今までの採用は短期決戦でした。とにかく広告を出して応募数を増やし、大量に集めた候補者を一気に選考、内定を出すエントリー起点、ヨーイドンの短距離走です。
対して、これからの採用はエントリー起点の短期決戦では通用しません。通年採用が一般的らには「エントリー前から採用は始まっている」、「採用後も人事の仕事は続く」という視点を持つべき、と考えが変わってきています。採用のスタートラインとゴールの常識が変動しているのです。
まずは、すぐにでも知ってもらうことがスタートライン。早期に接触し、認知を獲得、その後継続的に意向度(志望度)を高めていき、エントリー時点ではすでに高い意向度の候補者を集めているの...続きを読む が目指す姿となりつつあります。
ゴールも内定出しや入社ではありません。内定後も志望者の内定辞退や離職を防ぎ、自社へのエンゲージメントを高めるという長期戦の採用スタイルになってきています。社員がチームで最大のパフォーマンスをあげられるようなワークエンゲージメント、あるいは社員にとって働きやすい「いい会社」をつくることが次の採用にもつながります。とりあえず採用したら終わり、来年も頑張ろうというシステムではなく、採用後も採用のための取り組みは絶えず行われます。
これらの一連のプロセスは「リクルートメント・マーケティング」と呼ばれます。候補者を顧客に見立て、マーケティング手法を用いて、アプローチしていく手法だからです。
企業を構成する要素(魅力因子)
・市場(誰に対して価値を提供したいのか)
・事業(どのような手段で市場に価値を届けるのか)
・業務(事業を成功させるため、どんな仕事をしているのか)
・人(業務を遂行するために、どんな人が必要とされているのか)
・文化(人が集まることによってどんな文化が形成されているか)
・制度(文化を維持するために、どのような制度が設けられているか)
この章では早期接触とそのための情報発信の重要性について触れました。
・候補者が採用市場に出る前にアプローチする「潜在層」の発掘
・早期アプローチのためには情報発信により想起される存在になる
・情報発信で大事なのは「透明性と一貫性」
・コンセプトが一貫性を支える
・SNSやブログによる採用広報を力強く推進する
カルチャーマッチとは、お互いに大事にしたい価値基準や考え方、仕事のやり方、将来に対するビジョンなど一般的な履歴書には表れない部分がどれだけマッチングするかを判断するものです。採用面接などのフォーマルなやりとりでは、入社する・採用するという目的が優先されるためお互いにカルチャーマッチの判断が難しく、だからこそカジュアル面談に意味があります。「ちょっとお茶でもしませんか?」の距離感で話すことができ、もしカルチャーマッチが感じられて気が合えば「選考に進みますか?」という感覚のものです。
候補者から聞かれる項目はある程度要素として絞られてきます。私たちも、カジュアル面談の担当者はここを軸にトレーニングしています。
質問内容は、いわゆるマーケティングの4Pと同じ、「企業の魅力因子」として見ることができるものです。
Philosophy(哲学・姿勢)、Profession (業務の中身・事業内容)、People (人材・風土)、 Privilege(待遇・特権)。これらの要素が満たされることで、その企業に対する魅力度が高まるとされるもの。そうした要素について候補者から聞かれることに答えるわけです。このときに重要なのが事実を並べるだけの説明にしないこと。ただ事実を伝えるのではなく、その事実を生じさせている原因、つまり前提となる企業の方向性なども交えて答えていくことが重要になります。
カジュアル面談だからといって、ただ楽しく話して終わりというわけにはいきません。ある程度は情報をまとめる必要があります。私たちは「候補者の転職意欲」「候補者の自社の意向度 (転職するとして自社がどの程度の位置にいるか)」「カルチャーマッチ(自社や部署の文化とどの程度マッチするか)」を必ず聞き出すようにしています。また、これらの内容は採用面接をオファーするかなどの情報に活かすため、社内にデータを記録します。このデータを基に、好ましい候補者へは面接をオファーするというのがカジュアル面談の基本的なフローです。
大原則は「候補者中心」「自社をアピールする機会」「Not採用面接」の三つです。この原則を無視して、カジュアル面談とは名ばかりの採用面接として運用している企業が少なくありません。こういう運用をする企業は、往々にして悪評が広まってしまいます。もしも心当たりがあれば今からでも改めましょう。
STAR面接の例を紹介しましょう。例えば、「あなたがこれまでに経験したことで最も困難だった仕事経験を教えてください」という質問をするとします。そのとき「当時の状況 (Situation)」、「そこで抱えていた課題(Task)」、「自分が取った行動(Action)」、それによって「得られた成果(Result)」を順番に掘り下げながら確実に聞いていくのです。
どのような質問をすればどのような性質の答えが得られるかを文字通り構造化して持っておくことで、面接官が質問の意図を理解し、そこで返ってきた内容をどのように評価すべきかまでトレーニングできます。それによって面接や面談を受けながらも、候補者が「この企業はやはりこういうことを知りたいと考え評価してくれる」という印象も一貫させることができ、結果的に採用活動の向上にもつながっていきます。
埋もれた競合優位性(外から見た価値)を誰もが言語化できるようになりましょう。私たちは転職で入った人とのキャッチアップ面談時などに(本人の了解を得た上で)この会社に入って良かったことを教えてもらっています。すると、自社では当たり前だった学習手当がすごく好評など、思わぬところで褒めてもらえます。こういった「中から見たら当たり前だけど、外から見るとすごくいいこと」は定期的にまとめていくといいでしょう。
仕事における満足・不満足が何によって引き起こされるかを分類したハーズバーグの二要因理論(動機付け・衛生理論)があります。「満足」に関わる要因は「動機付け要因」に分類され、 「不満足」に関わる要因は「衛生要因」に分類されます。
継続成果= スキル X 動機付け要因 X 衛生要因
「動機付け要因」は、仕事を行う中での目標達成や自分が認められること。責任やポジションが与えられる、昇進(報奨)が得られるといった欲求が満たされるところから生じます。
「衛生要因」は、会社の組織体制やマネジメントのあり方、仕組み、給与や福利厚生、職場環境、人間関係の欲求から生じます。「衛生要因」は満たされたからといって満足度が上がるものとも言えず、それらが満たされた状態で安心して仕事に取り組めるものです。
峰岸啓人(株式会社サイバーエージェント技術人事本部)
我々が定義している伸びしろ人材とは、将来的に「会社・組織・チームを牽引できることができる人材か否か」です。それを測るために大事にしていることが3つあり、 1つ目が「信頼できるパーソナルを持っているか」です。言っていることとやっていることに矛盾がなく、しっかりとアクションを起こせる行動者であるかが大事だということです。
2つ目は「周りがついて行きたいと思える人物か」です。
オーナーシップ・フォロワーシップのマインドを持ち合わせていることは、チームで開発を進める上で必要不可欠だからです。
3つ目は「素直でいいやつであること」です。これはイエスマンということではなく、物事の変化や周囲の意見を素直に受け止めることができ、変化に柔軟に対応できる人であることを指しています。
この3つが備わっている人材であれば、入社後活躍できる組織だということです。