野村俊明の作品一覧
「野村俊明」の「医療系のための心理学」「刑務所の精神科医――治療と刑罰のあいだで考えたこと」ほか、ユーザーレビューをお届けします!
- 作者をフォローする
- フォローすると、この作者の新刊が配信された際に、お知らせします。
無料マンガ・ラノベなど、豊富なラインナップで201万冊以上配信中!
「野村俊明」の「医療系のための心理学」「刑務所の精神科医――治療と刑罰のあいだで考えたこと」ほか、ユーザーレビューをお届けします!
ビジネス・実用
ビジネス・実用
Posted by ブクログ
とても面白く、学びが深かった。
安易な共感にも批判にも与しない抑制された語り口、時々顔を覗かせるユーモア、具体的なエピソード。エッセイなので読みやすいが、決して浅くはなく、どれも塀の中の人たちへの理解を深めるのにとても有用だった。
睡眠薬を増やしてもらう受刑者のふるまいを「セリでもやっているかのように」と表現していたのは秀逸。
印象に残った部分を箇条書きで残しておく。
・エピソードで強い衝撃を受けたのは累犯窃盗の中年女性の話。
娘に対して依存気味で、親離れして大学生活を謳歌する娘の気を引くために万引きに走った母親がいた。淡々とした描写だが、どこにでもいる拗れた親子だと強く思った。
まさに私も、それまでべったりした母子関係だったのが、大学入学を機に一気に外にひらけていくのに母親はついていけず、衝突を繰り返した時期があった。
この女性と私の母親をわけたものはなんだったのだろう。思ったより紙一重だったのかもしれない。寝る前に横になって読みながら、そんな思いにふけって不意に泣きそうになった。
・私が今通っている山谷のドヤ住まいや路上生活者のおっちゃんたちも、ここに出てくる受刑者たちと一続きなのだと改めて感じた。
一見ばらばらに見える自分の関心分野が実は繋がっていることに心強さも感じた。
『そもそも決して豊かとは言えない家庭で育ち、低い学歴のまま就職し、若いうちは就労しているが加齢とともに職を失う。やがてホームレスになる。運が良ければ食いつないでいけるが、Dのように窃盗をするしかなくなる者もいる。飲酒やギャンブルがこの過程を加速することもある。無銭飲食という名の「詐欺」で収容される場合も多い。力に自信があり気性が荒ければ強盗になる者もいるだろう』
・明らかに精神疾患があり責任能力を負えないように見える受刑者も実は中にたくさんいるとの指摘は、虚をつかれた。
お金がなくて国選弁護人はそこまでしてくれない、そもそもありふれた犯罪にそこまではやらない、など色々事情はあるが、『刑法39条をきちんと運用するのであれば、本件犯罪の大小ではなく、被疑者の精神状態の評価こそが重要である。もっと公平な運用がなされるべきだと思われてならない』
まさにその通りである。私が見てきた精神鑑定ありの裁判はやはりそれなりの規模の事件ばかりだったので、この点にはこれまで気づかなかった。
『この先生に意見を聞けばこういう判断が返ってくるという予見のもとに精神鑑定が依頼されることが少なくない』というのも、まあそうだろうなと思うが改めて認識をした。
・受刑者の老いと病と「刑の執行停止」についての記述も大変興味深い。
『受刑者が重大な病気になって回復が見込めず、医療刑務所でも管理が難しいと判断されると「刑の執行停止」が行われる。たとえば癌の末期で余命いくばくもない場合などがこれに該当する。刑の執行停止の是非を判断するのは、なぜか検察官の権限である。刑を言い渡すのは裁判官なので、どうして検察官なのか不思議に思ったが、とにかくそうした決まりになっている。ただ検察官はふつう自分が起訴して受刑した元被告の受刑後の経過を把握しているわけではない。(中略)だから刑務所の側から検察官に情報提供をして、受刑の意味がないことを伝えなければいけない。しかし、これは刑務所からするとたいそうハードルの高い行動らしかった。現場が相当に困っていても、色よい返事をもらえたことがなかった』
なるほど、こんな問題もあるのか。
・「人が変わることがあるとしたら、求められた反省ではなく自己肯定感の中からであると思う」
きっとそうなんだろう。
総じて、今後刑務所や加害者について考えていく上での指針を示してくれる本だった。ありがとうございました。
Posted by ブクログ
矯正施設の受刑者や非行少年たちの中には、一般社会よりも高い割合で、精神障害の方や、学習面や身体面に困難さを抱えて社会に適応できずに道を踏み外してしまった方がいるとされる。
本書は、そうした矯正施設で精神科医師として20年以上勤務した著者のエッセイである。著者の野村先生は、哲学、臨床心理学を経て、30代後半で医学の道に進んだという。この“回り道”が、野村先生の医師としての懐を深いものにしていることが、本書を読むと伝わってくる。
野村先生は、このトレーニングをすればいい、この治療でどうにかなる、ということを軽々しく言わない。むしろ何度も医療の限界を述べ、それでも試行錯誤して、根気強く、支持的に対応をしようとする。落ち着いた口調で、殊更に煽ることなく、淡々と語られる塀の中の精神医療は、非常に心を揺さぶられる。
