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明治維新後、新政府の急務は近代国家を支える官僚の確保・育成だった。当初は旧幕臣、藩閥出身者が集められたが、高等教育の確立後、全国の有能な人材が集まり、官僚は「立身出世」の一つの到達点となる。本書は、官僚の誕生から学歴エリートたちが次官に上り詰める時代まで、官僚の人材・役割・実態を明らかにする。激動の近代日本のなか、官僚たちの活躍・苦悩と制度の変遷を追うことによって、日本の統治内部を描き出す。
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Posted by ブクログ
明治から大正初期の官僚と国の成り立ちについての書籍。 儒学理念に裏付けられて前例踏襲・変わらないことが求められた時代において、人々が如何に伝統を変えていったかが描かれている。 そのきっかけとして大きな役割を担ったのが洋学である。1870年に洋学教育機関として設立された大学南校(東京大学の前身)での...続きを読む学び、留学を通して得られる知見の重要性がある。本書では大学で学ぶ学生の闊達な雰囲気が描かれているが、読んでいて大変心地よいものがある。また、1882年には伊藤博文が憲法調査団にて諸外国の制度や知見を吸収して日本の制度改善につなげている。 現在の日本は前例踏襲に縛られ、新しいことに挑戦できていないのではないだろうか? 諸外国と比して、科学に基づかず、場当たり的な対応をしているのではないだろうか? 1917年に内務省に入省した安井の以下の文章が刺さる。 「自己の内部にあるものが何の方向に向かいつつあるか、また向かうべきものであるかを了解せずしていたずらに新しそうなものに目が眩んでいる日本は誠に危険なものだと思う。日本に内在している生命が何であるかを確かめて、これを新しい文字と組織とに実現化していくことを考える政治家は賢明なる政治家であって、忠良なる国民である。」
明治期から大正にかけての政治家、行政官など、人に焦点を当てて、その変遷について述べられた本。極めて精緻な研究に基づいている。特に、明治維新からの歴史の流れに沿って政治・行政の体制を明確に示していること、人材育成について詳しく調査されていること、中央と地方との関連性についても述べられていること、政治家...続きを読むと官僚との関係の分析が精緻なことなど、その分析・研究は深く、勉強になることが多かった。すばらしい研究書である。 「伝統的な世界で生きる者にとって、藩を捨て、藩主を捨てて新政府に仕えることは背信行為と映る。新政府の官僚たちは能力ではなく、その軽い行動ゆえに地位を得たという否定的な見方が嫉妬と羨望が深く交錯しながら存在していた」p41 「(貢進生制度)人を集め、競争によって学び進めることがなければ、わずか一度だけの実施でこれだけの成果は得られなかっただろう。近代日本の出発点における大きな成功といってよい」p69 「幕藩体制による長く安定した身分秩序のもとで暮らしてきた上士たちにとって、洋学を学ぶことは彼らの領分から外れた行為であった。佐久間象山がいうように洋学は実学と理解されていた。それは算術と同様に実務に携わる上士が学ぶものと映り、上に立つ者に求められるのは技術ではなく道徳であるという考えに立てば、上士には不要の学であった」p73 「大久保利通はイギリスを訪れた際に、議会政治で知られるイギリスを支えているのは優秀で安定した官僚機構であることを理解し、このことに深い感銘を覚えた。突出した政治家だけでなく、堅実な知識、技術を持った官僚が登用され、両者の協働関係を築いていくことが、この改革の本旨であった」p132 「徴士制度で人材を集め、大学南校で人材の育成に力を入れてきた明治政府であったが、諸藩からの勢力が定着するにつれて旧知縁故の人脈を頼った情実人事が横行し、無能な官僚が大量に政府に寄生していた。非効率で不公正な人事は非難の的となり、民権派は試験任用制の導入を主張した」p149 「人材登用の制度を整備し、不要な人材を放逐し、有用な人材を集める途を開くことが求められた」p161 「(明治中期)首相の地位は権限なくして責任ばかりを問われる面倒な役回りとなり、内閣が崩壊するたびに、誰が首相となるかではなく、誰ができるかという責任の押し付け合いが繰り広げられた」p219 「山県をはじめとする幕藩政治家たちは、議院内閣制を認めるかたちに憲法が改定され、政府が議会に支配されることを恐れた。ベルギー流の立憲議院内閣制が導入されれば、同時代のスペインやギリシャのようにポピュリズムが蔓延し、人気取りの政策が横行した結果、取り返しのつかない事態が生じるのではないかという危惧である」p224 「(明治末期)議員は名誉的に一期だけ務める者が多く、地方の名士であるといっても政策知識は皆無であった。彼らは自己の利益に関するものに拒否権を発するばかりで、自ら積極的に国政に臨む気概は持っていなかった」p263
