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「裏ノーベル賞」の異名を持つ「イグ・ノーベル賞」の人気が高まっている。本書は1991年の創設以来、「ハトを訓練してピカソとモネの絵を区別させることに成功」「犬語翻訳機<バウリンガル>の開発」「迷路を解く粘菌の研究」「ジャイアントパンダの排泄物から採取したバクテリアで、生ゴミを90パーセント以上削減できることを実証」(2009年生物学賞)などの功績で、19年間で14件を受賞し、文字通りイグ・ノーベル賞で世界をリードする日本人受賞者の取材をもとに、「まず人を笑わせ、そして考えさせる」研究を徹底分析。たかがオモシロ科学と笑うなかれ。科学とは本来自由であり、「笑える」ものなのだ!
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Posted by ブクログ
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志村幸雄
1935年北海道生まれ。技術ジャーナリスト。工業調査会相談役。早稲田大学教育学部卒業。工業調査会で半導体技術専門誌の編集に携わったのち、同社取締役編集部長、専務、社長、会長を経て2008年より現職。この間、産業技術審議会専門委員など政府委員、学協会役員を歴任。また早稲田大学理工学部、麗澤大学国際経済学部、名古屋大学経済学部の非常勤講師を歴任、現在は金沢大学共通教育機構で「ベンチャービジネス論」を講じる
第3章 ピカソとモネの作品を識別するハト
第4章 イヌとの対話を実現した犬語翻訳機「バウリンガル」
第5章 兼六園の銅像がハトに嫌われる理由の化学的考察
第6章 人々が互いに寛容になることを教えたカラオケ発明
第7章 バニラの芳香成分「バニリン」を牛糞から抽出
第8章 粘菌による迷路の最短経路の解法
実際、この賞の本領は、万事に胸を張ったり背伸びをしないことにある。一般的に言って賞と名の付くものは、優れたものを賞賛し、劣ったものを無視する。しかし、「我々を取り囲む環境はすべて秩序だっているわけではない。イグ・ノーベル賞は、そのような『混乱』こそ重要」と考えて、物事の良し悪しや善悪の区別がつきにくい業績をあえて選び出し、授賞の対象にしている向きがある。
イグ・ノーベル賞委員会は当年度の受賞者が決まると、通常Eメールないし電話で受賞者にその旨を知らせ、受賞者の意思の確認や授賞式への出席の応諾を求めている。日本人受賞者が出た場合は、選考委員と知り合いの日本人を介して、その種の打診を行うケースもあるようだ。
その内容は、 メイのごとき頭の固い人間が科学者の真剣さを判定すべきでないし、科学の精神を踏みにじっているとの理由で業績を無視すべきでもない。 イグ・ノーベル賞は科学を嘲笑しているのではなく、科学が持つ楽しさを笑うものなのだ。 純粋に「真剣」な科学者による仕事は、テレビや大衆紙によって 揶揄 されたにしても、長期的にその価値が損なわれるものではない。かりに世間の注目を集めたら、科学者は自らの仕事に資金を提供する価値のあることを説明すべきである。 メイはイグ・ノーベル賞委員会が受賞者の同意をあらかじめ得るべきだと主張しているようだが、昨年、英国の科学者は事前に同意したうえで受賞しており、その指摘は当を得ていない、の四点に集約される。
ベルクソンも指摘しているように、古来多くの人々(主として哲学者だが)が、人間を「笑うことを心得ている動物」と定義してきた。しかしそれは同時に「人を笑わせる動物」と定義することにもなったとし、理由として「たとい他の或る動物なりあるいは何か無生物なりが首尾よく笑わせえたとしても、それは人間との類似によって、人間がそれに刻みつけたしるしによって、あるいは人間がそれについてした使用によってであるからだ」(以上、岩波文庫版)と説明している。表現がいささか回りくどいが、イグ・ノーベル賞受賞の基本要件である「まず人を笑わせる」ことに着目しているのは注目してよい。
