人の記憶の脆さと、その脆さに頼らざるを得ない裁判。
記憶は体験を発酵させ、少しずつ変化させていく熟成庫のようなもの、蓄積されて動かない倉庫ではなく、いろいろな情報を複雑にリンクさせていく開かれたシステムだといいます。
ウォーターゲート事件でのジョン・ディーンの事例。自民党本部放火事件で「電磁弁」を購
...続きを読む入した人物について販売店員の「善意で生まれた」記憶。甲山事件の園児証言に関するフィールド実験。
いかに、人の記憶が、無意識に悪気なく「変化」して、生まれて、定着してしまうかがわかりました。
事件からしばらくたって、日常的な出来事について思い出すよう求めて話された「記憶」は、あやしい。
「じゃあ物証ない事件の犯人は逃げ得?」というのはつらいですが、記憶に基づく証言の脆さは強く意識していないと本当におそろしいです。
著者のグループは足利事件の菅谷さんの公判供述の分析も担い、意見書を(弁論の補充書という形で)裁判所にも提出しており、その分析内容も詳しく記載されていました。この本が出た2006年時点と異なり、再審無罪という結果が判明した今だからかもしれないですが、「たしかに変だ」と腑に落ちる分析でした。
証言の心理学の分野では浜田寿美男さんの名前をよく聞いていたけれど、この著者のグループは、浜田さんのアプローチとはやや異なるということです。