幕末維新時代から大正デモクラシーまでの官僚たちの像に迫った本。制度史と当時の人々の考えの両面を丁寧に調べあげていて素晴らしい。維新時代にかき集めた、維新雄藩のお偉方や各藩の士族たちの官僚組織から、伊藤博文をはじめ広く頭脳を集めるとして官僚登用試験を開始するとともに大学を普及させて官僚養成校とした時代...続きを読む、大学が普及するとともに 学士官僚が官僚政治家として国政を支えた時代、そして1890年に帝国議会が幕開けし徐々に官僚や学生が政党政治家としての道を模索していく時代と、時代の流れがよく描かれている。それぞれの時代が移り変わっていく時の旧勢力と新製力の摩擦、時代の移り変わりを機敏にとらえていく学生の回顧録など、読んでいて飽きない。
「坂の上の雲」の官僚版であると同時に、近代日本の成立の過程を詳細に学ぶことができる。今現在の日本の官僚制度が今後どうなっていくべきかを考えるための基礎知識。
終章を含め全部で7章構成(1.維新の時代ー誰が統治を担うのか、2.明治政府の人材育成ー身分の超克、3.立憲の時代ー1870年代〜80年代、4.帝国憲法制定前後ー高等教育の確立、5.憲政の時代ー1890年代〜1910年代、6.大正デモクラシー下の人材育成、終章 統治と官僚の創出)の本書は、近代日本を支...続きを読むえてきた官僚に焦点を当てて、人材と時代の相互関係をコンパクトに叙述している。類書が少ないだけに非常に有用であろう。 時代と人材のダイナミクスの向こうには、3つの構造、すなわち制度としての民主主義、集団としての官僚、個人としての自己達成という3つが存在していると著者はいう。中でも公議輿論の達成(民主主義)がもっとも重要であり、それは国会開設と議会政治に体現されたが、もう1つ行政の開放によって達成された。試験制度を通じて国家統治に参画できる制度の実現がやがて藩閥政府から横断型政党政治への転換を実現していった。 大正デモクラシー期、第1次大戦期以降、官僚は再び活気づく。新しい問題の出現(とくに経済問題、社会問題)によって官僚の専門性が脚光を浴びたからだ。同時に政党の弊害も露わになってくる。やがて官僚が「中立的な立場」からの国家改造を目論むようになる。新官僚、革新官僚の出現がそれである。本書は、こうした新官僚・革新官僚出現の手前で筆が擱かれているが、戦時体制を経て戦後へ続く政治と官僚の協働のあり方を考える上でも非常に示唆に富んでいる。
慶應義塾大学総合政策学部准教授(日本政治外交史)の清水唯一朗(1974-)による明治・大正期の官僚育成・任用制度の成立過程。 【構成】 第1章維新の時代-誰が統治を担うのか 1 明治国家の誕生-行政機関の樹立 2 藩士から官僚へ 3 維新官僚の登場-旧秩序を飛び出した人材 4 公議輿論と人...続きを読む事一新 第2章明治政府の人材育成 1 立国の人材登用策-身分の超克 2 大学南校貢進生-全国から集まったエリートたち 3 大学生たちの留学 第3章立憲の時代-1870年代~80年代 1 維新官僚の台頭-総合調整と分担管理 2 岩倉遣外使節団と制度調整 3 明治十四年の政変 4 内閣制度の創設-責任政治の模索 第4章帝国憲法制定前後-高等教育の確立 1 学士官僚の誕生 2 専門官僚への道-藩閥支配を超えて 3 高等文官試験-試験採用制度の導入 4 学士官僚たちの肖像 第5章憲政の時代-1890年代~1910年代 1 隈板内閣の挑戦-初の政党内閣と官僚 2 政権交代と官僚の党派化 3 二大政党の誕生 4 政党内閣の時代へ-官僚か、議員か 第6章大正デモクラシー下の人材育成 1 試験至上主義の到来 2 新しい階層化と派閥化 3 デモクラシーの時代と官僚 終章 統治と官僚の創出 近代国家の成立・確立とともに需要が一挙拡大した官僚。 本書は行政機構としての官庁というよりは、その官庁に出仕する官僚たちを国家がどう育成し、選抜・任用してきたのかという視点を通して、日本の官僚制度そのものの特質を描き出そうとするものである。 