実験の結果は、被験者の多くがおもしろいと感じる冗談に対して、おもしろくないと思う被験者が何人かいた。教授らは、これらの被験者に「論理テスト」も行ったうえで、「推論能力の劣る被験者ほど思い込みが強く、自分の能力を過大評価する」という結論を導き出している。この種の人間には、ユーモアのセンスもなければ、笑いもない、と言いたげである。
渡辺氏は、以上のような実験結果を踏まえながら、「われわれが抽象画の鑑賞でおかすような誤ちをハトがおかし、われわれが具象画で気がつくようなことにハトが気づいているとすれば、ハトはわれわれと同様に具象画ではそのなかに現実の世界を見ているのだろう」と結論づける。そこには比較認知科学に長年取り組んできた研究者の自信と満足感が顔をのぞかせる。
「ミスター半導体」「光通信の父」などと呼ばれる元東北大学総長の西澤潤一氏は、小学生の頃から絵を描くのが好きで、今でも国際会議などで外国へ出かけたときには必ず近くの美術館へ足を運ぶ。なかでもセザンヌ、ルノアール、モネ、マチス、ピカソ、ルオーの絵には目がない。
実際、ある研究者が日本の大学生に人間の知能を一〇〇とした場合の動物の頭の良さを評価してもらったところ、チンパンジーは七五点、ニホンザルは七〇点という結果が出た。イルカ、イヌは六〇点台、ウマ、ネコ、クジラは五〇点台にランクされている。一見してニホンザルが高得点にすぎるとの見方もあろうが、身近でサルに接している日本人にとっては、人間がこの動物から進化したと考えても、それほど不思議に思えないかもしれない。「欧米でたいへん抵抗を受けた進化論が日本ですんなり受け入れられた理由の一つは、日本にニホンザルがいたからかもしれない」と渡辺氏は笑う。
早速、開発部隊が組織され、「ドリトル・プロジェクト」と名づけられた。もちろん、米国の児童文学者ヒュー・ロフティングの名作『ドリトル先生物語』に 因んだものだ。ドリトル先生の愛情は人間に対してよりも動物に対して向けられ、鳥類、魚類、そして貝類までも話し相手にしてしまう。井伏鱒二氏の名訳と相まって、それら一連の作品は日本でもロングセラーになっている。
金沢大学で一〇年以上前から続けている「コーヒー学講義」は同大学きっての名物講義で、受講希望の学生が殺到する。「コーヒーはあらゆる学問につながる」と説く氏の持論が学生たちの心をとらえるのだろう。
最後に話を鳥除け合金に戻すと、この種の合金を使ったネットやチェーンなどが製品化できれば、ごみ集積場や集合住宅などの糞害防止や、停電の原因となる電柱へのカラスの営巣防止に役立てられるかもしれない、と広瀬氏は考えている。理論物理から実験物理に転じた研究者らしく、「楽しい研究と同時に、考えさせる研究、役に立つ研究を目指したい」というのが本音のようだ。
そのカラオケの発明者、井上大佑氏が二〇〇四年にイグ・ノーベル平和賞を受賞した。なぜ平和賞なのかと言えば、「カラオケを発明し、人々が互いに寛容になることを教えた功績」(公式発表)が大きいからだという。
「私は小さい頃から、自分の気になったことを徹底的に考え抜くのが好きだった。WHAT、WHYのような問いから論理的な結論を導き出すプロセス自体に、とても魅力を感じている。研究者の生活に満足しているのも、『自分の頭で考える』のが仕事だからなのだろう」
まさに「たかが粘菌、されど粘菌」と言うにふさわしいが、冒頭に紹介した南方熊楠がこの粘菌に魅せられた理由の第一は、それが動物と植物との境界領域にあることであった。粘菌は、かつては菌類に分類され、今日では原生生物という別の一群に分類されているが、南方は粘菌の変形体が固形体を採って食べるところを観察して、粘菌が植物ではないこと、原生動物に分類すべきことを強く主張した。
