クラスナホルカイ・ラースローの作品一覧
「クラスナホルカイ・ラースロー」の「サタンタンゴ」ほか、ユーザーレビューをお届けします!
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「クラスナホルカイ・ラースロー」の「サタンタンゴ」ほか、ユーザーレビューをお届けします!
小説・文芸
Posted by ブクログ
停滞と絶望に慣れ、倦み、恐れ慄き、別れを告げんと足掻く。
救済と進展を諦め、嘲り、希い、我が物にせんと縋り付く。
内心では己を殊更に特別視し、他者を見下し切り捨てんとする醜い傲慢。
なけなしの金を刹那の慰めに使いきり、将来のことなど一顧だにせず。
悪魔の囁きと救済の手の区別がつかない——いや、実は両者は本質的に同じなのかもしれない。
現状から抜け出せると喜び勇んだものの、実際には何も変わらず堂々巡り——そして、本人は決して気付かない……。
2025年にノーベル文学賞を受賞したKrasznahorkai Lászlóのデビュー作。
暗澹な人生を這い回り続ける人々の、滑稽で愚鈍だが生々しいその描写に圧倒された。これはいつ、どこの誰にでも当てはまる——いや、いま読んでいるわたしのことではないか、と。
2026年どころか、わたしの生涯で一二を争うほどの傑作。作者、翻訳者、出版社——本作に関わった全ての人に感謝したい。
また、わたしは翻訳者が勧めるとおり2周した。たしかに「円環」だった。
Tarr Béla監督の映画版(1994)も有名。わたしも以前観たが、7時間超えの長大さには敵わず早々に寝入ってしまった。何がなんだか分からず終いの映画体験であったが、原作を読んだ今なら最後までいけるかも?
“ここを出たところで、容れ物が替わるだけ、罠のなかに捕らわれていることには何ら変わりないのだ”
(第2部第5章)
Posted by ブクログ
どしゃ降りの雨の中、泥濘に沈む打ち棄てられた農村に、死んだと思われていた二人の男が帰ってくる。農場が解散されても村に残りほそぼそと暮らしていた人びとは、ある者は期待と共に、ある者は疑いと共に、またある者は恐れと共に、彼らの到着を待っているが、その裏で哀れな少女が命を絶つにいたる悲惨な出来事が進んでいる。
居酒屋に集まり悪魔のタンゴを踊って酔い潰れて眠る大人たち、姿を見せず毎夜巣を張る蜘蛛のような閉塞感・絶望感の中で近視眼的に日々を過ごす彼らと異なり、見捨てられた少女エシュティケは不幸と恐怖に苛まれながらも、どこからか明るい光が差し込む世界の中に生きている。その明るさは発熱時の幻であり一瞬の夢が見せるまやかしの希望でしかないが、天上の天使を信じる純粋さが不幸な少女の世界をほの明るく照らしているのは事実だ。
エシュティケの最後の目撃者であり、家の窓から村の様子を細大漏らさず観察し続ける医師は、それでも窓からの景色しか把握できないがために事実上の村の解体にも気づかずにいる。その執拗で虚しい視線は誰にも読まれぬノートのごとく非生産的だが、彼が自身の筆の力を信じることで、物語が輪郭をもって立ち上がる。
二部構成の本書だが、第一部第六章のあとに続く第二部は、第六章から始まり第一章で終わる。時が巻き戻るわけではない。ただ、第一部の第六章と第二部の第六章、第一部の第一章と第二部の第一章、同じ数字の各章は物語の圧、空気、トーンが共通している。滅びを前にどこにも行けない、動けない男と、鐘の音に震えるまだ何も起きていない村の空気。農村とはまったく隔絶された世界である役所の情景。天上から天使が訪れる美しくも恐ろしい幻のような出来事…。
第二部第一章にたどりついた物語が、再び第一部第一章から語られ始める。静寂から始まり、策略、期待、狂乱、悲劇と続いた物語の波が、悲劇、狂乱、期待、策略、静寂へとおさまって、また、スタートに戻る。期待と諦め、変化と停滞は円環だ。前進し後退するタンゴのステップのように、払っても払っても知らぬ間にかかる蜘蛛の巣のように、夢は古び、意志は萎え、世界は変わらない。
底知れぬ絶望が感じられる作品だが、それでもこの見捨てられた農村、見捨てられた人びとに、作者のなんとも言えぬ愛の眼差しを感じるのはなぜだろう。友情も愛情も結べずにただ肩寄せ合わせているだけの村民たちは、イリミアーシュの言うがままにバラバラになって去っていく。今いる場所から動けないことを自覚しているフタキを除き、何も約束されないまま、身一つで、あてのない期待だけを持って散っていく。イリミアーシュも隙のないカリスマではない。ペトリナの信仰深い素直さ、夢見るシュミット夫人、みな、視野が狭く愚かしく、けれどその視野の狭さと愚かしさが人間的で、ユーモラスでさえある。
エシュティケがこの世界を捨て去っても、世界は変わらない。嘘の中で生き続ける人間たちの愚かしく虚しく、だからこそ人間的な足踏みが、進んでは戻るそのステップが、遠い世界のことのようでありながら、どうしようもなく共感を呼ぶ。
Posted by ブクログ
じめじめドロドロとした白黒世界。
タルベーラの「サタンタンゴ」で映像化された世界がここにある衝撃。(といっても映画7時間は耐え切れずウトウトしっぱなしだったが)
この貧しく寂しい、たぶんいやーな臭いのする小さな片田舎の中から出れず、物語がぐるぐると回り続けるのは何の因果だろうな。そりゃー、パーリンカばっかり飲むほかないわ(ちなみに本邦では飲めるところ少ないらしい)。
ノーベル賞とらなければ邦訳されなかったとするなら感謝しきり、「ヴェルクマイスターハーモニー」の原作も邦訳されるのかなあ、楽しみだ。
あとがき曰く、2度読まないと真価はわからないらしいので、もう一回読みますか。