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ナチズムの虎口を脱したポパー(一九〇二―九四)は,亡命先のニュージーランドで,左右の全体主義と対決し,その思想的根源をえぐり出す大著の執筆に着手した.その第一巻では,プラトンを徹底的に弾劾,大哲学者を玉座から引きずりおろすとともに,民主主義の理論的基礎を解き明かしていく.政治哲学上の主著の全面新訳.全四冊.
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Posted by ブクログ
知的誠実さが極めて高い論証を読みたい人におすすめ。 ヒストリシズムや本質主義、自然主義に依拠するあらゆる言説を批判するとともに、プラトンが全体主義と酷似した政治理論を提示したことを論証する。 対して、個人の権利や自由を保証するために国家が必要であるとする「保護主義」を擁護するとともに、保護主義がプ...続きを読むラトンに遡って不当に批判されてきたことを示す(不当な批判としては、個人主義と全体主義、利己主義と人道主義の関係を整理し、それぞれの組み合わせが可能であるにもかかわらず個人主義と利己主義を同一視して人道主義の義憤を促すといったものがあった)。 カントについて触れた、自然科学の人間中心的な説明も面白く読める。
日銀総裁だった黒田さんが高校生で夢中になったカールポパーであります、手に取って、パラパラと、という感じでありますが、難解ですね。
岩波文庫で500ページ超×4分冊の構成になるようだ(まだ1冊目しか出版されていない)。 ナチズムの虎口を脱したポパー(1902-94)は、亡命先のニュージーランドで、左右の全体主義と対決し、その思想的根源をえぐり出す大著の執筆に着手した。その第一巻では、プラトンを徹底的に弾劾、大哲学者を玉座から引...続きを読むきずりおろすとともに、民主主義の理論的基礎を解き明かしていく。政治哲学上の主著の全面新訳。全四冊。 構成は、第1分冊(本書)と第2分冊で第1巻「プラトンの呪縛」を、第3分冊と第4分冊で第2巻「にせ預言者ーヘーゲル、マルクスそして追随者」をカバーしている。500ページのうち本文は300ページで著者注が200ページあり、注だけでもそうとう読み応えがありそう。 第1巻には冒頭の序文と序章の間に「イマヌエル・カント 啓蒙の哲学者」という30ページの講演が収録されており、これだけでも相当に面白い。また、カントの位置づけとその後のヘーゲルとの関係をしっかり認識しておかないとこの後(特に「にせ預言者」のパート)の理解に関わってくるだろう。 そんなわけで、「イマヌエル・カント 啓蒙の哲学者」を読んだだけの段階だが備忘録としてここに記しておく。 カントの「啓蒙」と「人間の自由」分析の意味を30ページでキッチリまとめている。あまたあるカントの解説書との違いは、そうしたカントの哲学史のみならず文明史や政治史における位置づけ、とくにカント後の世界を席巻した全体主義や共産主義(そして、その道筋を作ったヘーゲル)との関係が明らかにされていることにある。 日本(だけでもないのだろうが)で書かれたカント本は、ヘーゲルの研究者が書いたものなどあったりして、カントとヘーゲルの関係についてポパーとは全く違う解釈もあったりする。その辺は、まさに「自分で考えなければ正解はわからない」ということ。
!注意! きつい言葉を使用した感想なので、読む場合は注意してください。 本書はヒストリシズム(歴史法則主義、歴史信仰などと訳される)の弾劾と、非人間的、権威主義、暴力的統治、圧制や抑圧こそを善しとする閉じた社会の共感者「開かれた社会の敵」を分析し、自身の理性を使い、話し相手の理性も信頼し、自分...続きを読むが間違ってるかもしれないという謙虚な態度を持ち、民主的な改革を望む人達が、閉じようとする勢力にどう対処すべきか解決策を模索するようにできている書です。 ヒストリシズムというのは、歴史には最初から目的があり(共産主義社会の実現に向けて動いている等)私達には知られていない私達を影から動かしている法則とか規則があり(歴史が私達に何をすべきか告げ、歴史が私達に代わり決定を下す)その法則を発見し分析すれば、未来に何が起こるのかも予測できる、という考えです。 人間は道徳的な決断もする必要ない(道徳的義務から解放されている)歴史が人間に代わって裁いてくれるから、といった考えにも至り、モラルの問題としても深刻で危険なわけです。 私達人間を動かしてる力は強大なので、社会の民主的な改革など不可能だという偏見の元でもある。 また、目的にむかって自発的に展開していくということは、現在あるものが最善という考えに至り、これが政治に適用されると現在の政権が最善という、まことに独裁者に都合の良い論理でもあるのです。 この弾劾の過程で、左右(ナチズム・共産主義)のヒストリシズムが批判されます。 