先日も刑務所の受刑者には再犯者が多く、高齢化も深刻な状況であると報道されていた。このため国は矯正施設にリハ職である作業療法士を配置したり、触法者の地域定着支援をしたりしているが、なかなか思うようにはいっていない。自助ができず、互助、共助の力も落ちている今、矯正施設が彼らのセーフティネットとなっている。
堀の中の人たちにも人生がある。本人、家族、被害者、それぞれの人生が入り乱れ、交わる。もしかしたら、この人生は自分の人生だったかもしれない。そう思い、読み通した。
Posted by ブクログ
刑務所勤務のお医者さんのお話を、居酒屋とかで話しながら聞いてる感覚になる本だった。エッセイ形式なので読み進めやすい。
刑務所に来る人や出て行く人にそこまで思い馳せたことがなかったので、どういう人が来てどういう困り事を持ってそうか知れたので、知識が広がった。
そして犯罪者自体も、当然ザ・極悪人以外もいるわけであり、その人たちはたまたま国のルールでNGとされることをしてしまったのだなと解釈した。著者も書いていたが、私も何かのボタンの掛け違えがあれば、刑務所に行く側になっていたかもしれないと思う。
再発防止のために出所後支援を行うことが、社会的にも良い(犯罪自体も減るし、犯罪したら2度と通常の居場所に戻れず刑務所と娑婆をループしなくてよくなる)という考えが、現実的だし人に優しい対応だなとは思いつつ、犯罪の内容やその人の気質次第で難しいこともあるんだろうなぁと思い馳せた。
Posted by ブクログ
分類は刑事法の中の矯正ということになってますが⋯まぁエッセイですね。
タイトル「刑務所の」とありますが著者が勤務されていたのは医療刑務所だったり少年刑務所だったりで、収容されている人たちの犯罪の種類や重さもさることながら、年齢や病気の種類、病状の軽重など実に様々な人たちと関わってこられたことが綴られています。
他にも大学の先生になられたり頼まれて精神科病棟の医師になられたり様々な場所で受刑者だけでなく一般の精神病やADS患者、認知症と思われる高齢者などに関わられたということで、実務の中でしかわからない興味深い話がたくさんありました。
様々なケースを語られる中で「こういう点についてこうしたらいいと思うが」や「このあたりのことは外国と日本の違いがあって考えさせられる」や「こういうやり方がいいと自分は思って周りに聞いてみたが」というような、ここを改善したらいいのではという意見や提案や問題点の指摘などもあり、確かにそうだなと思うこともあったけれどだからこういう啓発をしたとか、どこかの機関に働きかけたとか、提言を挙げて改善に努力したということはなく、その点でも実用書や教養書的位置づけというよりはやはりエッセイですね。
頷くところはとても多かったです。
洗練された心理学的手法ではなく福祉的な配慮と根気強い支持的な対応なのである(p55)
医療刑務所に収容されるような人およびその家族に必要なものはそういうことだと自分も思うが、そのようなところに収容される事態になるまでに福祉的なところと繋がってそのような対応をされてきていたなら、そもそも刑務所に収容されるような事態にはならないで済んだだろうにと思えてしまいました。
精神鑑定が必要かもしれないと思われる被疑者であっても精神鑑定を受けていない、受けさせていないケースがほとんどだということには衝撃を受けました(著者の勤務していた当時で今も同じかは分からないが)
刑法39条をきちんと運用するなら被疑者の精神状態の評価のために精神鑑定というものが公平に運用されるべきだというような提言には深く頷きます(p84)
精神障害が疑われる被疑者の司法手続きや処遇が標準化されないと空しい(p89)著者のやりきれなさを感じます。
読んでいて時代を感じたのは、ADSが母親の育て方のせいにされていたということ(p119〜)かなりの長い期間、自閉症は育て方の問題とされて本当に多くの親たちが苦しんできた歴史があります。現在でさえも、自閉症について関心や知識のない人にはそのように誤解している人がまだ少なからずいます。
医学的にまだ分からなかった時代の話とはいえ辛い話でした。
そういえばその前段で触れられている(p115〜)アスペルガー障害という言葉も、一時流行りのようにあちこちで耳にしたものでしたがいつの間にかぱったり聞かなくなりました。その始まりと廃れていった経緯が本書を読んでよく分かりました。
(p136)受刑者を医療施設へ移すということの困難さ(その費用をどこで持つのか、誰が対応し手続きをするのかなど)は如何にも日本的だなと思いました。
触法精神障害者などの対応も福祉なのか司法なのかどっちつかずになっているケースがとても多いと思います(司法福祉という対応の仕方が導入されてきた地域も増えてきてはいるようですがまだまだ公平とは言えないのではないかと)
(p148)法律の論理と医療の論理は違うのだと実感した
フィンランドの刑務所の章はルポでしょう。(p162〜)
生まれた子供をそのまま刑務所で母親が育てることができるということに衝撃を受けました。そういう国があるのだなと。福祉が進んでいる国の考え方は違うなと思い著者がいうように子どもの人権について考えさせられます。でも日本ではやはりそのようにすることは考えられないでしょう。
文章がところどころ自分には冗長に感じられる個所がありましたが、貴重な記録だと思います。