戦前の探偵小説が大好きで、ここ最近、同時代の純文学方面にも手を出している自分には本書の内容は大変興味深く、面白く纏められている評論でした。
乱歩、虫太郎、夢Qを始めとして正史、不木、甲賀三郎、宇陀児、橘外男、渡辺温に十蘭 等々…戦前の探偵作家の作品を読み、エッセイを読み、単行本の巻末についているいろ
...続きを読むんな方々の解説・書評を読み、その中で何となく自分の中でモヤモヤとした感じで繋がっていたものが、この本の中で理路整然と整理されて提示された感じで。「ああ、そういう事か!」が沢山あった。(本書のタイトルは「入門」と銘打ってはいますが、割と登場するの作家の作品を読んでないと理解できない所が多々ありますから、それなりの読書玄人向けですね)
涙香に始まった日本の探偵小説が、戦前「本格」「変格」としてカテゴライズされ、特に「変格」の概念、そして多様な要素を含んだ小説群の発展史(精神史)が纏められた一冊でした。
(最後の結語で変格の流れを山風にまで繋げてましたが、本文で論じているのは戦前の範囲のみ)
探偵小説文壇と、純文学の文壇はどうもまったく別個のモノというイメージだったのですが(かろうじて、谷崎と芥川と佐藤春夫に推理小説的作品があるのは良く知られている話ですが)、本書の中で「夏目漱石の影響を受けた横溝正史(探偵小説嫌いの漱石が書いた、探偵小説的作品)」と、「変格の1ジャンルである実話モノに貢献している菊池寛」の2点には驚きました。
純文学系の作品から探偵小説作家への影響ってのは思いの外あるものなのですね。(本書のテーマの性質上、逆方向の影響関係もあるのかもしれないのですが、そこは対象ではないので)
確かに、乱歩の土蔵の中にも漱石全集は並んでいたなぁとか、この本を読んでて思い出しました。