Posted by ブクログ
2011年10月25日
この小説は伊集院静の『海峡』三部作とともに僕の中では双璧をなすものです。『流星たちの宴』の梨田雅之の大学~社会人になるはじめまでを描いたものですが、今の学生にこういう人はいないでしょうね。
かつて新葉だったことがある。
かつて新芽だったことがある。
青い色をした仲間たちは、季節がうつろっても、 ...続きを読む
輝きを失うことはなかった。
仲間たちは、陽の光を、風の香りを、
ごく自然に受け止めていた。
ある日、ふと、疑問が頭をもたげた。
自分の葉脈のなかに流れているものが、
他の仲間たちのそれとは、
どこかちがうのではないか・・・・・。
疑問はふくらみ、やがてはじけた。
樹から落ち、腐葉土のなかに身を置いた。
そして自覚した。
病葉・・・・・。
そのときから時間の水脈に身を任せた。
どう流れゆこうと、しょせん、
病葉は朽ちるだけだから。
―白川道『病葉流れて』より
僕がここ最近で感動した小説が白川道の『病葉流れて』三部作です。この本はその三部作の内、第一作になります。内容は『流星たちの宴』の主人公だった梨田雅之の大学時代から物語は始まります。実は、この作品は映画化されているのですが、そっちはなるたけ見ないほうがいいです、しかし、原作は間違いなくオススメです。
18歳で親元を離れて大学寮に入った梨田を待っていたものは麻雀の牌をかき混ぜる音でした。それにすっかり魅了された梨田は永田という男に麻雀の手ほどきを徹底して受けるようになり、美人喫茶で働くウェイトレスであるテコと付き合うようになり、女を知ることになります。ここで描かれている大学生活はさわやかさとは対極をなすもので、確実に今の学生が読んでも理解は難しいと思います。
作中に出てくる新宿、歌舞伎町の町並みはぎらぎらした姿で描写されていて、僕はこの小説を読むたびに、その姿をありありと思い浮かべることができます。そして、レートの高い麻雀や競輪場などに足を運ぶにつれて、梨田の感覚が確実に毀れていく兆候がはっきりとわかります。そのにおいをかぎつけた姫子という女性とも梨田は関係を持ち、この本でのハイライトである彼女の店でバーテンを勤めるレフティとの裏社会の住人を交えたこうレート麻雀の戦いへと突き進んでいきます。
この結末はご自身の目で確認してほしいのですが、『彼らの世界』でいうところの「けじめ」ということはどういうことかを理解するには格好のテキストだと思います。おそらく、作者はこういう体験をしたことがあるのでしょうね。だからこそかけるのでしょう。僕は麻雀をはじめとするギャンブルの類は一切やらないので、麻雀活字を多用して展開される対局の様子がわからないのが難ですが、年収の何年かの金が一気に手元に入ってきたりまた、吹き飛んでいるのだな、ということはよくわかります。
大学時代にここまでムチャクチャなことは経験しなくても、行く当てもない、流れ漂うような時期を送った人間なら、僕のこの小説を勧める理由が理解していただけるであろうということを信じています。