「妻が発するオナラの臭いにじっと耐えているうちに、何とかしなければならないと決心しました」――バック・ウェイマー(「オナラの臭いを除去する炭素フィルター付きパンツを発明した偉業」で二〇〇一年生物学賞を受賞)
博士は、一九九一年、京都賞受賞のため来日した際、紅葉が燃える京都・嵐山の光景を目のあたりにして、「石が落ちればニュートンの古典力学の法則、木の葉がひらひら舞い落ちればカオス」と名言を吐いた。博士は以前、自らの論文で「ブラジルの一羽のチョウの羽ばたきが、巡りめぐってテキサスに竜巻を起こすかもしれない」と書き、これを「バタフライ効果」と名づけているが、嵐山の木の葉にもそれと同じことを読み取ったのだろう。
Posted by ブクログ
<目次>
第1部 「笑う科学」の奇抜な司祭者
第1章 この特異なイグ・ノーベル賞
第2章 イグ・ノーベル賞に見る「パロディ性」と「科学性」
第2部 イグ・ノーベル賞大国を築いた日本人受賞者
第3章 ピカソとモネの作品を識別するハト
第4章 犬との対話を実現した犬語翻訳機「バウリンガル」
第5章 兼六園の銅像がハトに嫌われる理由の化学的考察
第6章 人々が互いに寛容になることを教えたカラオケ発明
第7章 バニラの芳香成分「バニリン」を牛糞から抽出
第8章 粘菌による迷路の最短経路の解法
第3部 「笑う科学」に未来あれ
第9章 イグ・ノーベル賞獲得のための実践的方法論
第10章 これだけある「日本発」イグ・ノーベル賞候補
<内容>
バカバカしくもまじめな研究(時には批判的に)に対し、与えられるイグ・ノーベル賞。以外にも日本は多くの受賞歴がある。この本は、そうしたイグ・ノーベル賞のすべてを紹介したもの(2009年のもの)。バウリンガルや兼六園の銅像はよく知っていたが、ほかにもあったのだ。ふざけているようで、真面目に紹介しているところが良い。
Posted by ブクログ
理科音痴の私でも、興味深く読めました。理科音痴だからこそ楽しめたというか。
イグ・ノーベル賞の存在は、バウリンガルが受賞したのをきっかけに知ったのですが、その当時は、バウリンガルがおもちゃだというのと、ノーベル賞のパロディだというので、何じゃそらーwwwと思っていたのですが。
良いとか悪いとか、役に立つ、立たないではなく、「まず人を笑わせ、そして考えさせる」、「真似が出来ない、またするべきでない」科学について真面目に笑わせる賞です。科学に大事なのは権威ではないという点でも、笑えると思います。
バウリンガル以外の日本人受賞者も紹介されてましたが、「バニラの芳香成分『バニリン』を牛糞から抽出」が衝撃的でした。受賞者の山本麻由さんは、授賞式で牛糞由来とおぼしきバニラアイスを審査員に振る舞って会場を沸かせたそうです(笑)
実は、主催者が地元の最高のアイスクリーム店から調達した、牛糞とは無縁の特製品だったそうですが。
授賞式も楽しそうですね。
ノーベル賞受賞者とプロのオペラ歌手が競演する科学を題材にしたミニ・オペラとか、本物のノーベル賞受賞者とのデートをかけたコンテストとか。受賞者は、ノーベル賞と違って賞金も交通費も出ないけど、楽しんでるんじゃないでしょうか。見てみたいー(≧∇≦)
Posted by ブクログ
イグ・ノーベル賞について書かれた本。
おれはこの本を読むまでイグ・ノーベル賞って名前は知ってたけど、実際にどんなものかは知らなかった。
イグ・ノーベル賞とは、ノーベル賞のパロディーとして生まれた賞。選考基準は「まず人を笑わせ、そして考えさせる」こと。この基準からもわかるように、ユーモアに満ち溢れてる。
過去の受賞研究が「落下するバタートーストの力学的分析」「ハトによるピカソとモネの作品の識別」「性交中の男女の生殖器と性的に興奮した女性のMRI撮影」とかだからね。
でも、それぞれの研究が、取っ掛かりは奇妙キテレツで、なんでそんなこと調べるのかわからんようなものなんだけど、その成果はなにかに応用できたり、たしかに考えさせられたりする。
