「当事者は嘘をつく」というのは著者が、体験した性被害の経験について語るとき、自分は嘘をついているのではないか、という考えが拭えないということを意味したタイトルである。
性被害にあった人間が修復的司法というケアの方法を通してどのようにサバイブしていけるのか、ということを主軸に、そこから無限に枝分かれ
...続きを読むするさまざまな重要な事項へ触れていく。それらのことは読者自身が何らかの被害体験を持っていなかったとしても、特別に響いてくるものがある。なぜなら、それは誰もが経験する「傷つけること/傷つけられること」に結びついていて、それらをどう扱うかということをこの本は語っている。
また、自助グループでの体験やケータイ小説を書くといった、いわゆる医学的なキュアの方法に頼っていない(精神科医に裏切られた体験への記述もあるのだが…)著者のユニークな足取りは、取っ付きやすく、力強く、それでいて誠実な、彼女にしか描けないラインであると感じた。その感覚は「急に具合が悪くなる」を読んだ時の、この物語はこの人にしか書けないものなのだという共振の感覚があった。つまり魂本(ソウルブック)……
ケアとキュアは違って、前者はより回復者の主体性、当事者性を担保したものであるという記述も重要だった。そして著者は、被害者の近くで支援者として関わる人々の中に、観察的な立場から二次被害的に被害者を扱う人間がいることを厳しく指摘する。
ユマニチュードに関する記述などもあって、自分が関心を寄せるトピックに関する記述が多数出てきた。
傷ついた人々(自分も含めて)がいかにして自分のことを語り、生き直すことを始めるのか、そしてその時に放つかがやきのようなものに、自分はもしかしたら惹かれているのかも知れないと思ったりした。