多忙なリーダーを救う6つのステップ
1|「目標」を掲げる
2|「関係性」をつくる
3|「主体性」を引き出す
4|「弾み車」を回す
5|「勝手に育つ」仕組みをつくる
6|「リーダーシップ」を磨く
関係の質を向上させるには、関係性ベースのコミュニケーションではなく、目標ベースのコミュニケーションが不可欠なのです。
腐ったリンゴの実験
目標ベースのコミュニケーションの重要性を裏づける論文があります。
オーストラリアのニューサウスウェールズ大学で、組織行動学を研究するウィル・フェルブスのおこなった実験で、「腐ったリンゴの実験」というものです。
フェルプスによると、チームに悪影響を与える人間は3つのタイプがあるそうです。
①性格の悪い人(攻撃的・反抗的)
②怠け者(労力を惜しむ)
③周りを暗くする人(愚痴・不満をいつも言う)
実験では、3つのタイプがチームのパフォーマンスをどの程度下げるのか見るために、 ニックという男性が投入されました。ニックは、マーケティング戦略を立てる5~10人規模のチームに「腐ったリンゴ」として送りこまれ、3つのタイプを演じたのです。
タイプ①「性格の悪い人」では、会議の場で常に攻撃的で反抗的な態度をとります。そんな人がいたら、意思決定にも影響があり、生産性は低くなりそうです。
タイプ②「怠け者」は、受けた仕事に対してこっそり手を抜き、1時間で終わる仕事をだらだらと倍の時間をかけたりします。これも生産性が落ちそうです。
タイプ③「周りを暗くする人」は、愚痴や不満を吐き、周りを暗くします。周囲の人のモチベーションが落ちて生産性に影響しそうです。
では、一番生産性を落としたのはどのタイプだと思いますか?
じつは、驚いたことにどのタイプを送りこんでも、ほとんどの組織が、全体の生産性を約40%落としました。
5人の組織で1人がまったく仕事をしなかったとしても、生産性は5分の1、つまり 20%ほどしか落ちません。10人の組織なら100%ほどでしょう。ところが、腐ったリンゴが1人いるだけで、組織の生産性が約60%に低下してしまったのです。これはいったい、どういうことなのでしょうか。
腐ったリンゴの実験は、私たちに様々な示唆を与えてくれます。
会議で反抗的な態度をとる、少し手を抜く、愚痴を言うといった行動は、日頃多くの人が何気なくやっていることではないでしょうか。
あなたの部下も、今まさに、あなたの目の前でブスッとしたり、手を抜いたり、不満を漏らしたりしているかもしれません。
そういう人物が組織に1人いるだけで、組織全体の生産性が40%落ちるとしたら、驚くべき事実です。
腐ったリンゴの実験をおこなった際、実験の企画者は、腐ったリンゴ役は上司に叱られたり、態度を咎められたりするだろうと想定していたらしいのですが、実際にはそういった叱責や改善を促すアクションはほとんど見られなかったそうです。
それどころか、逆に腐ったリンゴが増えたらしいのです。これがこの実験の恐ろしいところです。
・会議で反抗的な態度をとっていると、会議が終わる頃には、同じような態度をとる人が2、3人増える
・怠ける人がいると、周囲も一緒に怠けだす
・不満や愚痴を言う人がいると、周囲も同じように誰かのせいにして不平不満をまき散らす人になる
つまり、腐ったリンゴ1人が生産性を落としているのではなく、同調する腐ったリンゴが増えて、結果的に組織全体の生産性を落としているのです。
何気ない言動が組織の生産性に大打撃を与えるというのは大変恐ろしいことです。
腐ったリンゴを無効化する人
この実験は続きがあります。じつは、ここからがさらに面白いのです。
腐ったリンゴはやはり周囲に影響し、パフォーマンスを下げることがわかったのですが、なんとニックの攻撃が通じないチームがあったのです。
それは、ある1種類のタイプの人間の存在でした。腐ったリンゴを送りこんでもそのタイプの人物がいると、生産性がまったく落ちないのです。
しょうか?
