日本の古代史における母系制から父系制への転換を読み解いた本です。
本書の冒頭で著者は、「女性史とは何か」という問いを提起し、「女性の立場による歴史研究の学問である」とこたえています。歴史学の観点から女性の生活・文化・思考などを研究する学問ではなく、「女性の立場」という観点にもとづくことが明記されて
...続きを読むおり、いわば知の政治性を踏まえた学問であることが著者に意識されていたことが注目されます。著者は、上代の婚姻性が招婿婚だったということに簡単に触れるにとどめ、その時代の女性の暮らしについての調査・研究には立ち入らず、もっぱら祖と氏をめぐる制度と観念の形成と変遷をたどることに注力しています。
とりわけ著者が注目しているのが、「多祖」と呼ばれる現象です。このような現象が現われるのは、母系制が根づいていたところへ、父系制への制度上の転換が生じたからであり、著者は「母族が、その族中に所生した子等を通じて、その各々の父祖を追及し、把握する現象である」と説明しています。著者は、「一氏に多祖があるのは、氏名に母系を保存し、出自に父系を記録したものではあるまいかと云うところに考え及んで、私は一種の緊張をおぼえた。而して、私はここにようやく古代女性史を開拓する足場を発見し得たのである」と語っています。
さらに著者は、氏にかんしても検討をおこない、「物部弓削」や「蘇我倉山田」といった「多氏」と呼ばれる現象についても同様の観点から解明することをめざしています。