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痛ましい歌声が、俺の胸を血まみれにする。
戦争の昂揚と絶望、そして戦後の果てない堕落。兄の人生を見つめたその娘は、「謎の歌手」に生まれ変わった。
代表作『兄弟』の原型にして、いまに鮮烈な未発表作品、なかにし礼の死後1年目に衝撃の単行本化!
※こちらの作品は過去に他出版社より配信していた内容と同様となります。重複購入にはお気を付けください
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Posted by ブクログ
かの衝撃作『兄弟』のスピンオフか続編のようなものかなと思いきや、『兄弟』の習作として書かれた遺稿なのですね。これは意外でした。だからなるほど、主人公は“王子“というより正一なわけか…。先日SNSで知り早速読みました。他のレビューサイトでは、薄いとか高いというコメントを見かけますが、抱き合わせる小説があるわけでなし…仕方ないかなと。世に出してくれてありがたいです。星1つ減は、著者が出版を望んでいたのかわからない(「あとがき」を読むに、恐らく望んでたと思うけど)からだけです。頁数は少なくても中身は濃いです。ドラマは3回観た私。どうしても礼三と正一は、私の頭の中でトヨエツとたけしに置き換わってしまいます。この2人はハマり役でした。今度はどなたかに“王子”を主人公にして、書いて欲しいなぁなんて思ったりしました。
Posted by ブクログ
昭和の大作曲家、なかにし礼の姪は森田童子だった。
しかし、この小説が世に出た時には、2人とも故人となっていた。
巳年に生まれたから「美納子」
「昭和28年1月15日夜9時。極寒の青森市であった。
この子が20歳を過ぎ、突然、森谷王子となって、自作の歌を歌い始めたのだ」
「兄弟」で登場する兄の中西正一は、娘の正体は決して明かさない。それは神秘性を守るためではなく、情婦から金を借りるためだという。
デビューは昭和49年秋の終わり頃、なかにしが正一をレストランに呼び出し、森田の身元を隠すことに協力を求める。「なかにし礼の姪ってことを当分伏せておきたいの。なかにし礼は売れ過ぎちゃって、どこか体制的な匂いがするじゃない。ちょっと反体制的というか、非体制的な姿勢で、森谷王子をやってみたいのよ」「叔父さんの七光りで世に出たくないっていう美納子の希望もあるけど、そういう俗っぽいところじゃなくて、もっとアングラでマイナーなところから出発させたいんだ」
もちろん小説なので、どこまで実話か分からないが、そう思わせるリアリティはある。「僕たちの失敗」については「普段からあまり顔色を変えない美納子の切れ長の眼をを思い浮かべた。あの眼で何かを見ていたのだ。堕ちていくばかりの父親と、それに振り回される家族がいた」と、中西の戦争体験、それを父の背中越しに見ていたと大胆な解釈をする。
しかし、この作品は発表するつもりだったのだろうか。息子の康夫氏は「兄弟」の習作として書かれたというが、「父は原稿の原本を取っておくこともしません。その父がなぜこの作品だけをすぐに見つかるようなところに置いておいたのか」と疑問を呈している。
森田は2018年4月24日に亡くなっている。なかにし礼より2年以上前だ。なかにしは葬儀に行ったのか、どういう思いで森田を見送ったのか。興味は尽きない。
Posted by ブクログ
謎の歌手の正体についてという話が多いが、どちらかというとなかにし礼の兄についての話が中心。ただ、その兄が父親ということ=謎の歌手の背景とかが浮き彫りになってくる。その歌手の歌を聞くたびに、この歌詞は何を歌っているのだろうと思っていたが、生い立ちを知ってようやくわかった気がする。戦争で死ねなかった姿、よそで女ばかり作って家族を堂々と放り出す姿、弟を担保に借金を繰り返す姿、それらが全て歌詞に反映されていた。冒頭の「私、パパのこと嫌いよ」と言い放った娘の言葉が、謎の歌手の全てであり、原点だったのではないだろうか。なかにし礼は、それをうまく描き出した。
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