダーとの共存を可能にする戦略。
自社商品・サービスの提供だけでなく、他社も含めたメンテナンスやコンサルタント、仲介業務を行うことによって、市場での補完関係を実現することが中心となる。
他社製エンジンの整備も行うGEや、他社に向けてコンサルタントを行う星野リゾートなどが典型例。
また、協調戦略をとる付加的な価値のひとつとして、「情報が集まる」ということが挙げられる。たとえば医薬品業界のIMSジャパンは医療分野のあらゆるデータを集約することにより、製薬企業や卸し企業が戦略を立てるうえで欠かせない状況を作り上げている。
協調戦略においては、共存が重要であることから、バリューチェーンの一部を担うことはあってもその前後を侵食してはならないということが重要である。
いずれの戦略においても、同様の戦略をとってくる競合他社との競争は避けられず、自社の役割を狙い定めたら、その市場においては寡占を目指すべきとされる。
つまり、「競争しない」ためには、(ニッチ戦略にもあるように)自社が優位となる技術や資産を磨きつづけることが必要であり、止まることのない変革を続けられる体質を構築・維持することが重要なのでしょう。