それは、どんなタイプの人物だと思いますか? 態度を指摘し、怒り、改めさせるような人でしょうか?それとも、同調して飲みに行ったりして仲良くなろうとするタイプで
それは、次のような意外なタイプの人物でした。
ニコニコ話を聞き、それでもブレずに目標に向かう人。
腐ったリンゴを無効化する人は、ニコニコと話を聞きます。目くじらを立てて指摘したりはしません。
しかし、目標がブレることもないのです。
「じゃあ、どうしようか」
「ところで、どうしたら目標が達成できると思う?」
そんなふうに大変穏やかに接しながら、目標に向かい続けます。
実験を担当した研究員たちは、最初その存在があまりに地味なので、なぜ腐ったリンゴが無効化されるのかわかりませんでした。
やがて研究が進むにつれて、無効化する人物が「心理的安全性」を高めることがわかってきました。なお、心理的安全性とは、「攻撃される心配がない」という状態のことです。
じつは腐ったリンゴは、組織内の攻撃性を高めていたのです。
組織内の攻撃性が高まると、組織のメンバーは仕事よりも「自分を守ること」を優先するようになります。すると、弱みを指摘しても言い逃れなどの防衛策に奔走してしまい、問題が解決しない状態になるのです。
そんな中、腐ったリンゴを無効化する人物は、ニコニコと話を聞きながら、ブレずに目標に向かうことで、この組織には攻撃性がないことを示し、自分を守るよりも仕事に向かえる状態をつくりあげたのです。
いかがでしょうか?
とても興味深い実験です。
整理すると、関係の質を高めるには、やはり目標の質が大事であり、部下が愚痴を言ったり、反抗的な態度をとったりしても、ニコニコ話を聞き、それでもブレずに目標に向かうことが大事だということになります。
関係性をつくる5つのステップ
ステップ1) ニコニコ愚痴を聞く
ステップ2) 困りごとを解消する
ステップ3) 役割を分担する
ステップ4) 期待を伝える
ステップ5) 共に喜び、共にくやしがる
私もこの20年、様々な組織を見てきましたが、強いチームはMUST基準が高いのです。
たとえば、飲食店の素晴らしいチームは、挨拶の基準がとても高いです。
お客様の入店時の「いらっしゃいませ」という挨拶、この挨拶の基準がどのレベルにあるのかは、飲食店の経営においてきわめて重要なことです。
皆さんも、飲食店に食事に行き、ものすごく感じがよく居心地のよいサービスを受けた経験があると思います。そのときのことを思い出してください。どんな挨拶でしたか?
挨拶の基準の高いお店は、その表情、声色、しぐさに至るまで、全身から「歓迎感」が伝わります。きっとそういう素晴らしい挨拶だったはずです。
MUST基準の高いお店というのは、お店全員でこの挨拶のレベルを徹底します。 これは、やりたい(WANT)とかやりたくないの話ではありません。MUSTなのです。
原監督が就任してから、どのくらいの期間であの常勝チームにまで変革させたと思いますか?
