1930年に出版されたSF小説。
本作は広大なスケールで語られる人類の物語。20億年にわたって18期(ちなみに私たちが生きている今の人類が第1期)という広大すぎるロングスケールで描かれる人類の変異と文明の興亡を繰り返す姿が描かれていく。
結局は赤色超巨星化する太陽に伴って地球もろとも人類は絶滅してしまうのだが、最後の人類の一人が私たち現行人類にそれまでの歴史を語り聞かせるというスタイルで語られていく。
第一期人類の部分では、今後の世界がどういう状況、社会に陥り、どうして第一期人類が滅びるのかがまず最初に語られる。
1930年代当時だとまだ核兵器が利用される前ではあるが、核エネルギーが開発される描写もある。ちなみにアメリカではなくてフランスがアメリカに利用するのだが、その威力の強大さはまだわかっていなかったのかもしれない。
アメリカはその報復としてヨーロッパに毒ガス攻撃を仕掛けてヨーロッパ全土に人が住めなくなったり、となかなかなことが起きていく。
ちなみにその後は中国とアメリカの2大大国陣営に分かれどちらの陣営に着くかという話になったりと、この辺りは現代から見ても近いヴィジョンになっていて驚く。
また、ある段階から国がなくなり一つの世界連合となる。
国がなくなることで問題は解決するかに思われるが、そんなことはなかった。様々な諸問題は噴出していく。
エネルギー問題はその中の一つ。原子力エネルギー以前の物語なので石油や石炭といった化石燃料ベースの話であるのだが、エネルギー不足が深刻な状況にまで陥ってしまう。
そういった諸々の問題を解決出来ずに第一期人類は滅びる。人類文明はかつてここまで進んだ科学文明があった、というようなアトランティス的な神話のようなものとなってしまう。
一応人類はまだギリギリ僅かに残っている。世界人口が末期では2億人いたのだが、35人にまで減ってしまう。
そして当然この人数で再び人類が文明を作り始めるまで数千年のスパンが必要になる。
この辺りまでは当時の人間の未来ヴィジョンといったかたち。
その後は、その地球を侵略しようと雲のような火星人との戦争になったり、地球自体に住めなくなり、金星に入植しようとしたりと地球だけの話ではなくなっていく。この辺りからはSF要素が強くなってきて飛躍する人類などの荒唐無稽さも出てくる。
人間の外見も私たちが見知っている人の姿ではなくなり、身長が現在の半分以下になったり、3メートルを超える身長になったり、飛翔する人類や知性を追い求めて巨大な脳となる巨大脳人類なども登場したり、姿かたちもどんどん変容していく。そして性別や性愛も多様になっていき、社会的規範や思想も我々が考える規範とは当てはまらないものとなっていく。
当然コミュニケーションも変わっていき、発話によるコミュニケーションからテレパシーを使うものになったりする。その世界ではインターネットのようなテレパシーによるネットワークを作ったりする。
未だにジェンダーロールや社会規範で「こういうものだ」という考えはどこにでもあるのだが、1930年代に書かれた本作がそういった固定観念を軽々と飛び越えてしまう様には驚く。
1930年と聞くと100年近く前でそんな時代にどれだけの未来が見通されて描かれるのか、と思うだろう。だが結局数百、千万、億という時代をロングスケールで見通すと100年前など実はそう昔ではないことに気が付く。
そして100年前同様に未来は霧がかかった未知であるのだと考えると今後の人類に何が起きるのか楽しみでもあり怖くもなった。