私と同じ年代なら、この本のタイトルを見れば絶対にCyndi Lauperの名曲“True Colors”を思い出すだろう。いまこの本を手に取る中学生読者にもそのことを伝えたい。
そもそも私が中学生時代に読書に求めたのは、ひたすら“背伸び”だった。友だちが読んでいた三島由紀夫を手に取り、文庫本で薄いからと読み始めた「午後の曳航」で登場する中学生たちの早熟さにしびれた。さらに日常的な中学生活に満足できない私は三島を読み進め、「金閣寺」は難しそうだからと手にした「仮面の告白」を読み、自分の手の届かない世界の存在を感じたものの、それが自分の身近にあるとまでは考えられなかった。
つまり私にとって三島小...続きを読む 説に描かれた世界は、現実感から隔離された“非現実”であり、私が並行して好きだった特撮テレビ番組と同様に空想世界の1つに過ぎなかった。
他方でこの5編の短編集に登場する中学生は、あくまで普通。この本を読む中学生の多くは「ふつうの話じゃん」と思うだろう。たしかに登場人物たちは普通の家族や友だち関係の中で普通の中学生活を送っている。しかしそれだけでは物語にならない。そこに仕掛けられた、日常のなかに突如姿を見せた非日常(あるいは違和感)をどう受け入れるか。
ある中学生にとってはすんなり受け入れられるかもしれないし、ある中学生にとっては成長痛のように軋みとなるかもしれない。だが読書がいいのは強制を求めないところ。そして読んだ者の心にそっと種を宿してくれるところ。
5編のあらすじは載せられている。だが私なりに“日常”と“非日常”という視点から、各テーマの仕掛けに踏み込んで紹介する。
1 To be a Mom:女子中学生が成長とともに避けえない生理(月経)、妊娠、出産がテーマ。中学生の私は生理は始まったけど、妊娠とか出産とか今から考えなきゃいけないこと? ましてや周りからこうしたらいいとかこうすべきとか言われなきゃいけないこと?
2 三月のグラウンド:中学校の卒業式が終わった。香田さくらは中学生活のほとんどを硬式野球のシニアチームで練習に費やし、得意のナックルボールは全国大会レベルだと自信もある。でも高校に進むと女子は男子と一緒に甲子園を目指せない。それが決まりだから?
3 親友のカレ:自己紹介でわたしは「大切にしているのは偏見をもたないこと」とみんなの前で言った。それを聞いてわたしを好きになってくれた彼とつきあい、ある日彼とは恋愛関係から友人になった。その彼が好きな男子ができて付き合うと打ち明けてきた。そのときのわたしの感情って、正直に言って偏見だらけじゃないの?
4 ダイニングテーブル:わたしの家族って理想形じゃない。女性にばかり家事が押し付けられている。向かいに住む同級生の男子の家族はパパが2人。でも家事は分担制だし理想だなって思う。その男子にそう言うと即座に返された-「だれかんちみたく、とか。ガチで言ってんの?」
5 ぼくと、体と。:中学生からはじめた電車通学。満員電車で身動きできない中で、誰かが「ぼくの尻とチンチンと金玉」(原文ママ)を触る。ぼくができることはいろいろ試した。でも今日もぼくは痴漢に襲われた。どうすればいい?
読み終えて改めて表紙を見る。鎌谷悠希さんの女性のイラストがすばらしい。読む前は私も「目がきれいな女性だな」以上の感想はなかった。だが読後はこう思える-この女性はもしかしたら自分が将来出産することを素直に考えられていないかもしれないし、高校進学と同時に男女別になるスポーツを続ける気力が折れそうになっているかもしれないし、男子が好きな男子が同級生にいて自分にだけそれが打ち明けられているかもしれないし、家族のなかで自分だけがという不公平感を抱えているかもしれないし、痴漢にどう立ち向かうか悩んでいるかもしれない、と。少しだけ想像力が広がるようになった。
5編を読み終えたら、シンディローパーの歌を、動画サイトで聞いてほしい。
…But I see your true colors shining through/I see your true colors/And that’s why I love you/
So don’t be afraid to let them show your true colors/
true colors/
are beautiful like a rainbow