気候変動で雨がふらなくなり、水が配給制になっている未来が舞台。世界中で水を求めての戦争が起こっていて、成人男性はほとんどが戦場に送られている。
11歳のオーデン・デアは、母親といっしょに、最近なくなったおじさん(母親の兄)の暮らしていた家へ越してきたところ。おじさんは科学者だったが、とつぜん心臓麻
...続きを読む痺で倒れて帰らぬ人になった。
家についてみると、部屋の中がめちゃくちゃに荒らされていた。そして数日後、オーデンがひとりでおじさんの大学、トリニティカレッジの研究室に入りこんでみると、そこもやはりめちゃくちゃに荒らされていた。おじさんには何か秘密があったのでは。もしかして……殺されたのでは?
そんなときオーデンは、クラスメートで、トリニティカレッジの構内に住んでいるヴィヴィという少女と仲よくなる。ヴィヴィは生前のおじさんとも親しかったらしい。そしておどろいたことに、おじさんがオーデンに残したのと同じ隕石の片割れをおじさんからもらっていた。その隕石と、おじさんからのメモを手がかりに、オーデンとヴィヴィはおじさんの物置を捜索。なんと地下の部屋からロボットを見つけだした。ロボットは「パラゴン」と名乗った。
身内が科学者で、その研究ゆえに何者かに命をおびやかされ……というのは、けっこうよくある展開なのだけれど、ロボットのパラゴンがからむことで、ぐっと魅力が増している。シェークスピアやエミリー・ディキンソンを暗唱し、「皮肉」や「ユーモア」を解するパラゴン。おじさんはいったいなんのためにパラゴンを作ったのか。
じつはオーデンは「先天性色覚異常」で、ほとんどの色が判別できない。だからきっとおじさんは、生前に語っていたように、色覚異常を治す装置をつくってくれたのだとオーデンは信じている。しかし実は、パラゴンにはそれ以上の使命が課せられていた。そして、パラゴンを追う者たちの包囲網がしだいにせばまる……。
パラゴンのなかに秘められた謎。追っ手たちとの息詰まる競争。色覚異常をめぐる、そして戦場にいるはずの父をめぐる、オーデンの葛藤。終盤はスピーディな展開でぐいぐい読まされる。ヴィヴィの意外な能力と活躍もいい。
【このあと、ネタバレではないけど少しツッコミ】
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ひとつだけ難を言えば(こういう科学者モノにはつきものなんだけど)おじさんがこれ(レインボーマシン)を秘密にしていたこと、なんだよねえ。いちおうかつての研究仲間のトレブル博士もツッコミを入れていたけど。すべて完成してから公表したかったというけど、こういう趣旨なら協力者をつのりながらやったほうがぜったいうまくいくんじゃないのかな。
もっとも、当局(水配給庁)は、防衛のためのロボットを開発することに血道をあげていたから、それ以外のわけのわからない研究には横やりを入れていたかもな。
大人のSFだったらそこらへんをもう少しくわしくごちゃごちゃと書かないと、納得してもらえそうにないけど、児童書だとかえって邪魔になっちゃうかな?
でも、全体としてはとてもよくできていて、すっきりしたエンディングも爽快でした。