徳川将軍家から政権を奪取した明治政府であったが、新たな行政組織を形成するには決定的に人材が不足していた。そこで、「五箇条の御誓文」で謳われたように、有為の人材を広く全国から集めようと試みた。しかし、版籍奉還を経てもなお、彼らは「藩」という垣根を越えられずにいた。 明治政府の方針は、実力主義の人材登用である。藩という意識に凝り固まり、西洋の学問を受け付けない頑迷な雄藩藩士などはもとより願い下げであったろう。明治政府の凄みは、早くも1870年に大学南校(開成学校を改組、のちの東京大学)に貢進生と呼ばれる全国の俊英を集めたところにある。 各藩から選出された貢進生はエリート中のエリートであり、官僚の促成栽培を目指す政府の方針によりさらに選抜され、海外留学を送り出されていく。 原語を操り、欧米の産業・工業力の水準を目に焼き付けた彼らが、明治10年代の行政機構の中で本格的な官僚として実績を積んでいく。 各藩から選ばれた貢進生はやがて、大学予備門、第1高等学校をはじめとする難関入試を突破した学生へ置き換わっていく。そして高校を出、帝国大学を卒業した学歴エリートたる学士官僚が誕生する。 初めての学士官僚が出た1888年から5年を経た1893年、ついに文官任用令が制定され、官僚機構の担い手は東京帝国大学をはじめとする高等教育機関の卒業生が主流となった。 当然の帰結として、藩閥政府の縁故によって採用されてきた明治初期の官僚達が舞台から去って行くこととなる。 面白いことに、学士官僚達は巨大な官僚組織の中核として国家行政を担うに飽き足らず、議会の政党政治色が強まるに従って、「政治化」「政党化」していく。明治末期から大正にかけて各省の次官級は政党との関係を強め、官僚から政党員として選挙に打って出る者も出てくる。 高等教育、官僚選抜制度、内閣-議会間の関係性といったマクロな視点をベースに、立身出世を果たした官僚たちの群像を描くことで、元勲や党人派の政治家だけでは語りきれない近代国家を形成した枠組みが立体化される。 現代の官僚機構についても、この時期に形成された特質がなお続いていると感じられる部分があるだろう。そういう点で種々示唆に富んだ一冊である。
明治維新より大正デモクラシーに至るまでの政治史を官僚制度、 ひいては官僚個々人にスポットを当て紹介する一冊。 多くの人物のエピソードが披露される傍ら、制度の解説もわかりやすく、 明治初期に政治のしくみや大学のしくみをいかに構築するか 悩み実現する試みは、これまでになく興味をそそり面白く読み込めた。 ...続きを読む筆者の語り口もあり、さながらドラマのような盛り上がりを見せる点も 飽きさせない一因か。 今につながる制度に込められた狙いや、それ故に生じた矛盾など、 非常に興味深い。
明治政府誕生から大正デモクラシーまでの官僚史。幕末の志士たちを中心とした維新官僚から藩閥官僚、帝国大学を卒業し立憲主義を近代国家の理念として捉える学士官僚への世代交代は政党政治の発展に大きな影響を与える。桂園内閣期の相次ぐ政権交代により官僚は党派性を帯びるようになり、遂には官僚出身者が党人として政党...続きを読む内閣の下で閣僚を務めるに至る。
江戸末期、明治、大正の各時代の官僚の動態がいきいきと描いた良書だろう。十分な史料に基づき官僚という集団の特質をあぶり出し、その際重要な役割を演じたのが、立身出世の登竜門である旧制の高等学校・帝大、さらには私大を含めたその他の大学という高等教育機関という見方もできよう。この視点を持ちながら本書を読んだ...続きを読む。第2章では実際に大学の生活の描写も多く、勤勉さだけではないやんちゃぶりも書かれており、現代に通ずる大学生の生態がよくわかった。今日、大学のヒドゥン・カリキュラムの効用より正課における授業内外学習時間が話題になるが、時代を問わずに、ある程度時間的余裕は必要だと感じた。そうした余裕があった上での、試験制度による官僚登用システムなのだろう。
所謂文系と理系を分けたのはここにあるのか〜と。結局統治は儒教ベースで、それは武士が学ぶもので、政治の仕組みは海外からの輸入だから全部翻訳もの。技術みたいな実学は下士が学ぶものっていうことなんだろう。だから理系っていうのは下々の者が学ぶものっていう位置づけなんだろうな。。
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