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一九四○年、太平洋戦争勃発直前のサイパン。日本と各国が水面下でぶつかり合う地に、横浜で英語教師をしていた麻田健吾が、南洋庁サイパン支庁庶務係として降り立つ。ここにはあらゆるスパイが跋扈し、日本と他国との開戦に備え、情報収集をしていた。そして麻田もまた日本海軍のスパイという密命を帯びていた……。時代が大きなうねりを見せる中、個人はどこまで自分の考えを持つことができるのか? そして、どこまで意志を通すことができるのか? 南洋の地を舞台にした壮大な物語、待望の文庫化!
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Posted by ブクログ
太平洋戦争勃発間近の南洋の地を舞台にした物語。 前半は、英語教師をしていた麻田健吾が、表向きは南洋庁のサイパン支庁で庶務課として勤務する一方で、日本海軍のスパイとして秘密裏に活動していく様子が描かれる。 各章ごとに、健吾がスパイ活動をする中で直面した事件をミステリー仕立ての物語にしてある。民間人...続きを読むの健吾が、密命を受け、命をかけて活動するため緊張感があり、事件の真相を探っていくことに没頭して読み進めた。 後半は、幾つかの事件を通して命の尊さに思いを巡らすなかで、徐々に近づく開戦を前に、個人の思考の自由が奪われていく様が描かれる。 まさに戦争ムード一色。 日本国軍の勝利を信じて疑わない、或いは、疑うことが許されなくなってしまった日本。上官の存在を欠いてもなお、最後まで健吾が、己を失わずに守り抜いた信念に涙が溢れた。 戦後、豊かな日本に生まれた私にとって、戦争の実体験を見聞きする機会は、徐々に失われつつある。 ただ、語り継ぎ、意義を考え、命の尊さに思いを巡らすことは、いつの時代でも出来る。 本作は、南洋の地での戦時中のスパイ活動という斬新な角度から構想を練られた戦争小説。 個人の死を美化する当時の風潮をクローズアップした作品には、書くことを生業にされている作者ならではの熱い想いが感じられた。また、戦争を知らない若い作者が、戦争を題材にした新しい物語を完成されたことに、敬意と賞賛の気持ちで満たされた。 この灯を決して消してらならないと改めて感じた。 今年で戦後80年。 伝えよう、学ぼう、考えよう。 現代を生きる多くの人にオススメしたい一冊。
レビューを拝読し、読みたくなった作品。 ちょうどいいタイミングで文庫化したので手に取った。 1940年、横浜で英語教師として勤務していた麻田健吾は友人の勧めで、太平洋戦争直前のサイパンに赴任することに。表向きは南洋庁サイパン支庁庶務係、裏では日本海軍のスパイという密命を帯びていた。 他国のスパイ...続きを読むを摘発するスパイとなった麻田が、様々な”謎”を追って情報収集する様にワクワクしたり、その過程で窮地に陥り、手に汗握るほどハラハラしたりと楽しめた。 サイパンの風景描写にも心が踊った。 私も椰子の水を飲んでみたいし、鳳凰木も見てみたい。 終盤、物語が急展開を見せ、あるテーマが浮かび上がってくると同時に、そのテーマがこれまでの”謎”の中でも言及されていた事柄であることに気付いて感嘆した。 戦争を知らない世代だから「死を美徳とするなんて…」と思ってしまうけれど、もしその時代に生きていたら、麻田と同じことが自分にできるのか? 時勢に逆らって自分の信念を貫けるのか? 近い将来、戦争が起こるかもしれない日本に、再びこのような時代が訪れたら…? と考えずにはいられなかった。 太平洋戦争前後の時代情勢の描写もあり、知らなかったことを知れて勉強になった。 是非多くの方に読まれてほしいな、と思った。 ✎︎____________ 人は、具体化されていないものを想像することはできない。手段を与えられて初めて、思い至ることもある。(p.207) 私たちも、一人ひとりが体内に毒を持っている。それは今まで摂取してきた風習や倫理観、人間関係、そういった要素からできあがるんです(p.214) 私はね、生まれながらの悪人なんて存在しないと思っています。皆、生まれた時は無垢な存在です。