映画「アバター」のコンセプトとしても採用された、自然の木々が知性を持ち、互いに意思疎通し合う共生のメカニズムが実証されるまでの過程を記した一冊。
材木会社が伐採後の植樹に相次いで失敗するのを目の当たりにした著者は、農業のようにビジネス上の効率性を優先し、商品価値のある単一樹木の栽培のために、それ以
...続きを読む外の草木を競合と見做して排除する政府の「自由生育政策」が、森の多様性を阻害しているのではないかと考え、伐採地でのプロジェクトを含む多くの実証実験により、森の木々が根に共生する菌類を介して、お互いに養分を融通し合っている事実を明らかにする。
研究結果をもとに発表した論文が、進化は競争のみがもたらすと信じて疑わない学界や、自由生育政策を進めたい産業界から激しい批判を浴びる中、著者はさらに研究を進め、「マザーツリー」と呼ばれる長老的な古木が自らの子孫に優先的に養分を与え、障害を受けた木が周囲に警告を発し、枯れる前の木が周囲の木に養分を譲ることを突き留め、森全体が菌類のネットワークで繋がった「知性」を持つシステムなのだと主張する。
本書は、伝統的な木こり一家に生まれ、山の中で土を食べて育った著者が、ただ感傷的に環境保護を叫ぶのではなく、徹頭徹尾科学的なアプローチによって歴史的転換ともいえる偉業を成し遂げた探求の物語であり、また男性優位の世界を相手に、時に傷つきながら戦い続ける一人の女性科学者の物語でもある。さらには愛する家族との複雑な関係や苦悩と別れ、赦しと癒しの物語が重層的に織り込まれ、読み手の心を掴んで離さない。
木々の繋がりが他の動植物、果ては人間をも含めた全ての繋がりへと昇華する。自然の神秘に科学と精神世界の両面から迫った唯一無二のノンフィクションである。