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Posted by ブクログ
特捜部Qはこじんまりとした部署である。責任者兼唯一の捜査官(つまり警官)であるカール・マーク警部補。警部への昇進セミナーに断固として出席しないと上司に交換条件を持ちかけて意地を通したので、警部補のままである。その唯一の捜査官であるカール、助手のアサドはシリア人らしく、警察官ではなくあくまでも秘書と言うかお手伝いと言うか、なかなかに説明の難しい役どころだ。そしてもう一人ユアサと言うオペレーター的な、秘書的なアシスタントもいて、実質3人で回している「未解決事件」を取り扱う部署だ。
海から流れて来たボトルの中に入っている血文字で書かれたメッセージを解読する事で事件が発覚する、と言う、こうやって書くと如何にもフィクション的で現実味のないように感じるのだが、このメッセージが数年間放置されており、最初は誰も何も気づいていないと言う呑気さ、そこから流れ流れて特捜班Qにやってくるのだが、この辺りの時間の流れはもしかしたらお国柄・国民性に付随しているのかもしれない。この、見えない文字を読み解く、と言う辺りの、二人のアシスタントの独創性、カールが職業柄として持ち得る科学捜査的知識に対して、鑑識課を辞めた人間にお手伝いを頼むと言う、なんとも警察組織でない動き、正にカールの人脈頼りと言う、真面目なんだか不真面目なんだか分からない辺りがこのシリーズの魅力の一つで、会社の中で仕事をしている人間なら判るが、人脈で自分の仕事がやり易くなったりやりにくくなったり(上司や部下も然り)、この辺りが実にリアルなんである。
第1作目の『檻の中の女』読後からすっかり主人公であるカール・マークが大好きになったのだが、本作からアシスタントの二人の個性がちらほら噴出して来て、決してチームとしてまとまっているとは思えないのだが(助手にあまり敬って貰ってないマーク)少しずつ距離感が詰まっていくのが感じられる3作目。
犯人の視点から見た犯人の行動描写と、カールたちの日常が交互に描かれる。犯人は牧師の息子として生まれたが、聖職者でありながらも感情のままに自分に暴力をふるった父親への憎しみを、宗教的な家庭の子供を二人誘拐し身代金をせしめ、一人は殺害、一人は脅しのメッセージを託して家に返す、と言う手口で収入を得て、幾つもの偽名を使い、宗教に傾いていない女性を探し結婚し、子供を得て、何食わぬ顔で一つの家庭を築いている。その裏で、金を稼ぐ手段として誘拐を続けている。
子供の頃の育ち方で他者に一切の感情移入が出来ない鬼畜な犯人にカールたちは辿り着けるのか、と言うのが本作。
事件とは別に、カールは一目見た時から好みだ、寝たいと思い続けている精神科医のモーナと色っぽい関係を結ぶことに成功したり、元妻が戻って来たいと言っているのを義理の息子に金を握らせて阻止したり、自宅介護を引き受ける事になった元同僚で、寝たきりのハーディの具合が悪くなってまた病院に戻さなくてはならなくなったりと、決して平穏なプライベートとは言い難いと思うのだが、カールは疲れたとか絶望したとかしんどいとか、愚痴を言わないのだ。疲労はしているが、殊更に頑張ろうともしないし、落ち込んだりもしない。なんと言うか、全部をキャパ越えちゃうんじゃないかくらいに受け入れる訳ではないのだが(元妻に対しては直接的にNOは通じないと分かっているから策を練ったりする)目の前から消そうとしたり見なかったことにしたりせず、自分に可能であれば相手の要求に応えようとする。事件に対しても、そんな何年も前に未解決となった事件など今さら調べても、とチラッとは思うのだが(現実的に)やってみようとする。この「等身大」なバランスがやっぱりカール・マークの魅力の最たるところだ。
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小説・文芸
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