しかし育っていく過程で、残念ながら悪の素質を身に付けてしまう人間がいる。自ら進んで悪を取り込む人間も、致し方なく悪を食らう人間もいる(pp.214~215) 読書歴はその人物そのものである。(p.284) 他人の死を願うことなど、どんな状況であれあってはならない。許容される死も、許容されない死もない。どんな言葉で飾り立てようと同じことだ。 死はすべて、死でしかない。 親しい人の、敬う人の、愛する人の死に接した時、誰にでも慟哭し、嘆き、憤る権利がある。しかし飾り立てる言葉は、その当たり前の権利を奪う。死を許せ、死を喜べ、と人々に強制する。(pp.431~432) 短歌や英語では敵を倒せない。だが、それは人に生きる力を与え、生き延びる道を与える。(p.445) あの時代に誰かを恨まず、無垢なままでいられた人がいましたか? 大切な人を殺され、故郷を焼かれて、それでもなお日本もアメリカも恨まず、生き延びることだけをまっすぐ考えていた人がいると思いますか?(p.460)
時は1940年。 処はサイパン島。 常夏の島を舞台にした諜報合戦。 なんとなくあらすじから 日米での諜報合戦をイメージしていたけれど、 諜報が戦争に直接つながるという情報のものではなく 内偵の物語。 壮大な物語ではないけれど、これも戦争。 あまり語られることのない部分で、 当時のサイパン島の描...続きを読む写も含めて興味深かった。
毎年この時期に戦争に纏わるものを読もうと思って2年目。今年は「最後の鑑定人」の岩井先生の著者を手に取ってみました。 太平洋戦争勃直前のサイパンを舞台にしたスパイものとのことで、スパイ映画的なモノ(前に読んだもので言うなら「破滅の王」なような)を勝手に想像してしまっていたのですが、主人公は元教師の温...続きを読む厚な人物で、こんな人がスパイなんて出来るのか?と首を傾げてしまいました。…が、見るからにスパイ!みたいなキレものっぽい人だと逆に諜報活動してもすぐにバレてしまうんですかね?自分が同じ立場になったらここまで立ち回れるか。四苦八苦しながら日本で待っている家族のために諜報活動を必死に続ける主人公の姿に心を打たれながら読み進めました。 全体を通して1つの話なのですが、4章+終章から成り立っていて、各章で1つの諜報に関わる事件が描かれています。史実をベースにした話なので4章では戦争が始まってしまい個人の尊厳が軽んじられる時勢になってしまいます。4章の中では戦争の中で主人公がどうなったのか分からないまま終わり、終章で戦後の話が描かれ主人公がどうなったか明かされますが涙涙でした。最初、本のページをめくった際に短歌が載っていて、短歌を嗜まないわたしにはなんのことか?で、さして気にも止めず最後まで読み進めたんですが、最後に繋がってまた涙でした。 ありきたりな感想と思われるかもですが、戦争は古今東西を問わず人間が人間としてのあるべき姿を奪ってしまうものであり、いかなる理由があっても戦争はしてはならないと再認識しました。
文庫の新刊。戦争中の民間人を巻き込んだ情報戦を巡るミステリー。スパイ活動の標的にされ命を落としていく不条理を描く。南洋諸島が舞台になるのは新鮮。若手作家が戦争の記憶を繋いでくれることに感謝。
初めは、戦時下を舞台にしたミステリーものとして読み進めていました。 後半、生きる為に懸命に足掻く主人公に胸打たれました。死ぬ事を美化する物語もありますが、どれほど格好悪くても生きようとする主人公が最後までカッコよかったです。
こちらは単行本未読だったので文庫で出てすぐに買いました。サイパンを舞台に、戦時中の犬=スパイを扱ったお話。歴史の勉強にもなるし、謎解きの要素もあってハラハラしながら惹き込まれて一気読みでした。戦争の愚かさを改めて感じるし、このような世界観で読ませる作品に仕上げた岩井さんに脱帽。岩井さん、ますます絶好...続きを読む調では?これからも楽しみな作家さんですね。
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岩井圭也
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