Posted by ブクログ
2011年08月18日
坂本龍馬が31歳で岡田以蔵が27歳、吉田松陰の29歳に久坂玄瑞の24歳、そしてこの高杉晋作が27歳というほど、幕末の志士たちの夭折さは今さらながら無念の思いが募るばかりです。
それは単に、あたら若い命を惜しくも失くしたことを嘆くだけでなく、あの時代のあの時期にあってもっとも重要な考え方や動き方をし...続きを読むた人物を喪失したということが、その後の日本にとって大きな損失になった、否、間違った方向に行ってしまう契機になったとさえ思われるからです。
それと、私も大好きではありますが、司馬遼太郎をはじめ幾つもの小説にとりあげられることで、あまりにも坂本龍馬だけが飛び抜けすぎて、もうひとり、大事な人物を忘れちゃあいませんかってんです、こちとら江戸っ子じゃなくて京都っ子だァ、そうそうそいつは森の石松でェ・・・あっ、いけない、ごめんなさい、昨夜、ついに禁断の浪曲を、初めて広沢虎造の『清水次郎長伝』『森の石松三十石船道中』などを体験してしまって、まだその余韻の中にあったものだから、ついつい。
浪曲を聞いたのはまったく初めてですが、これはいってみればひとりミュージカル、三味線と合いの手に乗せて回しを利かして謡われる浪曲と語りの部分の絶妙なコントラストは、巧妙なドラマツルギーを創出するトリックとしてある気がします。私には初代も二代目もそれぞれ味があるので甲乙つけがたいものでした。
それはともかく、以前から、いわば時代の変革の流れを逆行させようとして反動的な活動をした新撰組の方が、やはりこれも歌舞伎や映画や小説のせいで過剰にとりあげられすぎで、同じ農民・町民を組織したというなら奇兵隊をもってして日本の夜明けを切り開こうとした高杉晋作が何故もっとクローズアップされないのか歯がゆかったのですが、実を言うと彼の肉声そのものに耳を傾けたことがありませんでした。
その意味で、高杉晋作が残した六つの日記を、わかりやすい現代語にして解説が加えられているこの本は、まさに私が待望していた本です。
六つの日記とは・・・・
(一)東帆録:萩から江戸までの航海実習日記
(二)試撃行日譜:北関東・信州等を歩いた旅日記
(三)せつ御日誌:初出仕したエリートの萩での勤務日記
(四)初番手行日誌:若殿様の側近として江戸での勤務日記
(五)遊清五録:上海で欧米列強の脅威を痛感した旅日記
(六)投獄文記:失意の中で内なる自分と向き合う獄中日記
・・・ですが、ここから浮かび上がってくる彼は、親孝行だったこと、主君に忠実であろうとしたこと、せっかくの奇兵隊も彼の武士としての自意識過剰で平等とはいえなかったこと、獄中では自暴自棄におちいったり弱気になったりとけっして闘士あふれる人ではなく普通の青年だったことなど、以外にも期待はずれ予想外の現実でした。
その平凡な高杉晋作が大変革をみせる兆しとなったのが、幕府の貿易視察団の一員として上海にいった異郷体験だったようです。
中国にある上海でも英国や仏国の属国である、ということを鋭く察知した彼は、日本もやがてそうさせてはならない、という強い意志を持って、日本のために自らが奔走する道を選んだのです。
27歳で惜しくも病死してしまいますが、この六つの日記は、彼の闘いの歴史をはっきりと示した生きるあかしとして、広く読まれるべきものだと思います。