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歴史的に見て、隣り合う国どうしは文化的・民族的に近い位置に あるにもかかわらず、仲が悪いことが多いのです。というよりもむ しろ、近い位置にあるからこそ仲が悪いと言うべきでしょうか。 くたちが「イギリス」と呼んでいる国と、アイルランドとの関係も その典型事例です。両国の間では、まず民族が違います。アングロ ・サクソン系のイギリスに対し、アイルランドはケルト系。次に宗 教が違います。イギリスはイギリス国教会を信奉するのに対し、ア イルランドでは伝統的にカトリックが強いのです。そしてなにより も両国の間には、征服者と被征服者という不幸な歴史が存在してい ます。
イスラームは宗教であると同時に世界観でもあります。さまざま な言葉や文化、歴史的な背景を異にする民族を、イスラームは、 つに、かつゆるやかに統合してきました。
ハワイの産業を支えているのは、日本からやってくる大量の観光客 の存在⋯⋯。本書は、移民、戦争、観光をキーワードにして、ハワ イの歴史を解説しています。そしてそのすべての場面で、日本の影 がちらついているのです。 さらに言うならば、ハワイに移民したのは日本人だけでなく、ポ ルトガル人やドイツ人、プエルトリコ人、中国人なども多くいまし た。中でも朝鮮人や琉球人の置かれた位置について述べてあるとこ ろは必読です。ハワイの歴史は、異文化交流についての一つのモデルです。
なお、ハワイ観光の最大の日玉であるオアフ島のワイキキビーチ の白い砂は、観光のために大量に持ち込まれて海岸に敷き詰められ た「人工の砂浜」なのだそうです。さあそろそろ、本書を読んで、 本当のハワイを見つめなおしてみよう!
歴史というものは、人間の営みの集成ですから、本来さまざまな見方や解釈ができる ものです。本書はそのあたりの自由度が高いし、多面的になっています。つまり、本の 中で執筆者どうしが対話をしているのです。だから読んでいて、「ああなるほど」とか、「こういう観点もあるのか」とたくさんの発見があるのです。
歴史を見るということは、裏側から(逆から)日本の近代史を見ることになるのです。人 は自分自身の顔を自分の力で見ることはできません。鏡や水などに映してはじめて、間 接的に見ることができるのです。ぼくたちが世界史を学ぶ意味もおそらくここにありま す。自分の姿1日本の姿を見るためには、他者の歴史(鏡や水)に照らすのが有効でしょ う。そしてそれは日本と関係の深い国であればなおさらのことで、朝鮮や中国などは格 好の素材をもたらしてくれるはずです。
日本に住むぼくたちが、自分自身と切り離して他国のことを調べても、何の役にも立 たないだけでなく、時として大きな落とし穴にはまる危険性があります。世界のさまざ まな国を知るのも、もちろんいいのですが、でもまずは自分の足元を見つめることから 始めてみたいと思うのです。
『石の花』
坂口尚 講談社漫画文庫(一九九六年) これは世界史を学ぶ人すべてに読んでもらいたいマンガの一つです。 舞台は一九四一年から四五年のユーゴスラヴィア。複合多民族国家の典型ともいえる この国は、第一次世界大戦後の民族自決原則の適用を受け、南のスラヴ族(=ューゴ・ スラヴィア)の寄せ集めとして誕生しました。スロヴェニア人、クロアチア人、セルビ ア人、マケドニア人など、どの民族を取り上げても単独では多数となり得ない国。 つの国境線、六つの共和国、五つの民族、四つの言語、三つの宗教、二つの文字、一つ の国家」と揶撤される、世界に類を見ない複雑な構成を持つ国。社会主義国でありなが ら自主管理をおこなってソ連に対する独自路線を貫き、非同盟諸国のリーダーでもあっ た国。ここからは「国家とは何か」「民族とは何か」「社会主義とは何か」「宗教と国 家との関わりについて」など、さまざまな問題のケーススタディを導くことができるで しょう。そしてまた、ボスニア内戦のような悲劇の再現をふせぐためにも、その歴史か ら学ぶことはこれからも大いに必要になることでしょう。
一級の学問研究というのは、その根底のところで、他のさ まざまな学問分野と共鳴し合う力を持っています。本書は二〇世紀の分子生物学の歴史 と展開を記したものですが、「生命とは何か」という根源的な問いは、「人間とは何 か」を問いかける哲学や歴史学や文化人類学とも、自然環境を考える学問とも通じる普 遍的なものです。本書を読むのに専門的な知識はいりません。高校で習う生物の知識が あれば十分でしょう。将来さまざまな分野で活躍するみなさんに、ぜひとも読んでもら いたい一冊です。