新興国の技術面でのキャッチアップによる製品・サービスのコモデティ化により、従来の「モノ」を売るビジネスモデルでは有効な差別化ができなくなってきている中、顧客体験を実現する「コト」を売るビジネスの有望な手段として、サブスクリプションビジネスに注目が集まっている。
サブスクリプションビジネスは、単に購買障壁を下げて新規顧客を開拓でき安定した継続収入をもたらすツール というのではない。そのような捉え方でこのビジネスに参入する場合、早晩競争力を失って退場することになる。サブスクリプションビジネスでは、最終消費者との接点を適切に設定し、ニーズの変化を常に捉え続け、状況に合わせてサービス内容を柔軟かつ迅速に変化させていくしくみが不可欠である。つまり、扱うモノが同じでも、新事業立ち上げと捉えて業務プロセスとIT基盤を全社的に変革する覚悟が必要だということである。
IoTやAIといった新技術により顧客のサービス利用状況をはじめとする膨大なデータの取得と分析が可能になってきており、こうした顧客動向をどれだけ把握できているかが差別化ポイントとなってくる中、GAFAに代表されるITジャイアントの影響力が増している。彼らはサブスクリプションビジネスを展開するだけでなく、そのためのプラットフォームの提供者としてもこの新たな成長市場に進出している。そのような中で、各企業がサブスクリプションビジネスにより生き残り、競争優位を築くためには、以下のようなことに留意する必要がある。
●既に専門事業者により展開されているサブスクリプションシステム(契約管理、課金計算、請求、回収管理など)を活用し、新規投資を抑えながら事業展開する。
●モノを扱う業態の場合は特に、調達・生産・物流などに関する既存のERPシステムと連携させて効率的な事業運営を行う。そのためにはAPIを用いた自社システムや外部システムとの連携が有効であり重要。
●どのようなデータをどのように収集し、どのように分析し、分析結果を用いてどのように迅速な意思決定を行うかの指標や組織体制を構築する必要がある。
●サービスの展開や頻繁な変更に対応するために、社内IT部門を強化し、下請けシステム業者の監督者としてではなく、自前でアジャイルな開発を行える体制を構築すべき。特に日本企業が出遅れている消費者向けのシステムやアプリ開発能力の強化が必要。
●既存事業との競合を避け、シナジーの発揮や既存事業の売上向上につながるようなサービス展開を目指す。
●サービス内容は常に見直す。永遠のベータ版と心得るべし。
●ニーズの存在確認やオペレーションの設計とコスト試算などを踏まえて事業化となれば、まずは既存システムを流用して始めてみる(最初から完璧にインフラを整えようとすると投資リスクが上がり社内意思決定に時間をとられる)。