12年です。
原監督は、中国電力の営業職という安定した職場を捨て、購入したばかりのマイホームも売り払い、自宅兼学生寮で365日、24時間監督業に集中したという、とんでもない決断力の持ち主です。
12年間、学生はもちろん入学しては卒業していきます。
最初は、強い選手は青学には入ってくれません。
最初の数年は、入部した学生が門限を破り、練習に注力せずに遊んでしまうのを、どうしたら食い止められるのか悩むところからのスタートです。
生活習慣やルールを守らせるだけで、3~5年かかったそうです。
結果が出るまでの12年の間、原監督には何度も退任のピンチが訪れたはずです。
就任3年で箱根駅伝に出場できなければ退任するという約束でスタートし、3年では結果を出すことができず、退任を迫られましたが、当時の学生たちに「原監督を辞めさせないでくれ」と懇願されてなんとか留まりました。
選手たちの生活習慣がようやくできあがって、5年目で予選会を突破して箱根駅伝に出場。
その後、スター選手を採用しようと頑張ってみたり、やっぱり実力があってもマインドがダメだとうまくいかないと悩んだりしながら、粘り強く土壌づくり、仕組みづくりをおこなっていきました。
常勝の秘訣は、目標管理
ビジネスマン出身の原監督は、目標管理を取り入れます。
目標管理ミーティングを定期的におこない、目標管理シートに目標を書かせ、 可能な限り具体的に書くようにさせたそうです。
インターネットで「青学 目標管理シート」と検索すると、事例が出ているのでぜひ見てみてください。
驚くほどシンプルな1枚の紙に、学生たちが目標を書きこんでいます。
この目標管理ミーティングは、学生をランダムに5~6人でチームにさせ、目標の設定についてお互いにアドバイスし合います。このランダムというのが肝心で、学年も立場も異なる人で集まり議論することで、目標を客観的に見ることができ、チームに一体感をもたらすのだそうです。
弾み車を回す5つのステップ
ステップ1) 「2:6:2の原則」で上位2割を変える
ステップ2) 「加点主義」で小さな変化を喜ぶ
ステップ3) 「ベンチマーキング」で高い基準へと引き上げる
ステップ4) 変化する際は「説明責任」を果たす
ステップ5) 「北風アプローチ」をやめ、「太陽アプローチ」を貫く
組織は拡大すると弱くなる
これまで、目標を掲げ、関係性をつくり、主体性を引き出し、弾み車を回す方法をお伝えしてきました。
次に重要になるのは、勝手に育つ仕組み「自働化」です。
チームづくりをオートメーション化する必要があるのです。
というのも、組織は拡大すると弱くなります。「成長のない拡大は膨張」と言われますが、そのとおりです。
チームで成果をあげるようになると、組織は拡大していきます。
すると、少人数の頃は素晴らしいチームだったのに、いつの間にか人数が増え、組織が弱くなってしまうのです。
この現象を、経営者たちはよく「血が薄くなった」と表現します。
チームの強さは1人ひとりが目標に燃えているかで決まります。組織が拡大すると、目標に燃えない人が増えてしまうのです。
拡大しても強くするにはどうしたらいいのでしょうか?
努力しなければ、組織は弱くなる
もう1つ問題があります。
それは、人が楽をしたがる生き物だということです。
強いチームをつくって成果を出すには、やはり努力が必要です。変化にも適応しなければなりません。
そのような改善活動や目標へのエネルギーは、歳をとるにつれて落ちていきます。体力が衰えれば、気力も落ちていく。哀しいことですが、いつまでも若い感覚のままではいられないのです。
だからこその自働化です。
自働化の働は「動」ではなく、ニンベンがついた「働」です。自ら動く=作業するのではなく、自ら働く=目標に燃えて成果をあげる。
弾み車が回ってきたと感じたら、この自働化に取り組んでみてください。
また、弾み車が回るまでいっていなくても、先にこのステップに着手しても問題ありません。育成の仕組みを自働化することは、どの段階でも役に立つことです。
勝手に育つ仕組みをつくる5つのステップ
ステップ1)「人ザイ・マトリクス」で全体像を設計する
ステップ2)「見える化」で勝手に育つ仕組みの土壌をつくる
ステップ3)「3つの教育」で育つ仕組みを設計する
ステップ4)「3つの仕組み」で勝手に育つ仕組みを稼働させる
ステップ5) 育てずに育つ「ゴール指示法」
部下に期待していいのは「未来」だけ
部下に期待するのはよいことだ、と思っていませんでしたか?
