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冷たくて鋭い氷のペンと、熱くて甘い毒入りのインクで――。
木爾チレンが描き出す、少女たちのこの残酷な謎物語(ミステリー)はきっと、読む者の心に属性を超えて突き刺さり、その深みを掻き乱すだろう。
――綾辻行人
この小説は私の黒歴史であり、これからの黒歴史になるだろう。
――著者
辛い現実を生きられなかった少女たちが、誰にも言えない恋に縋ったゆえの、禁断の黒歴史ミステリ。
最愛の父は、エベレスト登頂間際で猛吹雪に巻き込まれ凍死した。学校では陰湿ないじめを受け、家に帰れば義父に性的暴力を振るわれる。氷織の唯一の生き甲斐はアイドル・四宮炭也の推し活だけだった。だが感染病流行によって推しのライブが中止になったことをきっかけに、氷織は推しの「なりきり」とのやりとりにのめり込むようになる。顔を見たこともない相手への恋――。それがすべての悲劇の始まりだった。
前作『みんな蛍を殺したかった』に引き続き、「女による女のためのR-18文学賞」優秀賞受賞者である著者が、少女たちのこころの中に巣くう澱みを鮮烈な感性で抉り出す。
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Posted by ブクログ
薄い膜が割れないように生きていた少女の頃とは違う、分厚い氷に覆われた私の心は今、どんな問いかけがあろうと傷つくことはない。(p.12)
「ほらね」とでも言い出しそうな清々しい顔をして、適当な分量で作ったホットケーキを焼いてくれた。表面は美しい色をしていたけれど、裏側は焦げていて炭の味がした。あれはきっと、母の気持ちをそのまま表していた。(p.43)
相手が傷つかないようーそれは結果的に自分が傷つかないように、私は嘘を吐いてしまう。
本当の言葉は心の中で凍らせてしまう。(p.47)
少しでも時間があればスマホの画面に触れ、落ち込むことがわかっているのに、わざわざ輝いている誰かの投稿を見にいってしまうのはなぜだろう。
喜びや悲しみを、知らない誰かと共有したくなるのは、なぜだろう。(p.51)
自分よりも不幸な人間が一人でもいることに、心のどこかで安堵していた。
いつからこんなに冷たい人間になってしまったのか。(p.56)
私もいつか自分を好きになれるだろうか。
登山家になる勇気はないが、はやく大人になって、自由になりたい。
誰が炎上したとか、推しに会えないとか、どうでもようなるほど遠くへ行きたい。
そう願うが、現実は皮肉なほどに、SNSだけが私を現実ではない遠い世界へと連れて行ってくれる存在だった。(p.56)
言葉さえあれば、こうして愛し合えることを。
心だけで繋がるからこそ、実際に身体を重ねる以上の快感を得られることを。(p.76)
ラムネに閉じ込められたビー玉のような円らかな瞳で、まっすぐに私の目を見据え、真司は続けてそう言った。(p.78)
誰かが先に絶望していると、もう一人は絶望する権利が与えられない。(p.98)
「幸せになりたい」
願うたびに、どんどん不幸になっていくようなきがするのは気のせいではないのだろう。(p.110)
きっとどこの学校でも、女子がいる限り、必ずカースト制度が存在して、それは選抜テストが決まるわけでもなく、誰にレベルを決められるわけでもなく、生まれ持った容姿やコミュ力で自動的に振り分けられる。(p.156)
悲しいほど、みんな、淋しさを抱えて生きている。(p.238)
こうして家から離れた遠い場所に来れば、食べ物や、暖かさや、灯りのありがたさを全身で感じられる。だが、ひとたび元に戻れば、そんなありがたみなんてすぐに忘れてしまう。人間なんて、結局そういう生き物なのかもしれない。(p.241)
果てしない暗闇だった空に、朝陽が昇ってくる。
目の中に、目薬みたいに差し込んでくる。眩しい。眩しくて、たまらない。
「きれいやな」
ただ、それだけを思う。
それだけで十分だった。(p.244)
