(兆史)
たとえば、For here or to go?という表現を見てみよう。これは主にアメリカのハンバーガー屋の店員が、客が品物を店内で食するか持ち帰るかを確認するために用いるものである。逆に言えば、その状況以外で用いられることはなく、例文としてきわめて発展性に乏しい。第一、前置詞+名詞と to不定詞をorでつなぐ変則的な構文を初学者に理解させるのはほとんど不可能だから、勢いそのまま覚えなさいと指導することになるが、生徒は、「英語圏のハンバーガー屋では、品物を持ち帰るかどうかをFor here or to go?という表現で尋ねてくる」ということ以外、何を学んだことになるのだろうか。こんな表現は、海外旅行者用の会話本にでも載せておけばいいのである。
店員の最後の台詞に現れる Here you are. についても同様のことが言える。これまた、たしかに四十年前の Here is a pen. に比べて実際の会話でよく耳にするが、対面状況で物を差し出す動作を補うだけの表現だから、これを知らなければ対応に困るような状況は皆無だと言っていい。少なくとも、中学1年次に学ぶべき英語ではない。このように系統的に説明のしづらい「実用的」な表現を教えたがるのが、いまの英語教育の悪いところだ。日本語話者の英語習得の順序を読み違えていると言わざるを得ない。( p8〜9 )