Posted by ブクログ
2014年02月14日
人間にここまで、残酷な話が書けてしまうのか・・・・・・
今まで、凄まじいまでの流血表現と肉体破壊、身の毛もよだつような殺し方をする犯人、相手を自分と同列の生物と思っていない、楽しさも興奮も欠落した無感情な言葉攻め、様々色々な、エグい内容の漫画をジャンルに囚われずに読んできたつもりだったが、ここまで読...続きを読むんでいて、心が捩じり軋ませられたのは久しぶり・・・いや、初か?
『ディアボロのスープ』や『今際の国のアリス』も第一級と言って差し支えないダークさが醸されているが、両作品ともまだ、善と悪の狭間で揺れ、迷い、決断を下せない生半可な人間がいるだけ、マシである
この『不能犯』に登場するキャラ、ほぼ悪人。しかも、主軸の宇相吹正(彼の負完全な『個性』を鑑みると、この名前も相当にキレてる)以外は、純粋悪でも完全悪でも必要悪でもない、ただただ、己の弱さに屈服した愚か者。残るのも善人っつーより、底抜けのバカ(もっとも、宇相吹からすれば、その『個性』が一等に厄介なんだろうが)
宮月先生が練るストーリーの冷酷さを、神崎先生の温度を感じさせない画風が見事に、全く損なわないどころか、異様に引き出している
これまでのサイコサスペンスに登場し、キャラや読み手を恐怖のどん底に引き摺り込んできた殺人鬼も使ってこなかったであろう、罵声による追い詰めならまだしも、言葉による巧みな誘導での強烈な思い込ませで標的を殺す、その設定がともかく惨新
何にも勝る凶器だろう、彼の言葉は。実際、タネさえ判れば大した事のないように思えるのだが、その単純さが、しばらく経過してから、一層に読み手の恐怖を煽ってくるのだ
一体、何者なのだろう、宇相吹正とは?
生まれながらに絶望を負った、業と咎が深い悪人なのだろうか? はたまた、何らかの実験により造られた天才犯罪者なんだろうか?
悪魔よりも惨酷で残忍で冷徹な人間であるのは間違いないだろうが、少なくとも、彼が話のラストで漏らす、「~~~だね、人間は」の“人間”には自分自身も含んでいるような気がしてならない。彼が動物を可愛がるのも、自分の心が些細であっても生まれる罪悪感を薄める為なのか?
気持ち悪い、おぞましい、でなく、心髄から、肌が音を立てて一斉に粟立ち、胃の腑を裏表引っくり返されるような、純粋な恐怖が湧き上がってきて、思わず、耳をキツく塞ぎたくなる、悪魔の甘い囁きが入ってこないように
仮に、私が選出委員の一人に選ばれたなら、『このマンガがすごい』の上位ランキングの候補に入れるのを迷わないだろう