挿入話のアンデルセン童話「沼の王の娘」は、アンデルセンらしく一癖も二癖も読みようによって変わる、およそ“童話”らしくない物語。
その物語を副旋律として作家は現代の問題点を「束縛という最強の暴力の中から生まれた娘」の話を創作した。
ネイティブアメリカンのような生活を描き、あたかもアイデンティティの相違
...続きを読むを理由としているように見えても、実は一人の男のエゴから生まれた悲劇であることを描き忘れてはいない。
生まれた娘は、与えられた環境の中でしか判断できないことから当然に善悪の理解は世間と相違する。前半の「ふりかえり」は、そういった意味からとても重要な悲劇の描写。
物語の後半に入り、大切な家族を持ったことで新たな感情が生まれ、父に対して毅然として対峙するさまが、前半とのギャップを生み出して、読者に深い感情を覚えさせる。
自らの出生の境遇に対し、周囲の目と自らの感情を消化し、社会で自立していくことがいかに難しい事か。
人が人を束縛するという現代社会の問題が加わったことで、「ジャングルブック」など異質の世界で育った子供の社会への順応を描いた物語などとは、一線を隔すことになった。
これは、すぐれたテーマを持った作品だと、私は思う。