主にロシアからとされるサイバー攻撃に関する過去10年ほどのトレンドや背景がまとめられた一冊。
ウクライナに対しての攻撃のみでなく、エストニア、ジョージアなどへの攻撃についても言及している。
DOS攻撃からワイパー的な攻撃への変遷など、サイバー攻撃の高度化の流れについても分かりやすい。
アメリカ、イ
...続きを読むスラエルからイランに対する攻撃である、いわゆるスタックスネットについても制御システムへのサイバー攻撃のパンドラの箱を開けた例として触れている。
産業用制御システムを含めて、インターネットに接続されたものが如何に脆弱であるかを示すストーリーが多い。
電力など、インフラへの攻撃が如何に深刻になるか警告してくれている。
海運大手のマークスや病院に対するサイバー攻撃事例など、被害を身近に感じさせる事例が印象的である。
事情を知る人物への調査を上手く織り交ぜている。
ウクライナの地政学的な立ち位置などにも一部言及している。
サイバー攻撃は攻撃側、防御側が軍民を問わず対象者になりうる。また、攻撃が成功した場合は、被害の深刻さや非人道性なども制御されない可能性もある。非常に非対称的かつエスカレーションへのコントロールが困難である。
サイバー攻撃のリスクを無くすためには、本書でも一部言及があるように、極論としてはインターネットとの接続を断つことだが、これは現実的ではない。
本来サイバー攻撃に対する非難や対策を呼びかけるべき国家国家間の同盟なども対応が鈍い。(本書の場合アメリカやNATO)
デジタル版ジュネーブ条約の道のりは程遠いとあとがきにも記載がある。
本書では国家の反応の鈍さに対する主だった考察はなかったが、サイバー攻撃が犯人特定や全容解明が難しいことだけでなく、それぞれの国家が自らも持つ攻撃手段を否定することを避けるために、サイバー攻撃への反応が鈍くなっていることも想像できる。