久々に講談社ブルーバックスを手に取った。急にサイエンスに目覚めた訳ではない。新刊書で気になるものはその都度コンスタントに購入していた。元来、科学好きなのだが、何故か積読。つまり他にも読みたい本がいっぱいあるの!積読にはそれなりの理由があるということ。
実は先日、自治体の定期検診で胃カメラを飲んだら、赤い部分があるというので組織を2つ取って貰った。3週間後の結果を聞くのが恐ろしい。そんな折も折、ブルーバックスの新刊書のコーナーに行ったら本書「手術はすごい」が目に留まった。そりゃそうでしょう、Xデーが設定されれば、本書の情報が役に立つ。だから熟読しましたよ。担当医には胃カメラは毎年飲んで下さいと言われた。今回は見栄を張って局所麻酔のみで臨んだが死ぬほど苦しかった。来年は絶対に全身麻酔をかけて貰う!
言い訳はこれくらいにして本題へ。著者は大阪公立大学(大阪府立大学と大阪市立大学が2022年に統合)肝胆膵外科学の石沢武彰教授。今回本書で初めて知った技術をピックアップする。肝胆膵ってミツカン酢の簡単酢と響きが似ている。
〇 肝臓は1枚ではない。
肝臓は8つのブロック(S1~S8)に分かれている。ブロッコリーの様なものらしい。だから、癌の発生しているブロックだけ摘出すれば良い。
〇 何でもかんでも手術ファーストではない。
大門未知子が「早く私に切らせて」「私、失敗しないので」と言ってもそれに安易に乗ってはいけない。手術の前に、化学療法や放射線治療を行って、出来るだけ癌を小さく、癌の範囲を縮小してから手術を行う。患者の負担を最大限に減らすためである。
〇 手術のポイントは切除する範囲の選択とリンパ節の廓清(かくせい:根こそぎ取り除くこと)
癌の転移はリンパ節を経由するので、怪しいリンパ節は徹底的に廓清する。
〇 腹腔鏡手術ではお腹に炭酸ガスを入れる。
他の気体は残存したものは体内留まるが、炭酸ガスは血管を通じてに体外に排出される。
〇 癌の近くには必ず動脈がある。
Doctor Xに出てくるヤブ医者は毎回毎回動脈を傷つけて大量出血してアラームを鳴らしてしまう。それを未知子が手際良く止血する。癌の栄養源は動脈から送られてくる豊富な血液を戴いて発育する。なので、手術の良し悪しは癌周囲の動脈の徹底把握の度合いで決まる。
〇 外科手術にもAI技術が忍び寄る。
CT画像をAiに食わせると、癌を取るべき場所、再発が予想される箇所を提示してくれる。将来は医師免許が無くても外科手術ができるか。あなたもブラックジャックになれる。
〇 電気メスは切除だけでなく止血もできる。
止血と言っても流石に、動脈・静脈ではない。電気メスが組織に触れた時に高熱が発生し、組織・血管を凝固させる。
〇 超音波メスはとても便利
超音波は組織の蛋白質を粘着性物質に変質させ、組織を凝固させると同時に分離する。ある程度の出血は抑えられてスルスルと切ることができる。ただし、ミストが多く発生するので、内視鏡の鏡を曇らせてしまう。
〇 インドシアニングリーン(ICG)は胆管に集まる
ICGを静脈注射するとICGが胆管に集まって来る。ICGは近赤外染料で、760nmの近赤外光を照射すると820nmの蛍光を発する機能性染料。これで他の組織と目視で区別しにくい場所でも、誤って血管や胆管を傷つける確率が減る。実は昔の職場でICGやインジゴカルミンなどの機能性染料を合成していた。様々な波長特性を持つ機能性染料を作ってはレーザー光線を照射していた。これらの染料は蛍光を発するだけでなく光を熱にも変換してくれる。ということは、癌の切除にも使えるかもね。
〇 脂肪肝は肝臓手術の敵
お酒のみの人、超音波検診で脂肪肝って言われたことありませんか?超音波で肝臓がピカピカに光るんですって。実はこの私も脂肪肝です。肝臓の手術の際にはご迷惑をおかけしますことを前以って御報告しておきます。脂肪が多いと術後に脂肪組織同士の癒着が発生しやすい、脂肪の海をかき分けながら血管を探さなければならないので血管を傷つける確率が高まる。脂肪の近くには脂肪に栄養を運んでいく血管も多く存在しているとのこと。
〇 第5章では4件の手術例を紹介している。症例・問診から始まり、治療戦略、手術戦略、手術記録(臓器のスケッチ等)、術後経過、振り返り(反省点のピックアップ)を流れる様に説明している。実はこのスケッチが意外と重要で、後々の手術にかなり役立つとのこと。手術前の術式のイメージトレーニングにかなり有効で、これが頭の中でデータベース化(経験を積むということ)につながり、手術時間の短縮に繋がるそうだ。
Doctor Xに限らず医療ドラマが大好きなので、本書で得られた情報はとても役に立った。最近ではドラマ中の医療ドラマの比率が高くなっており、また、Doctor Xみたいなドラマにこの様な高度医療技術を加えた新しい医療ドラマが出来ないかと密かに期待している。