サービスを特定の産業・業界に属するものと捉えるのではなく、機能として捉え、殆どの企業にはサービスという機能が存在するという前提から、サービスを体系的に構築していくためのプロセスが非常に丁寧にまとめられている。
本書が素晴らしいのは、「優れたサービスは現場感覚に基づく優れた属人性により提供される」とい
...続きを読むう世間の通念を覆し、属人性ではなく仕組みを構築することで再現性のあるものとしてサービスを説明している点にある。例えばよく言われる「現場の声が大事」という意見に対しては、その重要性は否定しないものの、「現場感覚なるものに振り回されると、従業員がみんな頑張っているのに報われない、生産性の低い企業になる(本書p4)」との考え方が示されている。
本書で具体的に書かれている「ビジネスモデルを設計する→品質の追求と訴求→安定化と生産性向上→持続的成長への試練」という4つのサービス拡大のプロセスでは、マーケティングにおけるターゲティングの重要性や、生産性向上のためのオペレーション改革のステップなど、サービスに限定されない汎用性がある議論が含まれており、その意味でも有用性が高い1冊。
【以下、個人メモ】
・サービスは目先の損益ベースで考えがちで、短期的な赤字を避けたがる傾向が強い。しかし、サービスであっても、製造業のような工場建設など投資ベースでの考え方が必要。例えば人材に対する投資、顧客への提供価値を実現するために必要なオペレーションの構築への投資など。宅急便創始者の小倉昌男氏による「サービスが先、利益は後」という言葉はこの点を突いている。
・サービスの価値を本質価値と表層価値に分けた場合に、本質価値の部分は標準化が可能な範囲。また、教育における講師など、その属人性が一定程度出てしまうサービスの場合、標準から極めて外れて優秀なサービスを提供するメンバーの存在はデメリットにもなり得る。そうしたメンバーのサービスが広がりすぎてしまうと顧客の事前期待が高まりすぎて、それ以外の平均的なメンバーに対する評価が事前期待とのギャップにより極めて低いものになり、顧客満足度を低下させてしまうため。
・サービス提供時の安定性を高めるための手段の代表例は、従業員のスキルとウィルの向上、分業化、集約化、顧客の絞り込み、標準化、モノへの置き換え、労働力の代替など。特に労働力の代替における顧客の力を活用する手段は、インプットの低下に繋がると同時に、そうしたプロセス自体を楽しむ顧客の満足度向上も期待できる。
・生産性(アウトプット÷インプット)を高めるためには、上記手法によるインプットの低下と単価やクロスセルによるアウトプットの上昇だけではなく、プロセスの最適化も必要。そのためには不定形のサービスにとっては一見難しい需給バランスの調整が不可欠。そのためには需要の平準化と供給のコントロールの2面で考える。