いいえ、その限りではありません。期待していいのは、部下の「未来」に対してだけです。
優れたリーダーは、自分の中で部下に対する期待値のコントロールをしています。そもそも、部下の「現在」に対してほとんど期待をしていません。
期待値をぐっと下げれば、必ず褒めるポイントが見つかります。
リーダーの3つの面
人望を研究するなかでもっとも実用的だと感じたのは、弁護士の中坊公平さんが提唱する「リーダーの3つの面」です。
これを理解すると、人望の高め方が見えてくると私は考えています。
・正面の「理」
・側面の「情」
・背面の「恐怖」
正面の「理」とは、ロジカルに説明し、相手を納得させる力のあるリーダー。
そして、側面の「情」とは、周囲の人と愛情深く関わる温かいリーダーです。
最後の背面の「恐怖」とは、この人は裏切れないと思わせる、ほどよい緊張感、ある種の怖さを抱かせるリーダーを指しています。
正面の「理」を強化するには、「言語化」と「理由づけ」が重要です。この面が弱い人は、感覚や感性で仕事をしてしまっており、自分の考えを言葉にしたり、表現したりすることが苦手です。
なぜこの仕事をするのか、この仕事をするとどんな価値があるのか、自分が考えていることを言語化し、仕事の理由づけをする習慣をつける必要があります。
具体的には、「文章を書く」ことを推奨します。
感覚で話す人は、その場の勢いや感情で話を進めてしまうため、言語化がおろそかになってしまいます。
日々の日報や業務報告書など文章を書くときに、これは正面の理を磨くための文章作成なのだと認識して取り組むと、強化されていくと思います。
側面の「情」を強化するには、「関心を示す」「声がけ」が有効です。この面が弱い人は、 あまり声がけをしていません。
「仕事の進捗は大丈夫? 何か問題ないかな?」「よく頑張っているね」そういった自分の心境や相手への関心を言葉にしていないので、非情な人と見られてしまうのです。
具体的には、「関心を持つ」ことはアクションにしにくいので、「声がけ」からスタートすることとおすすめします。
部下が今どんな気持ちなのか聞いたり、自分が相手に期待していることを言葉にしたり、 関心を持っていたらするだろう言葉を口にすると、部下が生き生きとうれしそうに仕事をしだすことに驚かれると思います。
上司に関心を持ってもらうことで、部下はモチベーションが急激に高まるのです。
そんな部下の様子を見て、もともと関心が薄かった人でも、徐々に高めていくことができます。
そこで、改めて人望の厚いリーダーを観察し直してみると、彼らは決して「恐怖」を前面に出していないことに気づきました。
彼らはみな「理」も「情」も強いのですが、それ以上に「志」が強いのです。
絶対に達成する、なんとしてもやり遂げる、この志が強く、その志を「なぜやるのか」 という理由づけと、それをおこなうことで皆が成長できるという愛情と情熱、この熱量が高いことによって、「この人の志を応援したい」「この人の志は邪魔できない」「この人を裏切ることはできない」という緊張感を生んでいたのです。
高い志に向かい、まっすぐに進む姿を見て、人はその背面にほのかな恐怖を感じるのです。
背面の恐怖を強化したければ、恐怖を強める必要はありません。志を高め、「理」と 「情」だけを強化すれば、「恐怖」はほのかに立ち上っていくのです。
チームをつくる施策とは、
1人ひとりが「目標」に燃えるようになり、目標をベースにしたコミュニケーションで「関係性」がよくなり、1人ひとりが問いを持って目標を立てることで 「主体性」が高まり、抵抗勢力にくじけることなく「弾み車」を回し続け、「勝手に育つ」仕組みを自働化させて改善し続ける状態を構築し、「リーダーシッブ」を磨くことで尊敬される人格を獲得していくアクションである
その一方で、チームを壊す施策とは、
目標アレルギーを引き起こさせてやらされ感を生み、結果を重視して関係の質を落とし、リーダーがいなくなると関係性をベースにしたコミュニケーションでバラバラになり、抵抗勢力にくじけて活動が頓挫し、組織の拡大化でどんどん目標へ向かうエネルギーが下がり、結果を急いだり、過度な期待を向けることで部下を追い詰めるリーダーシップを発揮すること