ひも理論の重鎮レオナルド・サスキンドのメガバースと人間原理に関する最新の宇宙論。
リサ・ランドールの『ワープする宇宙』やブライアン・グリーンの『隠れていた宇宙』など、最新の宇宙論が最近日本でも多く紹介されている。ヒッグス粒子の発見の話題もあったからだとも思われるが、これらの議論がこの世界の存在の究
...続きを読む極の根拠について考えを巡らせている多くの人の琴線に触れるものであるからだということもあるだろう。科学書翻訳で多くの信頼を得ている青木薫さんも、このテーマで『宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論』という自著を出しているが、あえて翻訳だけでなくオリジナルの本を出してみようと決めた気持ちがわかるような気がする。
著者は、「ランドスケープ」ー 考えられる世界すべてを表す数学的空間を意味する ー という概念を持ち出し、このわれわれが存在する宇宙が無数のメガバースの中のひとつであるとして、単純な人間原理を克服しようとする。これは、自然定数がいくつもの微妙な値を取る根拠や複雑で無根拠な素粒子の標準理論がなぜそういうものであるかについて別の視点から説明を試みるものだ。また、量子力学の確率的解釈(コペンハーゲン解釈)から、分岐し続けるメガバースの文脈で捉えるものでもある。著者の専門であるひも理論も、そういった考えと整合性を取ることで根拠が作られると考えられている。
著者は、宇宙についても進化論のロジックが働いていると説く。ダーウィンが提唱した進化論のコアのロジックは、生物学以外にも企業論などいろいろな分野にも適用されるが、宇宙論にまで適用されるものかと少々驚いた。進化論のロジックは、複雑なものが作り上げられるための必須の要件なのかもしれないと思うと腹に落ちた。メガバースの理論は、われわれが住む以外の宇宙の観測不可能性など、実証的に証明できない点が問題にされるが、現在では多くの科学者からその考え方はサポートされているようだ。この後の研究成果も、翻訳されたわかりやすい言葉にて触れさせてもらえればと思う。