書店員のおすすめ
「殴り愛」の極北のようなストーリーなのに、名作として愛され続けている本作。
最初は、くだらない因縁をつけられたのをきっかけに、顔を合わせるたびに殴られて、殴られる側もその行為に背徳的な快感を覚えて……という関係だったのが、いつしか体の関係も持つようになり、関係が深くなっていくにつれて暴力はなくなっていき、というのが本作の大筋です。正直に言うと、初めて読んだときにはピンとこない部分がありました。
暴力でつながっていた2人からどうして暴力が失われていき、それでもなお一緒にいるのでしょうか?
しかし、新刊が出るごとに読み返し、自身も年齢を重ねていく中で、不思議としっくりと理解できる瞬間が訪れました。2人が出会い共に時間を過ごす中で、関係性や接し方が変わっていくのが“恋愛”なんだ、と。さらに、その変化の根底には恋情だけでなく、人間としての成長もあるのがエモくて、読み返す回数を重ねるたびに三崎と釧路のことが愛おしくなり、『スニーキーレッド』がかけがえのない作品となっていきます。
暴力でしか感情を出すことができず、自身もその衝動に苦しんでいた釧路が、三崎と出会ったことで衝動をコントロールできるようになり、三崎も釧路に顔面を殴られて無断欠勤するような無責任・無気力バイトだったのが正社員になり――と、破滅的な関係から始まった2人が互いを救い合うようにして幸せになっていく姿が尊いオブ尊い……!
「殴り愛」的なアブノーマルな関係だった2人が丸くなっていく話、とも少し違っていて、暴力でしか対話できなかった2人が色んなコミュニケーション方法を身に付けて世界を広げていく成長物語なのだと思います。闇の腐女子にも光の腐女子にも読んでほしい、尖っているのに全方位対応型の作品です!