野村俊明のレビュー一覧
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とても面白く、学びが深かった。
安易な共感にも批判にも与しない抑制された語り口、時々顔を覗かせるユーモア、具体的なエピソード。エッセイなので読みやすいが、決して浅くはなく、どれも塀の中の人たちへの理解を深めるのにとても有用だった。
睡眠薬を増やしてもらう受刑者のふるまいを「セリでもやっているかのように」と表現していたのは秀逸。
印象に残った部分を箇条書きで残しておく。
・エピソードで強い衝撃を受けたのは累犯窃盗の中年女性の話。
娘に対して依存気味で、親離れして大学生活を謳歌する娘の気を引くために万引きに走った母親がいた。淡々とした描写だが、どこにでもいる拗れた親子だと強く思った。
まさに私も -
Posted by ブクログ
矯正施設の受刑者や非行少年たちの中には、一般社会よりも高い割合で、精神障害の方や、学習面や身体面に困難さを抱えて社会に適応できずに道を踏み外してしまった方がいるとされる。
本書は、そうした矯正施設で精神科医師として20年以上勤務した著者のエッセイである。著者の野村先生は、哲学、臨床心理学を経て、30代後半で医学の道に進んだという。この“回り道”が、野村先生の医師としての懐を深いものにしていることが、本書を読むと伝わってくる。
野村先生は、このトレーニングをすればいい、この治療でどうにかなる、ということを軽々しく言わない。むしろ何度も医療の限界を述べ、それでも試行錯誤して、根気強く、支持的に -
Posted by ブクログ
ネタバレ分類は刑事法の中の矯正ということになってますが⋯まぁエッセイですね。
タイトル「刑務所の」とありますが著者が勤務されていたのは医療刑務所だったり少年刑務所だったりで、収容されている人たちの犯罪の種類や重さもさることながら、年齢や病気の種類、病状の軽重など実に様々な人たちと関わってこられたことが綴られています。
他にも大学の先生になられたり頼まれて精神科病棟の医師になられたり様々な場所で受刑者だけでなく一般の精神病やADS患者、認知症と思われる高齢者などに関わられたということで、実務の中でしかわからない興味深い話がたくさんありました。
様々なケースを語られる中で「こういう点についてこうしたら -
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塀の中の事は中々知ることはできない。
長年興味があった。
この本は作者が矯正施設に精神科医として勤めていた時の経験談が書かれています。
作者個人の経験なので限られた範囲にとどまってしまうが、犯罪を犯してしまった人たちの心理がわかることができた。
作者がフィンランドの刑務所を見学に行ったときの言葉が印象に残る。
「私たちはよい受刑者をつくる事ではなく、よい市民を作ることを目標にしている」その言葉についての作者の感想が「日本の刑務所はよい受刑者を作ることに躍起になっていると言われたような気がした」とある。どちらが良い悪いは別にしてこの本を読むとそれを痛切に感じる。
私たちは自分に害を及ばす恐れ -
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少年少女から老人まで、さまざまな受刑者達と向き合ってきた精神科医が接した多くの事例を挙げ、日本における受刑者への精神医療を問いかける。淡々とした口調で書かれているが、非常に重い問題に最前線で接している医療従事者達の苦闘が伺える。
「刑務所が一種のセイフティーネットになっている」という言葉が重い。平穏に暮らしている人々からすれば「見たくない世界」であり、出所してからの社会の受け入れはさらに難しい。認知症を発症している例では刑務所が「矯正施設」とはなり得ずさらに症状が進行する。それが分かっていても、なす術がない。
読み進めるのが重苦しい本だが、自分の周囲で起こり得ない話ではなく、知っておくべき -
Posted by ブクログ
社会から隔離された場所で過ごした後、もう一度社会で暮らさなければならない。元々、居場所が無いような人達が、さらに追い詰められるようなら構造になってしまっているのだろうか。
また、精神病患者が現れたのはここ最近の出来事では無いというのは、興味深かった。確かに、知能などが劣っている人や、落ち着きがない人は昔からいたはずであり、彼らはどのようにして生きたのだろうか。気難しい人というイメージは持たれていただろうが、それでも、現代よりは気にかける人が多分、居たのだろうな。
精神病患者と名付ける事で、より患者は増えただろうが、一方で、彼らを気にかける人は減ったのだろう。このドアの向こうに住んでいる人は、ど -
Posted by ブクログ
刑務所で臨床医として勤めた経験のある筆者が体感し、考えた罪と罰、そして精神医療の在り方について書かれた一冊。
この本には、正解も不正解もなく答えはなにもない。
結論もないし、筆者の一貫した意志や考えがあるわけでもない。
だけど、平坦や冷淡ではなく
自己の主観に縛られることなくフラットな視点で事実が綴られている感覚がある。
少年犯罪からの更生の余地
少年犯罪を取り巻く環境
高齢者、特に認知症を患う高齢受刑者の取り扱い
フィンランドの刑務所
「刑務所」というものへの根本的な価値観
決してどれも答えがない。
けれど、この答えのない問を考えることに価値がある。
そう感じさせてくれる一冊。 -
Posted by ブクログ
ネタバレこの前クリニックへ行ったとき、女医の言葉で分からない点があったけど、この本を読んで合点が行きました。
メンタルクリニックへの通院のハードルが下がり、通院患者の増加とともにメンタルクリニックが増え、その経営のため、うつ病の診断を出される人が増えた面もあるかも、てな記載を見つけたとき、俺と同じことを考えている精神科医もいるんだと苦笑い。
収監者に、精神疾患や発達障害を抱えていたり、虐待を受けていた少年少女や、認知症の高齢者が多かったみたいのもあったけど、著者がかかわっていた時期から20年はゆうに経っているから、今はもっとでしょうね。