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上流貴族から祖父の代に零落し、夫も亡くし、藤原道長の「お手つき」となり、その娘の家庭教師に甘んじた紫式部。「落ちぶれ感」を抱えた彼女が「もうひとつの人生」を求めて書きはじめた物語には、階級社会に渦巻く激しい嫉妬が描かれている。人気古典エッセイストが、源氏物語に秘められた紫式部のメッセージを読み解く。
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Posted by ブクログ
文字通り、「嫉妬」と「階級」を切り口に、源氏物語を読み解く本。 大塚さんの本は、これまでだと『女系図でみる驚きの日本史』が面白かった。 紫式部は自身は中流貴族、受領階級。 それが娘の代では天皇の乳母として「三位」まで大出世を遂げたということが印象的だった。 さて、本書は「嫉妬」を取り上げるのだが...続きを読む、その背景に貴族社会の階級意識を見ている。 まず紫式部自身も、階級意識、「落ちぶれ感」に苦しむ人だったと規定する。 曾祖父の代までは上流だった彼女にとっては、宮仕えに出た自分の境遇は零落と意識される。 紫式部日記に繰り返し書かれる憂鬱も、原因はそれだと推測されている。 次いで、こうした階級的劣等感を持つ式部の願望が、源氏物語に反映していることを説いていく。 正編は没落者が四代かけて成り上がる構想なのだとか。 主人公光源氏が、すでにそういう落ちぶれ要素を持った主人公。 誰よりも優れた資質を持ちながら、更衣腹であるため帝になることもできない。 その彼が、母親のいとこであり、自らドロップアウトした明石入道の娘との間にできた娘により生まれた皇子によって、皇統に血筋を残すことになる。 そして、高貴な血筋の葵の上が生んだ夕霧の子が、明石の君の生んだ孫に仕えるという状況が生まれる。 これは、落ちぶれ者の、壮大なリベンジ劇だと。 嫉妬と階級から見たときにも、紫の上の特異なポジションが際立つ。 六条御息所や弘徽殿太后のように、身分の低い相手を嫉妬し迫害することもできない。 もちろん、女三宮のように、高貴な相手にも嫉妬するのはあり得ない。 出家して離脱することも許してもらえない。 なるほどこれでは早死にするなあ、としみじみわかる。 一方、第四部から宇治十帖の解説では、高貴な薫や匂宮のゲスぶりが、これでもかと抉り出される。 美貌には恵まれているが、身分も教養もない浮舟が、かくも見下げられ、残酷に扱われるかと、読んでいて少しいやな気持になってしまった。 また、浮舟の母中将の君と、宇治の八の宮の娘たちの乳母、弁の尼との間で交わされる会話に含まれる悪意も。 面白いと言えば面白いのだが、あれ?源氏物語ってこんな話だっけ、という気にもなってくる。 同じ著者の『源氏の男はみんなサイテー』、読んだことはないが、きっとこんな話なのだろうなあ。
なんと言うかこう、源氏物語がどれだけすごい小説かが分かったというか。 現代からガチに読み込んでも十分に応える。 歴史とか社会だけでなく、女性の立場、内面、リアル感残しながらもあくまでフィクションで。色んな章で色んな人物を描きながら、実は全体通して出口があった。 すっげえ。 なんかこう、女性自身...続きを読む的な感じもあって、当時女性週刊誌に連載されてたら、発売日の朝には全部売れ切ってしまうくらいの感じじゃあないかなと思う。 ものすごい共感もあったんちゃうかな。 ちょっと噂のチャンネル見たいな感じもあって。 中学校で教えてはもらったが、こう言う面白さを教える方向に持っていった方がええんちゃうのかね。変に文法とか単語とか覚えさせるんでなく。音読で。 日本の国語教育って、「国語」が好きにならないよね、 今になったらもういいよ。こんなジメジメした面倒臭い小説、読む気もないけど。 後突然、脈絡なく被せて現代をディスるのは気持ち悪かったです。
大河ドラマを機に手にした書籍。漫画あさきゆめみしでの柔らかい?描き方とはまるで異なる、生々しい源氏物語の実態・背景をしっかり味わうことができた。
