笑顔あふれる女学生に何があったのか… 豊潤な心理描写が美しい物語 #名探偵たちがさよならを告げても
■あらすじ
比企高校の国語教師、久宝寺肇はミステリー作家でもある。しかし彼は癌で亡くなっていた。学校に通う女子高生の深野あずさは、同じく国語教師の辻玲人から久宝寺の遺稿を探すように言われる。彼女はその遺稿を発見するも、不可能犯罪を描く殺人事件のプロットだったのだ。そしてそのプロットとおりの死体が発見されてしまい…
■きっと読みたくなるレビュー
笑顔あふれる女学生たち、素敵な装画に癒されますね。今年いちばん好きな装画かもしれない。
しかし中身はそんな生易しいものではありません、見た目に騙されてはダメですよ。おそらく、するっと1回読んだだけでは、ぼんやりとしか理解できない。じっくり時間をかけるか、何度か繰り返して読むことをおすすめします。
本作は女子高生の深野あずさを中心に、学園内で起こった事件の謎を解くミステリー。病気で亡くなった先生が遺したプロットとおりに事件がおこるという見立て殺人。しかも部屋が外から密閉された状態という不可能犯罪なんです。
…ということは、学園青春ものと本格ミステリーとあわせたようなお話かなって思いますよね。もちろん事件の謎解きの面白味はあるんですが、それはメインの読みどころではありません。
この物語は過去の不幸なできごとも関連してくる。教師である辻玲人と東堂は久宝寺の教え子であり、かつて共通の女友達が亡くなってるんですよね。
そして本書の扉に「死ぬまでにやりたいことリスト」があり、その中に「探偵になる」と書いてあるんです。深野あずさがそのとおりこの事件の探偵役になっていくのですが、そもそもなんで探偵になる必要があるのか、よく分からないんすよね… なんでも猪突猛進に取り組む人間性ってことくらいしか描かれない。
ミステリーとは何か、探偵とは、トリックとは、犯人とは…?
小説とは何か、作家とは、読者とは…?
そして我々は何のために生きているのか…?
名探偵論から作家・読者論、果ては哲学の世界まで足を突っ込んで、深く描かれていく。不可能犯罪の謎解きだけでなく、どういう出来事だったのか? 一連の事件はなぜ起きたのか? 関わっていた人物にどんな背景があったのか? というもっと深い部分での謎解きを楽しめるんですよね。
ちょっと言いすぎかもしれないので、この辺まで。あとはじっくり読んでお楽しみください。また先生の文書は柔らかくて好み、また想像力が豊かで、文字を追っていくうちに物語の中に吸い込まれそうでした。
■ぜっさん推しポイント
実はかなりセンシティブなテーマを扱っています。終盤になると様々な真相や登場人物の背景が描かれ、とてもじゃないけど、自分には抱え込めなかったな…
特にかつての友達沙奈枝の真相に関しては、現代だとかなり覚悟がいる内容じゃないかな。この作品を書き切った藤つかさ先生の魂がにじみ出てましたね。