金銭的には寧ろ損になるようなことでも、それが誰かの心の救いになるのであれば、彼は依頼を引き受ける。
そして依頼者が頼んでいないことにまで足を踏み込んで、心の蟠りを解いていく。
そこまでしなくてもいいだろうにと思わなくはないが、ただ依頼を終えただけでは解けなかった誤解や心の淀みが依頼者や関係者から消え
...続きを読むているのをみると、そういう探偵がいてもいいのかもしれない。
京都が舞台ということで、登場人物は自然と京都弁を喋っている。
生きた京都弁がそこここに溢れていて、会話を読んでいるだけでも京都のあの雰囲気が伝わってきて楽しかった。
事件の内容は上記の通り、最終的には依頼者たちの心の中にまで踏み込むため、重かったり切ない話が多い印象。
中には暗号を解いて宝物を探し当てるようなワクワクする話も。
非常に難解な謎解きではあったが。
探偵業は凄腕だが、家事全般は全くできないという残念男が文字通り探偵役で依頼を解決していくが、彼の過去もまたなかなかに重い。
元兵庫在住、両親を一度に亡くす、(約)25年前。
作中で直接的な答えは出てこないが、彼が過去に記憶をなくすほどショックを受けたこの出来事は、関西以西暮らしの人ならすぐピンとくるだろう。
そして、彼の過去が見えてくれば、彼が依頼者の心まで救おうとする理由もまた見えてくるのではないだろうか。
前述通り、そこまでしなくてもと思わなくはない。
場合によっては余計なことを依頼者の反発を招くかもしれない。
でも、この作品の京都には、依頼者の心の問題ごと引き受けてくれる心優しい探偵がいる。
そういう存在が救いになることも、きっとある筈だ。
そして、そんな探偵の心を支えてくれる存在が、これからもそばにいてくれることを願ってやまない。
彼の代わりに家事をするという名目で、よく探偵事務所に訪れるナラの存在は、きっと彼女自身が思っているよりは探偵にとって大きなものだと思う。
彼は素直に認めはしないだろうが。