この賞がもっとメジャーになれば、科学好きの人も増えるんじゃないかな。
とにかく、とっても面白く読めて、勉強にもなった。
イグ・ノーベル賞の授賞式に一度参加してみたいなぁ。
Posted by ブクログ
志村幸雄(1935~2020年)氏は、早大教育学部卒、(株)工業調査会で半導体技術専門誌の編集に携わった後、社長、会長などを歴任。また、産業技術審議会専門委員など政府委員、自然科学書協会理事長など学協会役員、早大、麗澤大学、名大などで非常勤講師を務めた。
私は、「イグ・ノーベル賞」のことをいつ、どのようにして知ったのかは覚えていないのだが、少し前に、英国人のトーマス・トウェイツ氏が、2016年の「イグ・ノーベル生物学賞」を受賞した、四足歩行できる人工装具を使ってヤギになりきる「GoatMan Project」について書いた『人間をお休みしてヤギになってみた結果』を読んでいたところで、偶々本書を新古書店で目にして入手した。(本書は2009年出版だが、紙の本は既に絶版である)
本書は、イグ・ノーベル賞について、内容と歴史、どのような研究・発明が受賞の対象となるのか、これまでの日本人受賞者の研究・開発の事例、同賞を獲得するための心構えと実践的な方法、同賞候補となりそうな日本発の研究・発明の成果を紹介したもの。
イグ・ノーベル賞とは、1991年に米国人のマーク・エイブラハムズ氏が創設し、授賞の公式基準は「人を笑わせ、そして考えさせる」研究で、「真似ができない、またするべきではない」業績であること、更に非公式基準は「目を見張るほどバカげているか、刺激的でなくてはならない」というものである。創設当初は、賞の目的や選考方法を非難・否定したり、受賞の報に戸惑う受賞者もいたが、現在では、「パロディ性」に基づいて「笑わせ」、「科学性」に裏打ちされて「考えさせる」という賞のコンセプトが理解され、また、新聞やTVにも登場するようになって知名度も大きくアップし(本書出版から十余年を経た現在では一層である)、賞としてのステータスを確立していると言えるだろう。
日本人の過去の受賞実績については、「ハトによるピカソとモネの作品の識」、犬語翻訳機「バウリンガル」、「ハトに嫌われた銅像の化学的な考察」、「カラオケ」、「バニラの芳香成分バニリンの牛糞からの抽出」、「粘菌による迷路の最短経路の解法」の6つを挙げ、その内容、研究・発明の経緯、裏話等を詳しく紹介している。
また、受賞の候補となりそうなもの(あくまで著者の主観である)としては、「日本笑い学会」、「トイレ文化」、「回転ずし」、「青いバラ」、「二足歩行ロボットの未夢とアシモ」、「100万分の1グラムの歯車」、「定刻自動起床装置」、「クモの糸による新素材」、「畳ドクター、焚火学会」、「慰謝料電卓」の10例が挙げられている。(残念ながら、2022年までに実際に受賞したものはない)
読み終えてまず感じたのは、「人を笑わせ、そして考えさせる」という同賞のコンセプトは、現代社会においてこそ、重要な意味を持っているのではないかということであった。というのは、科学は、19世紀以降、近代化・文明化を牽引してきたが、21世紀となった今、我々の抱えるプラネタリー・バウンダリー、バイオテクノロジー、AI、軍事など様々な側面における問題には科学が関わっており、その根本的な原因は、科学が「科学のための科学」から「社会のための科学」に変化し、役立つ科学のみを追い求めてきたことにあると考えられるからである。科学の進歩自体は、無論、否定されるべきものではないが、我々が人間らしく生きるためには何が大切なのかを考え直すために、イグ・ノーベル賞(のコンセプト)はもっと注目されていいのかも知れない。
(2023年4月了)
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