古典エッセイストである著者の本は素人の私にも分かり易く読みやすく、視点も庶民的で好きな作家さんです。 と、言いながら著者の本は長いことご無沙汰でした、が、今年は大河ドラマが源氏物語の時代を扱うということで、平積み棚に並んでいましたよ!新刊が。 学者さんの書いた研究本も面白いけどちょっと難しいときも...続きを読むある、そんな私に肩ひじ張らないこんな本はちょうど良かったです。 本書も読み終えたらフセンでいっぱいになりました。 以下備忘録と感想です。。長いよ。 ☆よく、桐壺帝は醍醐天皇がモデル、と言われているけれど、根拠は研究本にとっては基礎過ぎて?説明がありませんでした。 なので私もそうなんだー、としか思いようがありませんでしたが本書にはそれについてが触れられていました! 源氏物語は、紫式部が生きた時代から100年近く遡った時代から始まり(それが醍醐天皇の時代で、桐壺帝のモデルと言われる所以)、四代七十六年以上にわたる大河小説です。物語の終盤に式部の時代に生きた明確なモデルとなる僧侶が登場することから、そこに至って当時の読者が、これは現代の物語である、と気づく構造なんだそう。 時代設定の考察は、物語に出てくる音楽の研究からはっきり分かっているんですって! 源氏がスタートした100年前の時代は天皇親政の時代で、当時の人たちにとって理想的な時代だったそう。 式部のいる現代は藤原北家の道長一族だけが天皇外戚を独占している時代で、それを快く思わない勢力が多数いたことを示しているそうです。 でも、道長に仕える立場の式部がこうした物語設定にして出版?出来てるっていうことは、道長も許可してるってことだし、外戚という立場は専横してるものの、世論には意外と気を使っていたのかなーなんて思いました。 ☆清少納言と紫式部はよく比較されるけど、そもそも彼女たちは出自が全然違うってことも初めて知りました。 式部は北家の人間だし、血筋は以外と道長一族に近い。それに比べて納言は根っからの受領階級。 なので、考え方や感じ方が違って当たり前なんですって。 宮仕えをしてはしゃぐ納言と、顔を見せる職業について恥ずかしいと思う式部。 お仕えする女主人を無条件で崇める納言と、同じ苦しみを持つ同じ人間だと思う式部。 比較するとキリがないけど、感じ方が違うのは性格の違いではなく、階級の違いからくるものだと実感しました。面白い! ☆平安時代のものの見方も面白かったです。 容姿や才能、身分や幸運に恵まれるのは前世の善行の賜物であり、逆にブスに生まれついたり不幸になることは前世で罪を犯したから、という感覚でモノを見ているそう。 だからいじめられたり火事など不幸にあっても同情されるよりは前世の報い、自業自得と思われるし、当人も恥ずかしい、と思う気持ちが強いんですって。 確かにあらためて思い返すと、人に笑われてしまう、という記述多いと思いました。そういう心理だったのかと納得です。 そしてその延長線上に、晩年、女三の宮降嫁のニュースに紫の上の不幸を喜ぶ世間、紫の上から心の離れない源氏の態度に対し、紫の上を批判し女三の宮に同情が集まる、という現象が起きたのです。 今まで何冊も訳本を読んできたけれど、紫に対するそこまでの悪意は感じませんでした。でも、思い返してみると確かに女三の宮への同情や、紫自身の哀しみの自制は描かれており、当時の感覚を意識して読み直すと、紫より身分の高い女三の宮こそが愛されるべき、という当時の常識的発想が透けて見えてきました。 深い~ ☆源氏物語が四代の物語を必要としたわけがすごいです! 式部の先祖は現代は落ちぶれてしまったけれど以前は上流階級に属していた、厳しい階級も娘を使えば起死回生出来るという発想が源氏物語の原点だという考察。 光源氏が、更衣、皇子(源氏)、その娘、その皇子、という4代を重ねて栄華を獲得する物語であり、だがしかし、その最高の栄達者は受領の明石。 受領の式部が夢見た道、というわけです。 そして、その裏バージョンとして八の宮と中将の君を主軸に下降していく様を描いたのが宇治十帖です。 明石の君には表現させなかった恨みや羨望、母の欲望を、中将の君には赤裸々に語らせています。 この構造、考えつくされて式部の主張が盛り込まれているんですねえ。さすがだ!
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嫉妬と階級の『源氏物語』(新潮選書)
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