本書は、「おもてなし」に代表される日本型ホスピタリティーの源流を辿ることを目的とするために、日系航空会社の客室乗務員に対するイメージの変遷を事例とした社会学的アプローチの本である。したがって、本書の主題である『客室乗務員の誕生』はおそらく著者の主張の一部であり、本当の狙いはむしろ副題の『「おもてな
...続きを読むし」化する日本社会』にあると言える。
本書の貢献は、こうした企画を岩波新書から出版できた点にあるだろう。これまでも、日本の航空史に関する概説書は存在したが、それらはどちらかといえば、交通関係のジャンルに組み込まれていた。岩波新書として出版するためには、そうした実学的分野が他の学術的分野と結びつく点に意義があるため、著者のフィールドである観光社会学の中に落とし込んだ点は評価できよう。
そういう意味合いも込めて、著者は冒頭で「日本の客室乗務員の歴史を分析の縦糸として、その時々の新聞や雑誌の記事、テレビ番組、広告などに描かれたメディア言説を分析の横糸として用いる」(vi頁)というスタンスをとったのだろう。しかし、それが裏目に出て、時折「横糸」がほつれてしまう箇所が目立ち、縦糸の存在が感じられないところが存在した。たとえば、3章3節の「ディスカバー・ジャパンと鉄道の旅」は、当時の人々が「ノスタルジアのメディアとしての鉄道に乗る」(116頁)ことを主張したかったのだが、そのために、10頁近くを費やす必要があっただろうか?それならば、「本書では十分に詳述できなかった」(202頁)日本エアシステムの企業文化の独自性について触れるべきであった。
こうした社会学を表に出そうとした「横糸の縦糸化」は、他にも、4章2節「『スチュワーデス物語』の世界」での『アテンションプリーズ』との比較や、4章4節「「自分磨き」と「自分探し」の時代」における奥谷禮子『日光スチュワーデス 魅力の礼儀作法』と沢木耕太郎『深夜特急』との対比場面など、随所で見られる。新書のテーマとしては、まず縦糸がピンと張られているのか、そのうえで横糸のシャトルがどのように綾を結ぶのかが重要であるゆえに、こうした「横糸のほつれ」はもう少し割愛できなかったか、その分もっと縦糸の強さを確認したかった。