追い払われるように診察室を出て、待合室で待つ。
どうして宿った命を失ってまで、お金を払わなければいけないのだろう。(p.256)
嶺依が死んだことに対し、今になって悲しみが込み上げてくるのは、彼女が愛されるべき人間だと知ったからなのだろうか。(p.261)
私もそっと、いいねをつけた。
そのー本物の友情にいいねをつけた。(p.262)
本物の愛が詰まった心は、決して凍ったりしない。(p.275)
推しの背後と文通交際をするなんて、現代的だななんて思った。孤独から救ってくれるのは誰かの言葉であり、「いいね」やフォロワーは自分の存在意義のようになっている。それが例え、他人が、流れ作業のように行っていたとしても、自分のことを認めてくれる存在だと思ってしまうのは私だけではないのだろう。
登山家の父との思い出と現在の悪夢のような生活、氷織が求めていたのは本物の愛であり、自分を愛してくれる存在だったのではないのだろうか。義父から性的虐待をされ、登山家の父の死で、学校でも避けられていて、生きる理由が見つからなかった氷織を救ったのは推しの背後だった。しかし、背後がいるのは「推し」という存在があるからであって、「推し」がいなくなった途端、背後は誰なのか?自分が愛していたのは、愛されていたのは誰なのか。身元不詳の存在に全てを捧げる恋愛をするなんてなんてリスキーなのだろうと思う。でも、例え、表面上であっても心が満たされればそれで良いのだと私は思う。自分を見失わなければ。
34歳になっても祖母と生活をし、配信をして自分を偽って稼いでいた嶺依もまた、孤独だった。現実と理想の狭間で迷い、理想でしか生きられない自分にもどかしさを感じていた。私自身、SNSや配信をするのは、自分がいかに幸せな人間であるか偽るためであると思っており、時には何かの原動力になったりもする。自己の存在が不透明だからこそ、分からない自分という人間を証明したいのかもしれない。
氷織に隔てなく接し、まっすぐな思いを伝える真司が素敵な人間だと思った。
氷織の母も、郡明日香も山田嶺依も宮田飛鳥も皆、孤独を抱えて生きていた。孤独から這い上がるのか、それとも落ちるのか。出会う人によっても変わってくると思うが、何より1番なのは、生きたいという気持ちを強く持っている人だと思った。
Posted by ブクログ
黒歴史シリーズ。『みんな蛍を殺したかった』がイヤミスとして独特の読後感で、また読みたくなって購入。
『みんな蛍を殺したかった』を読んでからこちらの作品を読むことを勧める。地続きでちょっとした関連があり、その部分の味が違ってくる。
周りにも自分にも絶望した人たちが、運命のいたずらとも言える縁に振り回されながら、希望を感じたり、また絶望したり。
誰かに助けてもらえるわけもなく、事態が好転する見込みも全くない中で、自分を冷静に俯瞰することで絶望的な状況を受け流そうとしたり、やり過ごそうとしたり、乗り越えている。その健気さに“がんばれ”とか“頑張ったね”と声をかけてあげたくなる愛おしさを感じた。
男性アイドルの推し活動や腐女子に関する部分が多く、女性だと違った感じ方をする本だと思う。
さあみなさん、今日も地獄の時間がやってきました
からの数ページは本当に救いがなく、嫌な気持ちになった。読者の心もどんどん氷になる。
結果的に死につながってしまった事件もあるが、“生きている限り希望がある”エンディング。絶望する氷織の世界の外からずっと声をかけ続けてくれた彼が、氷織にとってずっと救いの手だった。絶望する世界の中で生きるのではなく、いつでもその手を握って外へ出れば良かった。そういったところに著者のメッセージがあると思った。
本物の愛が詰まった心は、決して凍ったりしない。
ニュース速報のことを考えると、嫌な結末後を想像してしまう。助かってないかも・・・
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小説・文芸
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