この左右の歴史法則主義は、歴史の舞台において真に意味ある演じ手は、偉大な民族やその指導者(プラトン)、あるいは偉大な階級(マルクス)や偉大な理念(ヘーゲル)で、これらを考察し歴史法則を暴き、未来を予測すると考える点で一致している(本書第1章冒頭) この冒頭で本書の批判がどこに向けられているのかが分かります。 結論からいうと、ヒストリシズムというのは論理的に成り立たず、歴史には法則などなく、本物の法則のように初期条件に依存せず、反論自体が不可能で(反論を回避していることは利点ではない)、科学的予測とは違い降ってわいてきた占いや予言と同じ物だと。 『ヒストリシズムの貧困』では、そういうものは発展の法則ではなく絶対的「趨勢」だと言われている。 ポパーにとっては普遍理論さえたえず批判にさらされているべきだと言う。批判できる余地があることが理論が科学的と呼ばれる地位を獲得できる。 こうした批判がなされないと、歴史法則主義者は気ままな理論を構築し、自分の好みの理論が消えるような条件で検討することをしない。これこれの性質の趨勢が存在すると言われても、こうした言明はテストできないので、本人はずっと希望的な思考を保持できる。結果、ユートピアは確実にやってくる!といった幻想に目を晦まされて、視野が非常に狭くなり(貧困)、抵抗しがたく私達をその人達のお気に入りの未来に連れていくことができる(川村仁也『ポパー』清水書院) このシリーズ全4巻を読めば、人間というものは天国や楽園といった究極世界や完成された世界、ゴールの世界のようなものには安住できないということがわかると思います。 また、ヒストリシストが往々にして陥る「ユートピア社会工学」も批判されます。 楽園の建設という、実現に時間のかかる遠大な大規模構想を練る国家社会建設です。 あまりにも国家の計画が多過ぎて、目的を集約できない。 計画が多過ぎて問題がどこにあるのか分からず、上手な軌道修正ができない。 そして革命の第一世代では建設が終わらない。 世代が変わると当初の目標も変わってしまい、ゼロからやり直すなんてことも起こる。 (ソ連を見ればいい、レーニンの世代で終わらずスターリンの世代でもその次の世代でも計画は終わらなかった。最終的にどうなったか) 計画通りに進んでないことについて民から怨嗟の声が上がってくるが、最優秀者が国を率いると驕っている閉じた社会の共感者には、そんなものに耳を貸す謙虚さはない。 ヒストリシズムの問題は、知力や理性の放棄、堕落に繋がるということと、この考えに染まった権力者により、社会を全て破壊した後打ち立てる大規模計画と侵略戦争を肯定する全体主義・独裁国家が生まれるということ。 第1巻では、こういったものの源流にプラトンがいるとして彼を批判、もとい弾劾してます。 「平和や自由や正義を説いてるのに、何でこの人達はいつも暴力的なんだろう」という謎が解けると思います。 それは私達が 「精神的な独立性を偉大な人間にささげきってしまい、従属していまうという悪臭を断ち切らねばならないということ」(第一分冊27ページ) であり、またそれは私達が 「なされるがままになり、世界をコントロールするいっさいの責任を、他の誰かある者に、あるいは人間をこえた権威に委ねることの拒否でもある」(第一分冊32ページ) これが解決策でもあるんですが、自分の知力を使う勇気を持つこと(カント) 閉じた社会では、いち個人が自分の知力を使い自由に考えを発表できる、という権利が搾取されている。 マルクス及び追随者は搾取を問題視したが、搾取ということなら彼らも人々の精神的な独立性を奪ってるのではないか、と本書を読めば思うわけです。 (この権利をいまだに民から奪ってる国もある) このポパーの弾劾が、私達に無関係な昔話ではないということです。 誰だって全体主義に抑圧されているより自由な方がいいですよね。 誰だって独裁者が全部一人で決めて反論も封じられてるより、皆で話し合って決める方が良いですよね。 しかし全く不思議なもので、ときとして人間は、独裁者を選び、自由が抑圧されることに反対しなかったり、むしろ抑圧を望むのです。 本書の6~9章(プラトンの政治綱領、民主的な社会から閉じた社会に戻る方法)を読むと、まずプラトンがこんなことを述べていたのかと驚くかと思いますが、今でもこれを実践してる国があるぞ…と気付き他人事でいられなくなります。 自由と民主主義に対するネガティブキャンペーンはプラトンの時代からあったが、今でも存在する。 ヒューマニズム的な感情に対し嫌悪を抱かせ、あろうことか非人間的な目的のために利用しようとする人達がいる。 閉じた社会が開けてくると、必ず反動で閉じようとする勢力が現れる、これは何で?ってことなんですが、このような分析も、弾劾の一つです。 この時に私達が彼らに対して無知であったり怠惰であったりしてはいけないという。 閉じた社会が開けてくるのは進歩の法則とかではないので、また戻されてしまう恐れがある。
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